前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.104
長銀国有化の結末

■ まだ終わらない、銀行破綻処理
 4月早々に国民銀行の破綻が発表されました。債務超過額は1998年9月の時点で777億円(有価証券評価損を含む)だということです。昨年破綻認定を受けた長銀や日債銀に比べて債務超過額は小さいですが、自己資本が50億円に過ぎない国民銀行の債務超過が今まで分からなかったはずがありません。金融監督庁が明らかに手心を加えていたのです。ことが明るみに出たのは、国民銀行の大株主である国際興業グループが3月末に払い込むべき増資を見送ったことが知られてからです。自己資本を50%も積み上げるとはいえ、焼け石に水なのは明らかなのですから。国際興業が増資に応じれば、国際興業主導の再建をやらせようとしたのでしょう。
 4月1日に成立したみなと銀行は、みどり銀行を阪神銀行が救済合併したものですが、預金量2兆3,000億円の新行に対して、1兆5,000億円もの公的資金を注入したもので、実は体よく阪神銀行をも救済したのは明かであります。みどり銀行の株主は出資責任を問われて一定額の原資に応じ、阪神銀行の株主はそのまま生かされました。とくに、みどり銀行の株主は奉加帳方式での出資を求められた立場にあり、経営にタッチすることなく破綻させられてしまった悔いがあります。行政の身勝手による片手落ちな破綻処理でした。しかもみなと銀行が無事に存続できるかさえ確かでありません。

■ 長銀の債務超過は2.6兆円
 昨年破綻認定を受けて国有化した長銀の債務超過額が確定したそうです。株価算定委員会が3月30日に公表した数字は2兆6,535億円の債務超過でした。当初国の発表では資本超過であったはずの長銀は、金融監督庁の検査により3,400億円の債務超過だと言われました。しかし実は、その8倍もの債務超過だったのです。金融監督庁にも言い分はあるでしょう。当時健全債権と査定していた系列ノンバンクや不動産管理会社が軒並み不良債権化していたのは発見できなかったのですし、それを強制的に処理すれば損失が膨らむのは自明の理です。国有化をせずに自己破産させておけば、国が被る損失はここまで拡大しなかったでしょう。しかも長銀を民営化する義務と、それまで社員を喰わせる義務と、融資先を破綻させない義務を負わされたのですから、一体国有化とは何だったのでしょうか。
 長銀が行き詰まった最大の原因は、長引いた逆ざやだと考えています。政府は超低金利によって都市銀行の救済に動きましたが、思ったほどには経営改善に役立っていません。長銀は長期金利で貸し出すため、短期金利の低下は望ましい立場にありますが、それも借りてくれる相手が有ればこそです。市場で短期金利を繋ぎ調達し、長期貸出に回して利益を得ましたが微々たるもので、むしろ高利で誘って金融債を売りさばく方が大変になり行き詰まったものでした。系列子会社の担保不動産が大幅に目減りしたのは政府の不動産市場への無策が原因でした。問題の先送りをした長銀に責任があるのは間違いありませんが、行政の責任こそ問われるべきです。
 長銀の破綻認定の引き金となった5,000億円近い有価証券含み損も、1999年3月ベースでは推定1,400億円程度の含み損で、これから計算すると金融監督庁の試算でも100億円の資本超過ということになります。金融監督庁が算定基準とした1998年9月の株価水準は、長銀危機を救済できない行政の舵取り不安に過剰に反応した株式市場の影響に過ぎず、待てば回復が期待できたものです。行政の責任を問うことなく、膨らんだ損失を国税で穴埋めさせることになったことは大問題です。政府・大蔵省・金融監督庁は判断ミスを謝罪してしかるべきです。国有化で合意した自民党も民主党も同様です。
 今から考えれば、長銀に1兆円ほど資本注入して有れば、今頃それなりに市況も回復し、長銀も好景気を待って眠り続けることができたかも知れません。そうであれば、景気も昨年中に好転し、しかも長銀から1兆円を将来的に回収することさえできたかも知れません。いまから言っても始まりませんが・・・。

■ 片手落ちな投資家責任
 長銀の株式は、株主総会による承認を経ることなく国の所有に変えられました。しかも行政の誤った選択によって無価値の紙切れにされたのですから、呆れます。同時に劣後ローンのデフォルトも確実になるはずでした。劣後ローンは株主資本の次に返済順位が低いのですから当然のことです。ところが、金融監督庁は劣後ローン1兆800億円を全額国税で返済するといいます。気前の良い話ですね。その理由も歯切れが悪く、国有化は劣後ローンのデフォルト事由である「自己破産」にも「会社更生法適用」にも該当しないというものです。国有化は最近になって法制化されたとはいえ、債務超過2.4兆円の銀行は明らかに自己破産すべき銀行です。今から破産しても遅くないところです。
 しかし劣後ローンを全額デフォルトすると出資者である生命保険会社のいくつかは破綻するだろうし、国を相手取った訴訟問題に発展するのは間違いありません。それが煩わしいがために全額返済という暴挙を行います。金融監督庁にとっては他人の金でも、明かな背任です。裁判の長期化によって長銀の民営化が遅れるようなら好都合ですから自己破産させればよいでしょう。そもそも2.4兆円の負債を作ったのは当の長銀なのですから。その上で、出るところへ出て白黒をはっきりさせるべきです。生命保険会社には出資者責任は問われなくて良いのか、行政機関の誰が出資を求めたのか、政治家の誰が出資するよう圧力を加えたのか、白日の下に晒すべきです。1兆円もの無駄金がこっそり使われると言うのですよ。
 ここでも片手落ちがあります。長銀株主には100%の出資者責任を求めることです。つまり、10割減資、そして無配当ということです。ここで判らないのは、長銀は債務超過で破綻したのだから出資者が全額損失を被るのは当然という論法です。劣後ローン同様に「自己破産」でも「会社更生法適用」でもないという論法が罷り通るなら、国には市場価格で買い取る義務があります。ちなみに破綻発表後の株価は額面(50円)を上回っていたのですから、適正買収価格は最低50円です。25億株全てを買い取っても1,250億円に過ぎず、デフォルトにしない劣後ローンの10%に過ぎません。劣後ローンの出資者にも10%の出資責任を問えばよいのです。
 株主の大半は機関投資家から、投機家や一般投資家に移っていることを見透かした上での決定で、機関投資家でなければ訴訟提起しないだろうとの観測に基づいているのは明かです。資本主義国家でこんな暴挙を許して良いものかどうか、議論が必要でしょうね。

■ なぜ長信銀だけが国有化されたのか
#N3月に大手銀行へ7.5兆円の資本注入がされました。債務超過であった大和銀行にも注入され、安田信託銀行には富士銀行経由で注入されました。前者は近畿圏の問題銀行を救済する結果債務超過になるので止むを得ないという論法です。後者は資本超過の富士銀行に注入したのであって、富士銀行が安田信託銀行に使うのは自由だという論法が使われました。勝手に破綻認定されて国有化された長銀や日債銀は良い面の皮です。
 今回の資本注入についてもいずれ検証が必要ですが、資本注入の大儀名分であった貸し渋り解消には使われていないことが明らかになっています。3月の金融機関の貸出伸び率は前年同月比3.8%のマイナスです。三和銀行など一部の都市銀行はキャンペーンを展開して中小企業向け融資を増やしていますが、資本注入額の大半は有効に使われていません。企業や消費者の資金需要が低迷しているため、大部分は国債の購入に向かっている様子です。国が低利融資した公的資金を大手銀行が運用して、自己の財務改善の為だけに利益を上げることは、果たして許されることなのでしょうか?
 それはともかく、何故に長信銀だけは国有化して完全に破綻処理を行う必要があったのでしょうか。長銀と日債銀は身綺麗になった時点で売却されると言うことです。しかし既に優良顧客の大半は逃げ出しており、それでいて問題流通や問題ゼネコンへの融資は継続しています。しかも他行がメインのゼネコンの債権放棄には応じられぬと突っぱねており、ゼネコン処理を遅らせています。この点は第91回借金踏み倒しの債務放棄」で書きましたが、その是非を論じる必要があるものの、自行だけ泥を被らないというスタンスが許されるのか疑問もあります。もしも再建計画が暗礁に乗り上げて会社清算となれば、その損失は莫大になりますし、社会的批判も強まります。生保など大型機関投資家には大盤振る舞いするのに、この態度の違いは何でしょうか。

 いつまでも行政に片手落ちな金融政策をさせておくべきでありません。ときに過保護に、ときに冷酷にアプローチする姿勢は許すべきではないでしょう。しかも期待を集めていた金融監督庁も「同じ穴の狢」であったとは残念です。行政は大手金融機関を国家機関の一部とでも考えているようです。過去にOBを次々に天下らせて要職を占めさせてきたことも、身内意識を共有していたと見れば説得力の出る話ですね。そして、これまでの支離滅裂な行動も一本の線に繋がりますが・・・。

99.04.18

補足1
 長銀の関連ノンバンクや関連不動産会社への不良債権相当額が3.8兆、不稼働資産が1.2兆円もあり、2年以内に回収可能な資金は0.6兆円に過ぎないことを、1997年12月の時点で経営陣は知っていたことが明らかになった。「長銀再生2か年計画」を議題とした経営会議で、出席役員が関連会社の整理を急ぐべきだと主張したが、当時の大野木頭取が反発し、体力が回復するまでゴーイング・コンサーンで行くしかないと消極論を展開したそうです。大野木頭取の読みは大外れし、市場に情報が流布された結果、国有化への途をひた走ることになりました。すでに自己浄化能力が失われていたわけであり、ここで関連会社整理に踏み込むかどうかが長銀破綻への分かれ道だったようです。それにしても、1か月前の山一證券破綻を目の当たりに見ていたでしょうに・・・経営会議出席者の弱腰も問題ですね。

99.04.18
前頁へ  ホームへ  次頁へ