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政治の研究No.108 |
公務員 の 給与問題 |
第105回「地方公務員、減給相次ぐ」は思いのほか反響が大きかったので、補足でなくコラムの体裁で書くことにします。
まず始めに、私自身は公務員全体の給与を上げろというスタンスにありません。全体としては下げるべきだと考えています。ただ下げれば良いというのではなく、幹部やキャリアの高給与を下げ、若手やノン・キャリアの低給与を上げるべきだという考えを持っています。加えて現在の俸給表方式による年功給体系から職能給体系へシフトするべきだと思います。
これまで公務員の給与問題は、第63回「行政機構改革はまやかし」、第89回「人勧って、何ですか?」などで取り上げています。公務員の給与問題を論じていくためには、全体として論じるのではなく、ケース分けして論じる必要があると思います。まず毎年公開される公務員の平均給与とかモデル給与というものは、かなりのウソが入っていると言うことです。
年功給体系は年功が上がるほどにどんどん給与が膨れ上がって行くシステムになっています。誰もがたたき上げていくのなら問題は少ないのですが、年功とは別にキャリアと呼ばれる高学歴の公務員はどんどんステップアップして行って、多額の給与を受けられるようになっています。概ね幹部=キャリアと見て良いと思いますが、その給与は民間の同世代・同職能を有する人材と比較してもかなり多いはずです(手当他の支給が複雑があって、試算ができません)。
ところが平均給与には、そうした特権階級の高賃金が埋没しています。確実に平均値は上げているのですが、人数的には少数であるために目立たないと言うことです。またモデル給与の場合、民間の大卒者と比較されることが多いため、どうしてもモデルも大卒者の高資格者を前提としたモデルが見受けられますが、現業公務員の多くは高卒であったりするわけで、また同じ大卒でも採用資格で生涯賃金が違ってきます。
何を言いたいかというと、いわゆる現業に従事するノン・キャリアの給与は安く、中でも若手の給与は極めて安いです。採用資格で決まるスタート地点が低く、かつ昇格に時間が掛かります。大卒で下級資格に採用された公務員は、民間の同世代・同職能を有する人材と比較すればかなり少ないです(これは試算するまでもないです)。第105回の主眼は、このノン・キャリアの給与まで一律カットすることの問題を指摘したのであります。削るならキャリアを削れというのが最終的な主張です。
また読者の方から、この不景気のときに不況の原因を生んだ公務員が賞与を受けるのは問題だ、との指摘もありました。私はそう思いません。まず賞与だけ取り上げるのもどうなのかと思います。たしかに1999年の人勧では賞与が一律0.3か月カットされ、それでも年間4.95か月の賞与が支払われています。民間ベースよりも高い比率です。しかし、公務員の賞与は好業績を残したからと多額に配分されるものでありませんから、本来は年収全体で論じるべきです。明治時代の名残で賞与を厚く、月給を安くする体系が今でも残っていますから。
人事院の勧告では1999年もプラス勧告でした。これは年収ベースで民間との間に格差があると認定したのです。ここでいう民間格差は大企業ベースでなく、中規模企業ベースでの調査に依っています。不況期の調査では正しい調査結果が得られないはずだとの指摘もありますが、それでも概ね反映されているはずだと思います。年収ベースが民間並で賞与が多いということは、当然に月給は安いということです。また、第89回に書きましたように、だいたい5年分のタイムラグが発生しています。不況が長引けば、これから公務員の給与ももっと下がるでしょう。
それから学者の論調で多いのですが、「公務員は終身雇用なのだからもっと給与は安くて良い」というコメントもあります。しかし終身雇用であることと、ずっと働けることとは別ですし、将来的に貰える賃金が多いのだから、若いウチは低い生活水準で頑張れというのも変な話です。今のように年功給が厚かったり退職金が高かったりするのを是正して、本給のみで務めるようなシステムになれば、あっても良い議論かも知れません。
また公務員の終身雇用には否定的です。今回の行政改革では、かなり終身雇用の色合いを残しましたが、そう長くはないでしょう。多くの現業はアウトソーシングなどが進んで、終身雇用の保証が揺らぐはずです。現業のノン・キャリアの終身雇用が揺らぐのであれば、なおさら若いウチからそれなりの給与を支払うべきで、当面終身雇用が保たれるキャリアの方をカットするのが正論でしょう(彼らが途中で天下るかどうかは別問題です)。
公僕なのだから「民間より高い給与を貰うのはケシカラン」というご意見もありました。これも、どうなのでしょうか。生まれながらの公僕ではないわけで、サラリーマンである実体は変わりません。むしろ公務としての公平さ公正さが求められる以上、高い給与であっても良いと思います。もちろん給与に見合うだけの資質と能力を兼ね備えているとの前提が必要ですが、現在のところ採用時しか試されません。また本当に民間より給与が低かった時代の採用者は、少し問題有りな人が多いようです。
たしかに資質も能力も欠きながら、年功だけで管理職ポストに座っている公務員がいます。真面目に働かなくてもそれなりの給与を受ける公務員もいます。癒着や犯罪に手を染める不良公務員もいます。しかし、それは圧倒的に少数です。現状では終身雇用の壁が、彼らを排除することを妨げているだけです。同時に、そういう不良公務員を評価し、あぶり出すシステムもありません。
こうした問題点を解決するには、年功給を止めて職能給を導入するほかありません。第105回の補足に書きましたように、本当に苦しくなった地方自治体では退職勧奨や職能給導入に動いています。民間ではさらに激しい動きが出ているにも関わらず、公務員では出てこないのは、やはり国債や地方債によって安易な資金調達が可能であるからでしょう。業績が悪化しても、借金でいくらでも資金調達できるうちは積極的なリストラにはならないでしょう。
最後に給与低下による士気低下の問題を。公務員は自営業者と比べると恵まれていると思います。雇用は安定し、多くの場合給与は多いです。しかし大企業に比べると、安定はあっても成長はなく、多くの場合給与は少ないです。何より年功オンリーの壁があります。そして自分勝手が許されません。
十分な資質と能力を有し、かつ職務に精励している公務員のためには、見合うだけの給与を支給すべきだと思います。給与が削減されるということは、すなわち自身の能力や業績の評価切り下げであって、自ずと士気が低下するのは間違いありません。また長期的には、人材の質が低下し、一時期潜り込んできたような不良公務員が増えます。最終的には、給与泥棒が増え、結果的には税金の無駄が増えると思います。
反対に幹部やキャリアの給与はどんどん削っても良いでしょう。そもそも地位と収入の両方が満たされる現行システムは異常です。そんな甘いことをしているから、特権意識が育まれ、世間の実勢とかけ離れた政策の企画・立案・運営を行うのです。地位と将来の天下り先を保証するのなら、給与は今よりずっと安くて十分です(天下りを封じることは現状では難しいでしょう。むしろ天下りの旨味を大幅に削る方が有効だと思います)。政策の無駄、経験や能力の不足など厳しく評価していけば、彼らの貰いすぎは是正可能なはずです。
・・・ということで第105回は書いてあるのですが、いかがでしょう? ご意見をくださった皆様、再度のご意見を頂戴できれば幸いです。
00.01.02
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補足1
本文中に「公務員の賞与」と書いていますが、正しくは期末手当と勤勉手当です。前者は限りなく本給の一部で、後者が能力に応じて支払われていることになっています。聞くところでは、昨年当たりから勤勉手当に大きな格差が付くようにしたということですが、現実には評価が難しくて格差が付けられていないそうです。名目上の格差を付けて調整しているとも聞こえてきます。まず、人事評価方法の確立ありきでしょうか。
それから、一見すると同じように見える期末手当ですが、役職が付き階級が上がるほどに数%ずつの加算がされているようです。局長クラスなどでは、数十%にも達しているそうです。このクラスは退職金の算定でも高倍率の加算があるようで、こういう表に出てこない(文字通りの)ボーナスにメスを入れて行かなくてはダメでしょうね。
00.01.02
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補足2
政府は、公務員に能力給制度を導入する意向だそうです。現行の職務給を廃止して信賞必罰を強化し、行政サービスの向上を進めるのが狙いにあります。改革案では、能力給(職務遂行能力に基づく)、職責給(職務の責任の重さに基づく)、業績給(具体的な成果に応じる)に三分割して積算する案が有力だそうです。これらをどう積算するかは検討を進めるようですが、根底から改革する給与体系に成りそうです(実質的に減給も出るそうです)。誰がどう評価するかが、一番の課題に成ります。
一方で、公務員幹部に年俸制を導入することも示唆しています。幹部の定期昇給はなく、職責と実績により毎年支給額を決めるそうです。外部登用への道を付ける考えもあるようです。
01.06.03
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補足3
政府は、国家公務員の給与削減に前向きであるそうです。民間企業の賃下げムードや、霞が関の不祥事顕在化などが追い風となり、「聖域なきスリム化」の目玉に加えたいとのことです。特殊法人改革などが存外に進まない焦りもあり、予算削減を大義名分とした給与削減であるようです。
現在の議論は、一律給与カット、退職金削減にあるようで、キャリア高給の是正には向かわない模様です。人事院は、別途賞与の圧縮と本給への振り替え、諸手当の廃止・削減を検討しており、いずれにしても公務員給与は削減される方向のようです。
また地方自治体の高給も問題視されています。依然として、国家公務員よりも高給を支給しつつ、地方交付税等を受ける自治体もあり、給与水準の是正を打ち出しています。地方自治体では、積極的な合併を促すために職員削減の促進を打ち出すなどしており、全国的に公務員への風当たりは強くなっています。
天下りなどによるキャリア官僚の生涯賃金の高さこそが問題なのですが、それは是正されることなく、平等な給与削減と待遇切り下げ・・になるようです。まず、国会議員の給与や手当の削減を実施し、自ら範を垂れてはいかがでしょう。「隗より、始めよ」が大事であります。
02.06.15
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補足4
政府は、特殊法人など関係団体の役員へ天下りする公務員に対して、省庁退職時の退職手当を支給しない方針を打ち出しています。関係団体を退職する際に、公務員の在任期間を合算して退職手当を支給することとし、二度払い・三度払いを回避するのが狙いであるそうです。
これによると支給額も抑制されることになり、一人当たりの手当を1,500万円程度も圧縮するとのことで、天下りを繰り返す旨味が薄くなるようです。いくつも渡り歩くよりも、一カ所に留まる方が支給額の面で有利なこともあるようですので、関係団体への帰属意識も強くなりそうです。
これに加えて、省庁在職中の退職手当は国庫から支出せず、団体の予算のうちから支出させる(もちろん補助金等で見返りを付けさせない)こととすれば、高額な退職手当が必要ながら能力のない役員の天下りを拒否する団体も出るかも知れません。多額の補助金を引っ張る努力をする役員ばかりでも困りますが、本来は能力があるからこそ受け入れる役員ですから、退職手当の支給に見合う人材だけを受け入れるシステムの方が良いでしょう。
02.11.30
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