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政治の研究No.105 |
地方公務員、減給相次ぐ |
地方公務員の減給が相次いでいます。長引く不況に伴う法人税収入の低迷と、景気対策と称する土木工事の拡大が地方財政を大きく圧迫していることが原因のようです。現在、東京都の給与カット幅が最大で、ついで愛知県・福岡県・神奈川県・岡山県などとなっています。定期昇給の凍結を決めたのは大阪府・千葉県などですが、今後給与カットに踏み出す可能性は大きくなっています。
納税者の立場で言うならば、公務員の給与がカットされて人件費が圧縮されることは好ましいことです。ただし、比較的に貰いすぎている幹部職員に限っての話です。役所の窓口業務等に従事する現業職員や警察署・消防署職員は、給与カットによるモラール低下、ひいてはサービス低下が心配です。行政全体にまだまだ無駄が認められる中で、目先の給与カットや人員削減だけでお茶を濁して欲しくないですね。
東京都の給与カットは、突然でもあり大規模なものです。都知事に就任して日の浅い石原氏が改革の目玉として公務員の給与カットを狙っていたフシがあります。しかも一方的にマスメディアに発表し、職員組合と揉めたようです。世論をバックにして減給を実現し、それをもって石原都政の人気を高めようと言う意図が見えます。
給与カットに先立ち、知事自ら本給を10%、ボーナスを50%返上して見せました。潔いのは認めますが多額の印税もあり資産もある知事のこと、実効性の薄さは否めません。副知事と出納長も本給を5%、ボーナスを30%返上しています。その上で、全職員の本給を4%カットし、ボーナスを10.5%カットすることを表明しました。期間は3年間とのことですが、定期昇給も停止されることもあって3年後に現在の水準以上に回復する可能性は低そうです。
とくにボーナスカットは、公務員特有の3月ボーナス(0.55月分)は制度上おかしいとの筋論でカットされたものと伝わっています。年収ベースでは9%近い大幅なカットになるだけに、都職員のモラール低下が心配です。加えて人事院が今年0.3月分の冬季ボーナスカットを勧告しており、通常同じ結果が反映される東京都で、冬季ボーナスもカットされると年収ベースで12%近い減少になります。
地方公務員もサラリーマン(サラリーウーマン)であることに、変わりがありません。住宅ローンも払えば、子供の教育費も払っています。年収で10%近い落ち込みがあれば、生活が苦しくなる職員も増えるのではないでしょうか。とくに公務員の給与システムは若手に薄く、古株に厚く、というシステムです。我々都民に接するのは若手職員が多いだけに、できれば若手の給与カットは軽減してあげて欲しいと思っています。
そもそも財政赤字を拡大してきたのは、都民にサービスを提供している若手や現業職員に責任が無い話です。納税者の意識に立ち、正しい税金の使い方をしてきた現業部門が、これ以上の経費切り下げや人員削減の負担に耐えかねているのは、見過ごせません。
公務員の評価システムは、減点方式です。しかし稟議書を回して、上司のハンコを貰った案件は、後日減点の対象にされません。結果として、企画・立案部門が好き勝手な政策を創り出し、巨額の無駄を出し、なお現状でも赤字を垂れ流している現状に目を向けなくては行けません。個人の責任を問うて返済させられる金額ではありませんが、無駄を出した部門の予算を大幅に削ったり、責任の求められるべき幹部が賞与返上などをするべきです。
企業でさえ、トップは報酬カットで反省の姿勢を示しています。大阪府では今冬のボーナスを満額支給したそうで、反省が足りません。数か月の減俸や一時的な賞与返上では無意味です。未だに第三セクターなど爆弾を多く抱えており、よく分からない相手先への補助金や、採算性の目処が立たない事業の継続など「不効率な経営」を続けています。外郭団体を使った不明朗な会計も目立ちます。その責任は、企画立案部門を中心とする幹部やキャリアにあるでしょう。
責任を取るべき人だけに限定して、給与カットや自主的な報酬返上が難しいのなら、責任部署の人間の降給・降格も考慮してはどうでしょう。もちろんOBとして外郭団体に天下っているような人も対象に入れましょう。法的拘束力はありませんが、一定額のカンパをOBに募るのも良いのではないでしょうか。いずれ若手や現業の給与もカットされるとしても、責任を取るべき部署が明確な責任を取るならば、モラール低下やサービス低下にも一定の歯止めが利くでしょう。
望み得るならば、これ以上のサービス切り捨てや、サービス悪化に拍車が掛かりませんように。サービスに見合う手数料の見直しは必要でしょうし、教育や弱者保護で筋の通らない部分の是正は行うべきでしょう。しかし賃金同様に、一律カットや全廃止などという暴挙は謹んでいただきたいなぁ、と思います。
※読者の方々のご意見を検討し、続編を書いています。本コラムがご理解頂け
ない場合は、第108回「公務員の給与問題」も合わせてご覧下さい。
99.12.26
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補足1
東京都の給与カットは、職員組合による団体交渉の結果、少し条件が緩和されたようです。資料を探していますが見つかっていないので、詳しい数値を含めて、後日補足します。
99.12.26
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補足2
ここまで東京都の財政を圧迫した原因は何でしょうか。ほぼ10年間ずっと続いている支出超過です。1987年度の5兆円以降、1993年度の6.8兆円まで支出は大幅に膨らんでいます。その後はほぼ横ばいのまま推移し、1999年度は6.3兆円に成っています。一方の税収は1991年度の4.7兆円をピークにして1999年度は4.0兆円です。毎年毎年税収の150%近い支出を行ってきたことが、財政圧迫の原因です。
支出の内訳では、給与関係費が1.9兆円で税収の半分に達しているのが目立ちます。それ故に、今回の給与カットにより人件費を2,100億円カットするというのは簡単な方法です。しかし減税が地方税の収入を大きく削っている現状や、公共事業による景気対策の肩代わりをさせられていることも作用しています。国会議員によるやり放題にNOを突きつける姿勢が必要かも知れません。
また都知事選で話題になっていましたが、警視庁が国の機関や要人を警備・護衛したり、東京都の治安維持を担っていたりします。その警視庁の経費が都税だけで賄われている問題も、もう一度クローズアップされて良いのではないでしょうか。
99.12.26
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補足3
地方と中央の構図で捕らえるべきではありませんが、この10年間ほど大都市圏を中心に、地方公務員の給与が国家公務員の水準に急接近したようです。年功で昇給・昇格するシステムである公務員で、採用時や勤続中の能力に大きな隔たりを生じていると見られる両者が同水準の給与を受けることが正しいのかどうか議論が必要かも知れません。もちろん同じことは、国家公務員の中でも捕らえる必要があります。もう少し職能給的な発想が必要ではないかとも考えます。
また日本一財政状況が厳しいとされる東京都小金井市(学生時代にポン太が住んでいました)は、過去必要以上に公務の範囲を拡大し、多くの自治体で外注しているような職務に従事する公務員(学校給食業務や市街清掃業務・街路樹剪定係など)が多くて、財政負担になっています。とくに職員の高齢化に伴う給与増・退職金増の問題も迫っています。地場に有力な大企業や産業を持てないことも致命的で、抜本的な手が打てないそうです。しかしリースバックでも新庁舎が欲しいという困った自治体です。
今回の行政改革では、多くの現業部門が独立行政法人ほかに衣替えします。見掛け上は国家公務員が減り、彼らの給与総額が抑制されますが、実体としては見えない部分が増えただけで一層財政的に悪化している可能性もあります。中央が人員調整(あえて削減とは言わない)の手本を示し、地方へも支援の手を差し伸べるべきではないでしょうか。一律に給与を削って職員の士気を挫くより、人員配置の無駄を解消して適正な給与を支給するべきだと思うのです。
99.12.26
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補足4
東京都小金井市も努力しているそうなので、週刊ダイヤモンド99/05/15の記事を参照して補足します。1995年から5年間以下のような努力を重ねており、1996年はワースト1だった成績を少し改善しているとのことです。
●1995年から2003年までに198人の人員を削減
●給与体系を年齢給から職務給へ切り替え
●期末手当(ボーナス)を他市平均より0.2か月分カット
●現役管理職員の役職手当て支給を停止(1997年〜1999年)
●定年退職者の退職金を地方債で支払い、経常支出に計上せず
しかし、JR中央線の高架化・駅前再開発・新庁舎計画・蛇の目ミシン工場跡地の運用など、開発案件が多く、先行き不安は大きいようです。
00.01.02
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補足5
補足4で紹介した記事は、週刊ダイヤモンド編集部による「この街が倒産する!」という特集です。とても参考になりますので、一読可能な方はお読み下さい。同記事は小金井市のほかにも、いくつか警鐘を鳴らしています。本文と直接の関係がありませんが、ご参考までに。
東京都日野市は、モノレールの建設工事と区画整理事業費が1,000億近い負担としてのし掛かっているそうです。また革新系市政で高齢者福祉を手厚くした結果、体力不相応の出費に喘いでいるそうです。しかし根本的な手入れはこれからだと紹介されています。
東京都国立市は、下水道事業に多額の負担を負っていて年々財政規模が拡大しているとのことです。1992年からの5年間で収入は微減ながら支出が2割増加しているとのことです。市域が狭く、大学や研究機関が多いものの収入にはあまり貢献しません。西武が開発した高級住宅地を抱えるものの、イメージ先行で支出拡大なのだとか。1996年から2002年までに職員を90名(約15%)削減し、事務削減や事業外注化を進めているとのことです。
また別に、徳島県鳴門市で、競艇事業からの収入を頼りにして事業を拡大し、人口6万人強の自治体が970人(1997年度。競艇関係の人件費は別会計で含まない)もの職員を抱えて人件費負担が大きいそうです。現実に事業を遂行するための費用が捻出できない水準に追い込まれていて、競艇事業会計が赤字転落するなど環境悪化に拍車が掛かっているそうです。
00.01.02
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補足6
週刊ダイヤモンド98/10/03号には、大阪府高槻市の財政再建策が紹介されています。
高槻市は1989年に行政管理課を新設し、組織の職員定数の決定権を人事課から移転したそうです。これにより独立して人員削減に取り組めるように成ったそうです。1989年から1998年までの9年間に、職員数を3,381人から3,061人にまで約1割削減し、2004年までに2,800人近くへ減らすのだそうです(記事が古いので、もう少しデータは違っているかも知れません)。これは見掛け上の人員削減でなく、外郭団体等へ出向させている人数も含めたものであるとのことです。
行政サービスの低下を防ぐため、退職した職員の補充に非常勤職員を宛て、その非常勤職員の採用も全て行政管理課の管理下に置いて監視したそうです。教職員も12%近くを非常勤職員で置き換え、職員比を大幅に切り下げているとのことです。通常は人事院のプラス勧告が続く限り人件費は膨らんでいくので、大変な努力です。
その成果があって、歳出総額は1994年以降微減の方向にあり、増大する一方の他自治体とは一線を画しています。建設事業費ほか諸経費も絞り込んではいますが、市債残高はまだまだ大きな水準にあり、一層継続的な努力が必要であるようです。
しかし、10年掛かってもというのは、大変な話です。
00.01.03
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補足7
東京都は2000年度の職員定員を大幅に削減し、2,138人もの人員削減を断行しました。1999年7月のプランでは4年間で5,000人削減でしたが、1年間で46%もの達成率になります。人件費削減効果は約150億円とのことです。都は1980年代以降も3万人近い定員削減に取り組んだものの事業規模は膨らむ一方で、事業改革に踏み込まなくては、これ以上の削減は難しいと観られています。
減員は、教職員が632人、交通局が333人、児童養護施設職員のアウトソーシングで296人などと成っています。ただし交通局は都営三田線のワンマン化に伴う減員でも、大江戸線改行で192人を増員したそうです。また土曜診療実施に伴い衛生局で87人の大幅増員がされました。
さらにアンタッチャブルだった警視庁と消防庁にも減員を実施したとのことです。今回は外郭団体の整理が見送られましたが、天下りの受け皿という色の濃い団体を中心に2000年度は積極的にナタを振るう予定であるそうです。体面だけの海外駐在員制度も廃止し、人員や組織のスリム化が期待されます。順当な整理が進めば、職員待遇は改善されますように・・・。
00.05.03
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