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経済の研究No.88
ソフトバンク・ドリーム

 いつからソフトバンクは怪物になったのだろうか・・・。私がパソコンを触り始めた頃、マニュアル本を売り出していた会社でした。その会社の本業がパソコンソフトの卸事業であることを知ったのは、私が秋葉原でパソコンを売り始めた頃でありました。「仕切値は高いが、ソフトを集めさせたら日本一」という会社でした。
 その1989年当時、「Oh!PC」など数誌の雑誌で名を馳せ、翌1990年1月日本データネットを合併してネット事業に進出、同年10月物流と技研を設立、同1992年ソフトベンチャーキャピタル設立、同1994年3月米国法人設立、4月メディアバンク設立・・・と多角化を進めてきました。

■ 脱皮したベンチャー企業
#N7月に株式を店頭公開しましたが、ここまでなら良くあるベンチャー企業であります。当時はアスキーの方が断然勢いがありました(第62回ベンチャーの怪」を参照)。アスキーが沈没した一方で、ソフトバンクは現在のところ快進撃を続けています。その決定的な違いは、総帥の孫正義社長が、有能なブレーンを持ち得たことと、そのブレーンを信用してフルに活用したことにあります。
 一人は石川常務。富士写真フィルムの人事課長を経て、1989年企画部部長として入社、翌1990年取締役総務人事部長、1993年常務取締役に着任して現職です。ソフトバンク物流とメディアバンクの社長を兼務しており、本社の総務人事面とプロパーのグループ企業を統括しています。
 一人は岡崎常務。東洋エンジニアリング在職を経て、1989年企画推進部部長として入社。翌1990年取締役着任、1996年情報システム部長、1997年常務取締役・出版事業部長を兼務し、現在情報システム部長は外れて現職です。ソフトバンクの創業部門を統括しています。
 もう一人は北尾常務。野村証券事業法人三部長を経て、1996年常務取締役として経営に参画、同年財務経理部長、翌1997年ソフトバンクベンチャーズとソフトベンチャーキャピタルの社長を兼務、さらに本社経営戦略室長を兼務し、現在はソフトバンク・コンテンツ・パートナーズ、モーニングスター、イー・トレードの社長を兼務しています。
 他にも優秀な取締役は居るようですが、中でも北尾常務の活躍が素晴らしいそうです。現在のソフトバンクの業務は依然としてパソコン流通・出版事業が大半ですが、連結事業の比率が断然に大きくなっています。将来性のある企業を掘り起こして出資をし、そこから利益を稼ぎ出したのが、北尾常務の実力に依るところが多いと聞きます。1999年3月期の連結売上げは単体の3倍、営業利益は単体の5倍が見込まれています。もはや歴とした投資会社であり、一ベンチャーの枠組みには収まらなくなっています。

■ 親孝行な子会社
 ソフトバンクは1994年に米社を通じてジフ・コミュニケーションズ社の展示会部門を買収しました。さらに1995年インターフェイス・グループの展示会部門を買収、1996年米国ヤフー社、キングストン・テクノロジー社、ジフ・デービス社を相次いで買収しました。この時期、過大な投資に絶えかねてソフトバンクが行き詰まると言われましたが・・・1997年日本ヤフー店頭公開、1998年本社東証一部へ上場、同年米国ジフ・デービス社がNY上場、と続き今では多額のキャピタルゲインで資金難を乗り切っています。
 以上のほか、ナスダックで上場している子会社は、ヤフー,ジオ・シティーズ,イー・トレ−ド,GTインタラクティブソフト,サイバーキャッシュ,メッセージメディアの6社です。日本で店頭公開しているのはトレンドマイクロがあります。その含み益は1兆円を超えていると言います(1月7日終値ベース,出典:週刊「東洋経済」1月21日号)。
 この影響でソフトバンクの株価も急騰を続け、19日の終値は8,990円と上場来高値(株式分割等を勘案しての株価ベースです)を更新中です。この終値換算すると時価総額は9,215億円に成ります。未だ株式含み益にさえ達していない計算になります。しかし現在の急騰は本物でしょうか? 少し疑ってみたいと思います。

■ 米国はハイテク株バブル
 米国NY市場では、株式指標であるNYダウが史上高値を更新しました。しかし全体として見れば、明らかに株式市場は下降線を描いています。金融・不動産・製造は軒並み昨年高値から下落をし、素材産業もダメージを大きく受けています。現在元気なのはハイテク銘柄と医薬品銘柄だと言われています。中でもインターネット関連の銘柄が躍進中です。このためハイテク銘柄が過半数を占める米国店頭株式市場(ナスダック)では、総合指数が年始から4営業日連続で史上高値を更新し、同様にハイテク成長企業を多く含むNYダウも12日に9,600ドル台を記録しました。
 この現象はつまり、行き場を失い始めた株式マネーが、ハイテク銘柄に集中し始めた「いびつな状況」であることに過ぎず、米国の株式市場が昨年以上に好調であるのではありません。例えば19日のナスダックのヤフーの終値は317ドルです。今年の高値は400ドルまであります。しかし昨年10月までは100ドル以下でした。NYのジフ・デービスは18ドル弱で、今年の高値は24ドル弱でした。しかし昨年12月中旬までは10ドル程度、10月には3ドル台まで下落したこともあります。この数ヶ月で見違えるほど業績が好転したわけではないので、はっきりとバブル現象だと言い切れます。
 バブルだとして今後はどうなるのでしょうか。当分は強気の買いが続くと見られます。ブラジルの一州がモラトリアム宣言を発したために、ブラジル通貨レアルの切り下げ、変動相場制への移行がありました。これに絡んで一時的な下げを見せましたが、未だに強気の姿勢は崩れていません。ただし引き続きハイテク関連、とくにソフトバンク関連が上昇を続けるかどうかは疑問です。あくまで一過性のブームに過ぎないのですから。(以上については、毎日の話題1月9日の記事「NYダウの末期症状に悩む」を参照)

■ 日本でもハイテク株バブル
 米国のブームは、日本市場にも波及していますが、日本の銘柄は限定されます。筆頭がソフトバンク、店頭市場でヤフー、マスターネット、トレンドマイクロがあるほかは、ほとんど見当たりません。インターネット銘柄が少ないから物色されるという理由のほかに、仕組まれた理由もあります。
 ヤフーの19日終値は1,700万円。昨年末に1,000万円を超えたばかりで、わずか10営業日ほどで7割も急騰しました。しかし出来高はわずか16株。少ない日は6株、多くても20株の売買です。ヤフーの特定株は93.0%で、浮動株は7.0%です。全体で6,775株の7.0%ですから、市場で流通しているのは最大でも475株しかありません。株主総数は255名で特定株主は20名弱で、残りも安定株主が多く含まれていると思われますので、投機で参加しているのはせいぜい1〜2割、つまり50株〜100株だと考えています。こんな少ないところで人気を煽れば急騰するのは当たりまえだと言うことになります。極端に話をすれば、意図的に株価を吊り上げることも可能です。
 トレンドマイクロの19日の終値は8,800円です。昨年11月に4,500円でしたのでほぼ倍増しています。こちらは特定株が95.1%ですから浮動株は4.9%です。あとはヤフーと同様ですね。
 ちなみにヤフーの初値は200万円でした。現在は時価総額が8.5倍に膨らんでいますが、実態を伴っていないことは明かです。これをバブルと呼ばず、何と呼ぶのでしょう。

■ これからのソフトバンク
 見掛け上含み資産が膨らんでいるウチに、経営の合理化を図り、業績を一層向上させる必要があります。少しでも実体を近づけることで、さらなる発展を生み出せば架空の含みが現実の含みに成ります。ここで含みを利用して借入金を増やすような暴挙は行わず、効率の良い投資を続けて欲しいものです。また持株会社を設立し、ソフトバンクと投資部門を完全に分離することも必要でしょう。リスクに対するファイアーウォールの確立は急がなくてはいけません。
 またヤフーやトレンドマイクロのように浮動株が極端に少ないのは問題です。株式公開を行った以上は、株主を増やし、資金を広く調達する必要があります。株式を分割するなどして株式数を増やして流動性を高め、単位株を引き下げるなどの工夫が必要でしょう。いつまでも店頭企業で在って良いのなら構わないのですが、いずれ市場に飽きられるのは確実です。一流企業に育て上げて親孝行をさせたいのなら、東証一部上場を目指して頑張って欲しいと思います。
 そうであれば、ソフトバンクのドリームは、「サクセス・ドリーム」として、後に続くベンチャー企業たちに語り継がれるでありましょう。くれぐれも「邯鄲・ドリーム」であったということが無いように、と期待しています。

99.01.19

補足1
 私見ですが、なぜトレンドマイクロのような企業の業績が伸びるのか疑問があります。かつてはハッカーの存在やウィルスの問題が取りざたされましたが、最近ではセキュリティーの敷居が高くなっています。ウィルスを作るにも、かなり高度な技術を要するようになり、組織的にかなりの資金とマンパワーを投入する必要があると言われています。かつてのように単なる愉快犯の犯行は成立しないと言うことですね。そうした場合、ウィルスを開発する人間は、いずれかから金銭的な見返りや援助を受けなくては成り立たないことになります。
 にも関わらず、次々に悪質なウィルスが発見されるのは何故でしょうか。新たなウィルスが発見され続ける限り、ワクチンソフトの開発企業は利益を上げ続けることができます。ウィルスあってこそのワクチン開発企業であります。そう考えると・・・? いつまでもバグが無くならず、マイナーバージョンアップを繰り返すOS開発会社もありますが。

99.01.19

補足2
 マスターネットは、インターネットカラオケで躍進した会社です。しかし今ではNTTドコモと共同開発した「10円メール」の大化けで急成長を続けています。インターネット関連で連れ高しているという見方もありますが、昔のポケベルや伝言ダイヤルの顧客を取り込んで業績は拡大中です。99年3月期の経常利益は前期比2.5倍の予定です。店頭公開企業ですが、初値23.6万円に対して19日の高値は205万円までありました。同日の安値は53.8万円でしたが・・・やはり流通株式数の不足が粗い値動きにつながっているようです。

99.01.20

補足3
 邯鄲とは中国河北省南部の都市で、戦国時代には趙の国都でした。出世を望んで邯鄲にやってきた青年が、栄華が思いのままになるという枕を道士から借りてうたた寝をしました。青年は夢の中で50年の人生を送ったのだが、目覚めるとまだうたた寝前に頼んだ粥が煮え切らない間の時間しか経っていなかった。という中国の故事「邯鄲の夢」があります。転じて栄枯盛衰のはかないことの喩えに成っています。本文中の「邯鄲・ドリーム」はそういう意味で使っています。

99.01.20

補足4
 補足2の補足です。マスターネットは20日に業績の上方修正を発表しました。経常利益は前期比3倍に拡大する模様です。「10円メール」の加入者が予想を上回ったためと発表しています。このため21日の株価は急伸しました。対するヤフーは20日に50万円安、21,22日の両日にストップ安の200万円安を付けて続落し、1,250万円に急落しました。また反発するかも知れませんが、要注意です。

99.01.22

補足5
 本文に書いたばかりですが、ソフトバンクは2月10日の臨時株主総会で持株会社への移行を決定したそうです。4月1日に出版部門を「ソフトバンク・パブリッシング」に、金融部門を「ソフトバンク・ファイナンス」に、人事・総務部門を「アットワーク」に、それぞれ分社化し子会社も統括させるそうです。残りは純粋持株会社としてグループ戦略を担当すると同時に、各部門の後押しをするといいます。
 またヤフーは初めての株式分割を実施すると2月8日に発表しました。3月末の株主を対象に、1株を2株に分割するそうです。これも本文に書きましたが、本来は1:10ぐらいの分割をしなくてはいけないと考えています。しかし、新たな株主を募る意向であるといいますし、合わせて250億円程度の株式を時価発行するそうですので、今後に期待ができます。ちなみに米国ヤフーは2度目の株式分割を行うそうです。

99.02.12

補足6
 ヤフーの株価の狂乱が続いています。4月8日、ヤフーは1,000万円高の4,200万円に達し、わずか一日で31%も急騰するという荒技を見せるとともに、PERが4,000を上回ることとなった。昨年上場したヤフーの初値は200万円で、3月末の株式分割を織り込むと1年も経たない間に40倍もの株価を付けた形になりました。幸いにも4月以降は出来高も増え始めているが、あまりにも膨らみすぎている株価の調整は、もはや不可能と見られます。
 ヤフーの親会社であるソフトバンクも株価の狂乱が続いています。前期は大幅な業績低迷により下方予測に修正しましたが、堅調な子会社株式を売却することで損失を吸収しました。一旦は株価急落の局面があったものの、1万円を越えてからは順調に株価を伸ばし、4月8日には2,000円のストップ高となって18,210円で取引を終えました。わずか1月足らずで株価が2倍になった計算です。ネットサービスを次々に買収するなど旺盛な投資を再開しており、材料の提供に余念がないものの、それらサービスが利益を確保できるのか疑問もあり、本文中の指摘通り危険な状態にあります。ちなみに、こちらのPERも130を上回っています。

99.04.08

補足7
 米国ヤフーの1999年3月期決算は売上高2.6倍と成った模様です。企業買収を除いた実質純利益は約20倍の2,800ドルに上ったそうですが、ベンチャーの買収費用を計上すると純損益は1,500万ドルの赤字に転じたようです。前期の純損益も1,400万ドルの赤字でしたので、今後は買収企業からどれだけゲインを回収するかが問われそうです。

99.07.10
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