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経済の研究No.103
ヤフー株価、狂乱

 日本で最も利用されているポータル(玄関口の意味)サイトは、ヤフー・ジャパンです。早くからウェブサイトの登録サービスを導入し、本業の検索サービスのほか、ニュース配信を始めとして諸情報の無料提供、チャット・掲示板サービスなど積極的に事業展開を進めています。すでに第88回ソフトバンク・ドリーム」で扱いましたが、ここでは狂乱している株価問題を絡めて検証をしてみようと思います。

■ ヤフーのデータ
 「日経会社情報」を資料にヤフーのデータを見てみます。1996年1月、ソフトバンク社とヤフー・インク社(米国ヤフー、現在はソフトバンクの子会社となり、ナスダックに株式公開済み)の合弁子会社として設立されました。当時の資本金は2億円でした。1997年9月に額面での有償増資(1:0.45)、同年11月に975株の公募増資を実施して資本金は4.34億円に増強されました。この11月に株式公開を実施、9月に5万円(額面)で、11月に70万円で増資された株券は、一躍200万円の初値を付けました。その後、業績の向上に伴って株価は上昇を続け、1998年9月に500万円、1999年1月に1,000万円、2月に2,000万円・・・と急伸してきました。
 売上高は、1997年3月期4.1億円、1998年同期12.6億円、1999年同期17.5億円と躍進を続け、2000年同期は24.5億円を見込んでいます。経常利益、最終利益ともに急増を続け初年度から黒字化しているのが特徴です。しかし、1999年3月期の経常利益は3.2億円、最終利益は1.45億円に過ぎません。また、未だに無配であることも特徴的でしょうか。主な収入源はサービス提供時に自動表示する広告からの収入で、全体の71%を占めています。従業員は65名(1998年9月現在、1999年度は採用予定無し)に過ぎません。

■ 作られた株価
 米国市場でインターネット関連の銘柄が物色されたことを受け、日本市場でも同様の現象が発生しています。日本市場では物色できる銘柄が限定されていたため、流通量の少ない、つまり浮動株の少ないヤフーがターゲットとなり、1999年1月に1,000万円を付けたのは上記の通りです。もともと無配ということもあり、インカムゲイン(主に配当収入により株主が得る利益)で報えない株主に対して、キャピタルゲイン(株式の売却益として株主が得る利益)で報いることにしたようです。1999年3月末に1株を2株に分割しました。
 株式の分割は、資本金が増えるわけではなく、あくまで株数だけが増えます。株数が増えると配当負担が増加しますが、現在のところ無配であるため懸念も無いようです。公募増資で購入した株主は、1株だけ売却して多額のキャピタルゲインを回収する機会を与えられました。理論的には、分割によっても企業の時価総額(発行株式全体の時価。発行株式数×株価で算出)は変わらないため、1株を2株に分割すれば株価は半値になります。ヤフーは浮動株が少なく人気過剰で高値を付けていました。株主がゲイン回収のため分割株を売却すれば浮動株は一気に増え、株価の調整(もちろん異常な高値のため、一般的には値下がりする)が起きると予想されていました。
 分割の権利を受けられる3月25日の終値は3,200万円でしたので、理論的には1,600万円となる計算でした。ところが、翌26日には2,050万円まで急騰し、予想に反して20%も急騰した計算に成ります。分割の権利を貰った株主が高値で売り抜けられたわけです。その後も買いが買いを呼ぶ形で、その後の10営業日で3,950万円も急騰して6,000万円と成っています。超低位株であるなら珍しくありませんが、超高値株では前代未聞のことです。ちなみに一株資産は15万円、一株利益は6,344円(1998年9月末)ですから、異常な株価であるかは、お分かりですね。
 分割と同時に125株の公募増資がされています。1,697万円の発行価額で125株、総額21.2億円です。これにより10億円近く資本金が積み上がり一株資産も増加しますが、それでも全然追いつかない水準です。年初から継続的に株価を引き上げる操作が行われていたのは、少ない株数で20億円を調達するのが狙いであったと見られます。積極的に高値に誘導していたのは、恐らく7社ある幹事証券のいずれかでしょう。しかし現在の高値は明らかに違った手が入っているようです。

■ いつかは・・・
 結局のところ、3月末現在での株主構成を見ないことには、どんな手が入っているのか分かりません。ただヤフーの優位性は確立されつつあり、今後ネット上のサービスが整理・統合される過程で圧倒的な強さを発揮してくると見られています。これを脅威とみたメーカーや取引先が株式の取得に動いていると思われます。ヤフー側が提携の条件として株式取得を求めている可能性も考えられますが、各企業が1株程度ずつ取得しているのではないでしょうか。浮動株が少なく、強気の売り指し値が多いために、無理をして高値で購入し、その急騰に慌てた他社がさらに高値を掴むという循環が一貫した高値を形成してきたものと予想します。
 仮にポン太の予想が正しいとすれば、いずれ買いが一巡した時点で株価は下げに転じるでしょう。これが投げ売りを誘い、売りが売りを誘う可能性が大きいと思われます。あるいは、他のポータルサイトが新サービスを導入することにより、ヤフーのアクセス数が激減する可能性があります。アクセス数が減少すれば広告収入が減少して、業績は一瞬にして吹き飛びます。
 この狂乱株価がどこかで落とし所を見つけるのか、バブルの夢に踊っただけで消えて行くのか、非常に気になるところです。

99.04.09

補足1
 ヤフーの親会社に当たるソフトバンクの株価も凄まじい上昇を続けています。3月に10,000円を付けた株価は、ヤフーと歩調を合わせるように上昇しています。実のところ1999年3月期の業績予想を下方修正したソフトバンクは、値崩れすると見られたのですが、8,000円台でのもみ合いの後に急騰を続け、4月8日には19,880円の史上最高値を更新しました。その根拠は、7,000株近く保有するヤフー株式の時価が4,200億円に達していることが評価されてのことです。また米国ヤフーを介しても間接的に5,000株保有しているため、都合7,200億円の評価益が発生している計算になります。ソフトバンクの有価証券評価益は2兆円に迫ると見られ、ソフトバンクの株価19,880円での時価総額2兆円というのは、丸々評価益を反映している計算です。
 ソフトバンクが多額の評価益を持つということは、それを担保に資金を調達したり、株式交換を活用したりすることで、大型買収がやり易くなります。現実にソフトバンク本体が相次いで企業買収や部門買収を続けており、米国ヤフーも同様の戦略を展開しています。さらにヤフーも、公募増資で得た資金のうち15億円を投融資に振り向けると公言しています。要するに、含み益を見せ金にして効率よく事業買収を進め、一気にシェアを拡げて市場支配を行う算段です。ソフトバンクが欠かさず派手な買収や提携を発表して市場に材料を提供し、子会社の株価が急騰して、その評価益を使った提携や買収を行うスパイラルを生み出しているのです。さらに、買収した部門や企業を子会社として編成し、株式の公開・上場を行ってキャピタルゲインを確保することも視野に入れているでしょう。

99.04.09

補足2
#N3月までは、月間平均売買高が24株以下でした。これは浮動株が著しく少なかったことの証左です。4月に入ってからは多い日には3桁台の商いもあります。分割のお陰で浮動株が増加していることが明かです。しかし、この高値水準に留まるので有れば、いずれさらなる株式分割が必要と思われますが、希少価値が薄れれば暴落は避けられず、当面は株価維持対策と陰口を叩かれても現状のまま行くしかないかも知れません。
 いくら成長している企業と言いながら、ヤフーの株価は年初からでも12倍以上ですから、バブリーな話ですね。

99.04.09

補足3
 その後の動きを。4月12日、13日はそれぞれ1,000万円ずつ下げ、14日には3,800万円まで崩れました。しかし、その後反発を見せて5,000万円で大引けしました。他に物色銘柄が少ないことから、まだまだ買われるとの強気の姿勢が見られており、当分の間は適正水準への調整は行われない様子です。
 一方、13日には米国インテル社が4半期業績の見通しを横ばい又はマイナスとする見解を発表し、パソコンメーカーを中心に値崩れする局面も見られました。そろそろ限界線に達しているようですが・・・どうなりますでしょうか。

99.04.14

補足4
 ヤフーが4月9日に発表した1999年3月期の決算は、当初予想を大きく上回りました。売上高は前年度比5割増の19億1,500万円、経常利益は約三倍の3億9,000万円だそうです。井上社長のコメントによれば「インターネット広告をメディアとして重要視する企業が増え、広告契約の長期化、大型化が進んだ」ということらしい。重要視した企業が広告宣伝費の一環として株式購入に走っている可能性は高いようです。また、ヤフーではストックオプション制度を導入しており、安値で株式を購入した社員も多いようです。公称よりも浮動株はさらに少ないのかも知れません。読者の方の情報では、社員に対して持株の市場での売却を夏頃まで見合わせるよう指導しているのだそうですが・・・夏までに何かを仕掛けるのでしょうか?

99.04.18

補足5
 孫正義ソフトバンク社長の個人資産が急膨張しています。ソフトバンク株が20,000円を付けると、これだけで7,000億円の資産価値を生む計算となるため、個人資産としては西武鉄道の堤義明会長を抜いて日本一となっている可能性が高いと言います。ソフトバンクの株式含み益は4月16日時点で2.2兆円有るそうで、この計算ではソフトバンクの株価が軽く20,000円を超えるというものです。ただし人気だけで急騰している銘柄が多いため、長く続くとは考えられません。

99.04.18

補足6
 ソフトバンクの株価は30,000円を超えてしまいました。何より話題作りが巧みで、提携相手を上手に選択していることがポイントです(第119回を参照)。新しい株価形成方法として定着するのか、単なるバブルで終わるのか見物です。株価は将来の企業価値を反映すると言いますが・・・。
 さて、ヤフーは新たに社員を対象にしたストックオプション制度の導入を発表し、一層社員のインセンティブを高めようとしています。一方で株主への利益配分にも余念がなく、1999年11月にも1株を2株にする株式分割を実施するそうです。どこまで頑張るでしょうか。

99.07.14

補足7
 ヤフーは、半期毎に4回実施した株式分割を2001年3月末に見送りました。分割の余力が失われてきた(1株を1.2株に分割が限界)ことに加え、株価低迷で投資家に歓迎されなくなっていることも受けての判断であるそうです。1997年11月の公開時の株式数6,775株は、2000年12月末で116,900株にまで増加(公募増資含む)しています。しかしながら、浮動株比率は6.5%(2000年9月末。2001年3月末は未発表)に留まっており、株式分割が流動性に貢献していないことも判明しています。
 ヤフーとしては、大株主株式の放出を考えているそうですが、それは株価を崩す懸念も高く、他の株主からも批判が出そうです。

01.05.04
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