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経済の研究No.119
ノンストップ・ソフトバンク

 第88回ソフトバンク・ドリーム」で取り上げた1月19日、ソフトバンクの株価は8,990円でした。そのちょうど一年前に東証一部の上場した同社の株価は3,700円・・・これを危険な株価だと説き、「見掛け上含み資産が膨らんでいるウチに、経営の合理化を図り、業績を一層向上させる必要があります」と結びました。
 7月7日の同社の株価は31,000円の新高値を更新しました。わずか6か月で3倍、18か月で8倍です。格別利益が急増したわけでもなく、今でも危険な株価という認識は変わりませんが、このところソフトバンクが矢継ぎ早に打ち出している業績向上策は高く評価できます。

■ 6月はノンストップ
 6月のソフトバンクは、八面六臂の大活躍でした。例えば、3日にセブンイレブンジャパンとインターネット通販の立ち上げを発表、14日に米国NASDとナスダックジャパン構想を発表、24日にバンダイほかと玩具の電子商取引サービスの開始を発表、同日にインターネット関連のベンチャー企業へのファンド基金2,270億円の設立を発表、また同日米国ディレクアドバイス社と資産運用アドバイザーサービスを発表しました。
 子会社も健闘し、8日にはパソナとの合弁会社パソナソフトバンクが株式を店頭公開し、株価も堅調でした。3日、米国ヤフーは米国オンライン・エニウェア社を株式交換で買収すると発表しました。ヤフーはインターネット通販と玩具電子商取引に出資し、今期の設備投資額を前期の5倍にすると発表しました。とくに株価面での奮闘が目立ち、1日には2,480万円まで下落した株価を30日までに4,530万円まで上昇・回復させました。

■ 7月もノンストップ
 7月もソフトバンクの頑張りが続いています。1日はマードック氏のニューズグループと合弁で英国インターネット事業への進出を発表しました。2日は米国オプティマーク社への出資を決めて証券取引の値決め技術開発に参入を表明しました。5日にはヤフーがガリバーインターナショナルと、2日には米国ヤフーと米国P&Gと、それぞれ業務提携を発表しました。
 立て続けの業務提携や企業買収ですが、背後には綿密な打ち合わせや周到な根回しがあってのことで、ようやく実を結びつつあるというところでしょうか。上記の各企業は、P&Gを除いてカテゴリーキラー(何かしらの得意分野で圧倒的な強みを見せる企業)です。各カテゴリーのトップ企業と関係を深めることによって、相互に信用増大と信用補完(ダイエーの研究第4回を参照して下さい)を行い、ソフトバンクは市場の覇者を目指しているのです。

■ 依然として株式バブル
 しかし、株式バブルは続いています。現在のソフトバンクの株高は、ヤフー以下の株式公開子会社の株価が奮闘している結果が反映されているのです。ソフトバンク本体が積極的な事業展開と市場への情報提供を行っている点は見逃せませんが、いずれの事業も軌道に乗っておらず、どの段階で投資資金が回収できるか、どれだけ余剰の資本を生み出すかは不明です。
 とくにインターネット事業は、水物です。従来も多くの企業が参入し、数々のサービスを導入しましたが、なかなか恒常的な収益体制は築けていないようです。今は期待感で企業イメージなども膨らんでいますが、そろそろ市場は厳しい見方を始めています。これまで同様に実体を企業イメージに一層近づけるよう努力して欲しいと思います。
 現状では材料に振り回されている投資家が多いですが、そうした投資家がソフトバンクに積極的な事業展開を強いている可能性も否定できません。投資家も虚像ではなく実像を見据え、じっくりと投資企業の成長を待ち続ける姿勢を持たなくては成らないでしょうね。

 あまりにも手広く派手すぎる事業展開は、必ず行き詰まります。今後もインターネットビジネスが安定した成長を続けるためにも、先行者であるソフトバンクグループには、無理のない堅実なビジネス路線を図って欲しいと思います。

99.07.07

補足1
 ヤフーは、検索サービスを利用して特定企業のサービスに優先的にリンクする業務提携を進めているようです。最近では、デジタル家電を中心にソフマップのサイトと連携し、文房具の通販はアスクルと提携をしています。これまで広告収入依存型から仲介手数料収入依存へシフトさせようと言うことなのでしょう。果たして期待通りの仲介手数料が獲得できるのかどうか、ここがポータルサイト事業の将来を占うことに成りそうですね。
 ヤフーはポータルサイト第1位の地位はキープしていますが、近頃コンテンツが発散気味であるように思います。サイトの登録に厳しい審査制を採用したこともあり、今後も不動の地位を維持できるのかどうか不安を感じます。もしも第1位で無くなったら、その神通力は失われて広告収入も仲介手数料収入も失われるだけに、より魅力あるサイト作りに励まれることを期待しています。

99.07.07

補足2
 少し古いニュースですが、6月21日に日本格付け投資センターがソフトバンクの無担保転換社債の格付けをBBBマイナスへ2ノッチ引き下げました。その理由は「将来性は依然として不透明で、事業リスクが高い」ことと、「社債償還を含めた社外流出を継続的な資産売却で賄うソフトバンクの計画は不確実性が拭えない」と判断したそうです。
 ソフトバンクとしては、ノンストップで高株価戦略を維持し、株式交換などで高資産企業を買収するか短期的に巨大な利益を稼ぎ出す事業を立ち上げなくてはいけない、ということになるのでしょうか。

99.07.10

補足3
 ソフトバンクは7月15日、パソコン向け半導体メモリー製品の設計・製造大手である米国キングストン・テクノロジー社の全株式を創業者に売却すると発表しました。売却額は543億円ですが、この売却により売却損が725億円も発生します。明かな投資失敗になります。
 今回の売却を、インターネット事業への特化における事業整理と見ることもできますが、その損失額は巨額です。むしろ社債償還資金などキャッシュの必要に迫られたと見るべきかも知れません。今回の売却資金を再投資に振り向けるか、債務圧縮に扱うかを注意する必要があります。
 ちなみに7月15日の株価はストップ高の34,800円と新高値を更新し、投資家は巨額の損失も意に介していないようです。

99.07.15

補足4
 ソフトバンクの株価は、16日にストップ高の後、ストップ安へ転落する危ない変動を見せました。その原因は、外資証券がソフトバンクの格付けを引き下げたことで、補足2や補足3のような不安定要素が外資にも及んでいるということです。
 気になる子会社の株式含み益が、日本経済新聞07/16に紹介されています。7月15日現在、米国ヤフーの1兆1,370億円がダントツ、日本ヤフー3,489億円、Eトレード2,385億円、メッセージメディア259億円、トレンドマイクロ187億円(持株放出で持株比率を4%まで低減)、パソナソフトバンク45億円などとなっています。一時期好調だったジフ・デービスは含み損に転じており、こちらもインターネットとシナジー効果が望めない部門を売却する意向だと報道されています。

99.07.18
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