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経済の研究No.90
投機家常在、投資家不在

 投機家の定義については、第71回機関投資家救済は害毒」で済ませましたので、既定の話として書かせていただきます。

 近頃は店頭市場がずいぶんと賑わっています。これまでも新規公開銘柄を中心に人気が集まっていましたが、これが影響して全体的に好況のようです。ただし健全ではなく、不健全な好況に成っています。昨年の11月頃までは冷え込んでいた店頭市場でしたが、東証や大証の上場銘柄が相次いで崩れたことから、流入する資金が増加しているようです。時価総額では上場銘柄よりはるかに小さい店頭市場のことですから、同じ資金量でも値上がり幅が違うわけです。
 新規公開銘柄が好調である理由は、まず「ブックビルディング方式」(第34回を参照)が主流を占め始めたことにあります。本来は幹事証券会社の意向で高決まりする初値を適性値に下げるために始まった制度でしたが、割安感から初値が売出価格の2倍、3倍となる銘柄が相次ぎ、投機家が次々に新規公開銘柄に群がるようになったのです。投機家達は、初値やその後の高値に売り抜けては順々に次の銘柄に手を出すため、いずれも回転が利いて効率よく稼いでいるようです。最近は元気な銘柄が多く、比較的値崩れを起こしていませんが、いくつかの銘柄は急落しています。その株価が妥当かどうかはこれからの業績によって評価されることでしょう。

 また新規公開が一巡したことから、次はトレンドな銘柄に人気が集まっています。キーワードは「インターネット」「通信」「ハイテク」です。比較的堅調なこれらの銘柄に資金が集まった結果、実力の数倍もの株価を付けています。その典型が、インターネット銘柄のヤフーです。昨年11月まで500万円だった株価は、1月初旬に1,000万円を超え、2月下旬には2,000万円を超えて、3月には2,500万円をも超えています。また通信ではNTTが100万円を奪還し、NTT関連銘柄も相次いで上昇しています。ハイテクも同様ですね。ところが、人気が煽られ過ぎて実力の数倍もの株価を付けるものが相次ぎ、アンバランスを生じています。ヤフーのPERは2,000を超えています。
 またイメージが先行しており、少しでもキーワードに関連する銘柄は値上がりしています。それも、誰かが提灯を付けると皆で買い上がるという調子です。また経済誌などで格好良く取り上げられた銘柄も値上がりしています。その裏返しで、業績の下方修正などであっという間にストップ安を付ける銘柄も多く、また思惑だけで一日の株価が急変する例も相次いでいます。もはや投資家は不在で、投機家ばかりに成ったようです。

 昨年は個人投資家の市場離れが言われてきましたが、今年に入ってからは個人投資家も戻ってきているそうです。ただし、新規公開銘柄など比較的稼ぎやすい銘柄に限ってのようです。ですから正しくは個人投機家が帰ってきたと言うことでしょうか。シテ銘柄が随分と沈静化しており、準大手以下の証券会社が店頭銘柄やトレンド銘柄を推奨していることもあり、この現象は3月一杯は続きそうだとのことです。また、200円以下の低位株や、1,000円から3,000円程度で売買単位が100株単位の銘柄にも資金が集まっているそうです。やはりトレンドの一種なのかも知れません。決算期も、決算業績も無関係に、ただただ提灯が付いた銘柄に殺到しているようです。
 また3月に入って沈静化しましたが、リストラ策を発表したリストラ銘柄にも一時期買いが集中していました。発表から数日は急騰して、すぐさま急落するのがパターンで、ホットなうちにとりあえず触るという感じでしょうか。リストラの成否がはっきりしないうちから触るという前提からして、単なる投機家のゲームと化しているのが分かります。

 上場銘柄は本決算を控えて買い上がりにくいという理由は理解できます。このため店頭市場に資金が流れるのは仕方のないことです。しかし、業績と無関係に相場を玩ぶようでは、市場が成立しなくなるのは明かです。目先の利益ばかりに目を奪われていると、いつかは足下を掬われます。これが一部の投機家に限定される動きであれば良いのですが、どうやら大手機関投資家も参加している様子です。彼らも投資家失格、まさに機関投機家です。いずれ泣きを見るのは機関投機家のはずですが、その反動が遠からず訪れるでしょう。せめて3月末を乗り越えてからにして欲しいのですが。

99.03.03

補足1
 当初、第90回を予定していた「張り切る金融監督庁・再生委員会」はかなり時期を外しましたので、本稿と差し替えました。機会を見て、構成を変えた形で掲載したいと思います。

99.03.03

補足2
 先日D生命が、財形貯蓄の運用利回りを2.5%から1.5%に引き下げると通告してきました。終身年金などの利回りを引き下げられないことから、引き下げ易い財形に手を付けてきたものです。これまで5年間も毎月1万円積み立てた財形の純増額は、たったの1万3,000円です。ようやく純増額が増え始めるかと期待していただけに、利回りの4割減少はショックです。投機家としての失敗のツケを社員(契約者)に回してきました。まず、役員の給与を下げなさい。

99.03.03
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