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政治の研究No.170
移民は日本を救えるか?

 景気回復策の一環として、移民の受け入れを検討しているそうです。検討するからには、何らかの経済上のメリットがあるという前提なのですが、そのメリットが見えないままに経済効果が試算されてみたり・・と支離滅裂です。

 日本から大量の移民を送り出した時代がありましたが、日本が積極的に移民を受け入れた時代は無かったように思います。古くは飛鳥・奈良時代に渡来人の帰化を受けましたが、移民とは言い難いですね。韓僑や華僑あるいは印僑なども多くありますが、全てが日本国籍を取得しているのでもなく、やはり移民とは言えないでしょう。
 今政府が検討している移民は、東南アジアや西アジアからの移民かと思われます(明言されていないようなので、不明)。今も多くの労働者を受入(不法入国者もあり)していますが、彼らは短期労働か本国送金を意図しており、日本への帰化を望んでいません。彼らの本国は外貨を稼いだことに成りますが、日本としては国富の流出です。帰化してくれれば、彼らの労働対価も国内に留まるので、良いと言うことなのでしょう。

 移民の活用は、いくつかのバリエーションが考えられます。農地を提供して、弱体化した国内農業の梃子入れを行うこと。単純労働従事者として、軽工業や土木作業に就労させること。英語スキルを持つなら、欧米向けのIT産業に従事させること。パチンコなどギャンブル系産業の国内資本化を図ること。本国とのネットワークを活かして、日本企業の活動領域を拡げること。等々でしょうか。並べてみると結構なメリットがあるようですが、移民してくる側の言い分もあることでしょう。
 まず、農業従事については、干拓事業用地の割当てや、過疎化した山村農地の提供が可能です。政府が資材・機材等を供与すれば、農業生産性が向上すると思います。しかし、国産米などを生産しても競争力の点でメリットを受けにくく、付加価値の多い農産物を生産するにしても限界があります。基本的に自給自足+αを望む程度なら良いかも知れませんが。
 つぎに、単純労働従事については、今ある外国人労働者に代えて、移民に積極的に職を割り当てることになります。移民に何らかの優遇措置がなくては、低額賃金で扱き使われることを防止しつつ、内外格差を設けることもやむを得ません。最終的に国内労働力の不足を補うわけですが、それでなくても日本人失業者が多いので、雇用のミスマッチを埋める範囲での登用に制限せざるを得ません。好景気になると・・気にしなくて良い問題ですが。
 そして、IT産業の梃子入れです。とくに日本人の英語力不足が目立ちますので、支障なく英語と日本語がこなせる人材であれば、IT分野に限定されることなく、積極的に活用する余地があります。日本人労働者にも良い刺激になるでしょうし、スキルさえあれば国籍や人種に拘る必要がない分野です。
 さらに、ギャンブル産業等の国内資本化。ギャンブルや風俗系産業に外国人資本が多く入っていますが、これらを移民中心の資本に置き換えることが叶えば、国富流出のリスクを軽減できます。カネが絡む問題なので、簡単でありませんが、ジャパニーズ・マフィアの介入を許すことなく・・とするのは難しい問題であろうと思います。
 最後に、移民達のネットワークの活用ですが、上手に活用するためには、移民の待遇を良くすることが欠かせません。移民達が、さらに多くの移民の呼び水となることは望ましいですし、本国に残った人々と共栄関係を構築してくれると助かります。しかし、国境を越えてのネットワークは犯罪リスク等もあり、また移民の実効性を削ぐ可能性もあるため、一番に議論していく必要がありそうです。

 上記メリットに対して、デメリットは何でしょうか。長らく単一民族国家を形成してきた日本風土が乱れる可能性があります。数十万人の外国人労働者が住まう東京圏であっても、様々な軋轢があります。さらに数十万単位での移民を受け入れた場合、高まる犯罪リスクの上昇や、外国人同士の軋轢、日本人を巻き込んだ対立などの懸念があります。現状のままの治安システムが維持可能でしょうか。日本警察に予期せぬ負担を生じそうです。移民と外国人労働者の区別がつきにくくなり、犯罪抑止に支障が出そうです。
 移民が、形式的であっては困ります。不法就労を誤魔化すために移民を装うようでは、移民制度そのものが揺らぎます。様々な受入体制を整備する代わりに、出身国への送金等の制限が必要になります。厳しい締め付けはアングラマネー化するだけですから、何らかの手だてを考えるべきです。移民制度の意味をよく説明して理解させ、一定水準の審査も欠かせません。かつての米国でイタリア人やアイルランド人がそうしたように、日本国内にマフィア組織などを作られても困ります。
 また、移民を日本経済のシステムに填め込むと、相対的に日本人よりも安いサラリーとなるのは仕方がありません。スキル・キャリアを正確に評価したり、中途採用者に公正な処遇を与えたりするシステムが確立されていないためです。とくに単純労働者として採用する場合において、日本人労働者を駆逐する懸念があります。何よりも永住するわけですから、これまでの外国人労働者とはワケが違います。

 政府としては、移民が相手となれば、彼らにも課税が可能になりますし、彼らの国内消費がそのまま景気に直結するようになります。皮算用としては、プラス間違いなしです。受入体制について十分な議論を尽くし、法的・経済的な手当を十分に行った上であれば、移民を受け入れることは大歓迎です。

03.01.03

補足1
#N代には、就労ビザが切れても就労を続ける東南アジア女性達(通称、じゃぱゆきさん)が問題にありました。その後は、フィリピンを中心に男性の不法就労者も増え、タイ・パキスタンなどからも大人数の流入が目立ちました。また近頃は減少気味だそうですが、中国からの流入が多かった時代もありました(顕著な現象が見られるため、不正入国のための手数料が大幅安していると聞きます)。
#N代になってからは、西アジアからの流入が増えています。東アジアや東南アジアの経済が成長し、国内で労働力を求められるようになったことと関係があるのでしょうか。しかし、西アジア系では不法入国も目立つようになり、ピッキングなど犯罪に手を染める外国人も増加しつつあります。正規の移民の受入体制を作ったとしても、犯罪に手を染める外国人については、厳しい措置が必要ですね。

 移民により若年層の労働者が多く定着してくれれば、今の少子化問題による人口ピラミッドの歪みを是正できる可能性があります。しかし、彼らも将来的には年金を貰う側に回るでしょうし、彼らが多産であって日本人口に占めるシェアが急増した場合の待遇についても、十分な担保が必要になります。米国では、一頃アジア系の移民を大量に受入ながら、鉄道建設などで使い潰したことがあります。こうした搾取は許されるべきでありません。
 単一民族国家としての安定性を今後も望むのであれば、積極的な移民受入政策を導入すべきでありませんし、現在の外国人労働者についても明確な整理が必要になります。そうでなければ、いずれ社会問題を大きくしそうな気がします。

03.01.03

補足2
 読者の方から、「日本民族は単一民族」と記載した点につき、コメントを頂戴しました。別途にコラム(第178回第179回)を書きましたので、ご参照下さい。

03.04.12
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