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政治の研究No.89
人勧って、何ですか?

 行政組織図を眺めていると、人事院という見慣れない組織があります。しかも内閣直属で独立性の高い位置を占めています。人事院は3人の人事官(そのうち一人は総裁を兼務)による人事院会議を意志決定機関として持ち、公務員の人事管理を掌握する組織なのだそうです。何かピンときませんね。
 ちょっとウェブサイト()をアクセスしていますと、その役割が少しだけ分かります。(1)採用試験の実施、(2)管理職の採用・昇任の選考、(3)省庁合同研修の実施、(4)営利企業への就職の承認、(5)適正な勤務条件の設定などと成っています。今回は(5)を取り上げてみようと思います。

 新聞に人勧という文字が踊ることがありますが、人事院勧告が正式名称です。国家公務員は労働基本権に職務上制約を受けています。主な制約は、争議権行使の禁止と、労働協約締結の禁止です。このため公務員が自らの待遇向上を求めることには限界があり、変わって人事院が内閣に勧告することで、勤務条件を改善させることになっています。
 来週辺りにでも今年度の勧告が出される予定になっていますが、あくまで勧告ですので、受け入れるかどうかは内閣の判断次第ということになります。勧告の目玉は、給料の具体的な金額の更新です。俸給表と呼ばれる職種別に数パターンある給与表の改定案を提示する仕事です。他には、諸手当の新設や廃止、金額の増減額なども勧告しています。その他、特別休暇に関するものや、労働時間に関するものなど幅広い勧告をしています。

 これまでの長い間、人事院勧告は恒に給与を引き上げる方向で動いてきました。最大の理由は、高度成長時代とバブル時代の民間給与上昇に追いつかず、その差を埋めるために長い年数を掛けてきたためです。
 昇級するには何年以上のキャリアが必要という規約があるのですが、大蔵省や通産省ではその最短の期間で昇給する上に、成績優秀な人間に割り当てられる特別昇給(1年分余計に給与が上がる)というのと組み合わせてバリバリ給料が上がります。その上さらに、若造キャリアが大企業の重役を顎で使う関係上(本当はこれが問題なんだけど)、不正を働かない程度に給与を上げないと・・・という時代が高度成長のときにあったそうです。このためキャリアの通過する部分の上昇幅が毎年大きかったのですね。
 高度成長が止まり安定期に入ると、初任給やノンキャリアの給与が民間に比べて大幅に見劣りすることに気付き、キャリア分は圧縮してノンキャリア分を引き上げてきたという経緯があるそうです。だから例年プラス成長だったわけです。また単年度予算の制約上、みんな一律に大幅引き上げが出来ないので、間に不景気が挟まってもプラス勧告が続けられたようです。
 ここへ来て、ようやくバブル時代の民間給与上昇を反映し始めたと聞いています。と言っても5年分以上遅れているそうですが、民間が給与削減の方向に動く中で昨年までプラス勧告でした。今年もプラス勧告だろうと見られています。以前の不景気時代の勧告では、基本給の部分はプラスでもボーナスをカットするとか、部局長クラスの指定職の昇給を凍結するとか、それなりのバランスは取ってきたようです。今年も冬のボーナスカットして年収ではマイナスにする、と人事院は宣言済みです。民間からの風当たりを回避するために、どれぐらいカットするかはお楽しみです。

 本来は公務員の待遇改善に動くべき人事院が、内閣や民間の圧力を受けて給与カットに動いています。ボーナスを含む諸手当のカットに手を付けているそうです。噂では、寒冷地で働く職員向けの寒冷地手当、大都市で働く職員向けの大都市手当、能力・資格に応じて支払う調整手当、などを廃止・削減の方向であるとも聞きます。公務員の給与が下がるのは中小以下の企業にとって歓迎されることですが、やりすぎて公務員のモラールが下がる問題は考慮すべきかも知れませんね。副業とか不正とか始めなければ良いですが・・・。
 そもそも人事院勧告自身が時代遅れだ、とも言われています。民間で給与実体の聞き取り調査をしているそうですが、本来は民間との比較ではなく、公務員の職務内容によって適正な給与を支払うべき問題だと思います。また俸給表などという固定給与体系でなく、もう少しフレキシブルな支給方法に改めてみてはどうなんでしょう。そのためには、人事院のマンパワーが足りない、決定権を内閣に握られている、という問題はありますが・・・改善のため頑張って欲しいです。
 国家公務員の給与は、地方公務員や外郭団体や関連団体などにも影響を与えています。不当に高い給与を支払う必要はありませんが、不当に安くする必要もないでしょうね。まあ、とりあえず人勧の結果を待ってみることにしますか。

一部読売新聞の特集記事を参考にしましたが、事実と違うかも知れません。
99.08.07

補足1
#N度の人事院勧告は8月10日に発表されました。基本給は0.28%のプラス勧告で、依然として官民格差があるとの勧告になりました。一方で、賞与は0.3月分のカットで、カット幅では過去最大に成りました。概算では年収1.8%の減少ですから、9年度から11年度の上昇分1.96%をほぼ帳消しにする勧告でした。
 マスメディアは一斉にプラス勧告を報道しましたが、賞与カットについては扱わなかったり小さい説明だったりしました。民間の大幅カットに比べるとささやかですが、業績に関係なく一律カットというのは現業部門から不満が出そうです。

99.08.14

補足2
 国際労働機関(ILO)理事会は、日本の人事院勧告制度に対し、「ILO87号、98号条約に違反している」ため改善すべきとの勧告を採択しました。全労連などが、公務員の労働基本権の制限と、その代償措置である人事院勧告制度そのものの適否をILOに問うた結果であるようです。
 この不況期にも小幅ながらアップを勧告してきた人事院勧告は、平成14年に一転してダウンの勧告を出しました。これは人事院勧告が労働基本権制限の代償として機能していない証左と言えるでしょう。官民のバランス、好不況、政権の動向などに配慮しがちな人事院勧告は、すでに役割を終えているのかも知れません。

 かといって、公務員にフリーな労働基本権を与えたとして、意味があるでしょうか。公務員のストライキが現実問題となれば、米国の労使対立を例に挙げるまでもなく、国政・地方行政に致命傷を与えかねません。一方で、公務員系の労働組合は組織率低下が著しく、ストライキの影響は大したことが無いという予想もあります。
 ILO勧告には強制力がありませんので、勧告に従い人事院勧告を廃止するのか、勧告を無視してこのまま継続するのか、いずれにせよ公務員にも大変な時代が訪れたようです。

02.11.30
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