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経済の研究No.34
ブックビルディング方式

 この言葉を聞き慣れない方もあるかも知れません。低迷がちな店頭株式市場での新規上場において入札に変えて導入された方式です。店頭株式以外でも使われますが、専ら店頭市場で好評だそうです。ブックビルディング方式は「需要積み上げ方式」と翻訳されています。引受証券会社が機関投資家に対して、当該株式が上場すれば「何円で何株買う意志があるのか、を聞き取る方式」です。この聞き取り結果に基づいて、新規公開企業の公開価格を決めるのです。

 これまでの入札方式であれば、人気企業には需要が集まることが予想され、どうしても高値入札をするようになります。とくに店頭企業の場合は公募株数が少なく、人気が集まりすぎると実力の何倍にも評価されてしまいます。またすでに上場済みの企業を基準に最低入札価格が設定されますが、これが人気に応じてやや高めに設定されることもあります。このため一層入札価格の底上げが行われてしまう傾向がありました。このため上場初値が公開価格を下回る銘柄も多く、売出価格の半値以下という銘柄も少なくありません。さらに言えば証券会社などが高値入札により公開価格を吊り上げているような動きも見られました。情報操作はし放題なので危険な状態であったと言えます。高値で公開されれば企業オーナーなどは巨額のキャピタルゲインを得られますが、投資家は大損をすることになります。長期的に見れば株価が低迷して多くの投資家に見捨てられるよりは、実力通りかそれ以下の公開価格のまま株式を保有する安定株主を育てた方が価値があるはずです。
 日本経済新聞7月8日の記事を参照すると、1997年9月30日に店頭公開したフォトロンから始まり、1997年中は29銘柄がブックビルディング方式を採用しました。これにはヤフーも含まれています。さらに今年6月末までに16銘柄が採用しているといいます。とくに昨年の29銘柄は1997年末時点で単純平均11万2757円であったものが、1998年6月末の時点で18万294円にまで上昇しているそうです。29社のうち20社が上昇し、フジシールのように公開価格の2倍以上になっている銘柄もあるそうです。ブックビルディング方式は公開価格が割安であれば買えばよいし、割高ならば下がるのを待って買えばよいので、投資家達は無難な価格を提示してきます。このために、公開価格は割安に決まる傾向にあるそうです。8月5日に上場する予定のダイエーフォトも700円の実力と噂されながら、売出価格は460円前後に決まるそうです。このため大きなキャピタルゲインを期待している企業は公開延期や見送りなど消極的な動きを見せ始めています。

 入札の場合もそうですが、適正な株価はどのあたりに予測すればいいかという問題があります。これを読み間違えるとOLCのように投資家が大きな損を被ることに成ります。一つの目安が株価収益率PER=株価/一株利益)です。例えば一株利益10円で株価が300円であればPERは30に成ります。仮に5円の配当が期待できるとすれば利回りは1.6%であるので、市場金利に比べてまずまずということです。当該銘柄の成長が見込まれて、翌年には一株利益が2倍になるとすると、PERは15、利回り3.2%が期待できますから、逆に一株500円で買っておいても損はない計算に成ります。新規公開企業は成長企業のはずでありPERは40〜50でも買われるようです。PERは同業種同士で比較されるのが普通で、その業種が成長産業か成熟産業かなどが判断のポイントに成ります。このため入札方式でもブックビルディング方式でも同業種との比較がされます。また一株利益が個々数年どのような延びをしているかもポイントです。果たして予測通りの一株利益を上げてくれるかどうかは、投資家の目利き次第ということです。市場の前評判に惑わされてはいけません。

 さらに言えば、PER値300などという企業の株式は持つだけ無駄です。したがって、経営者はPER値を引き下げるべく、コスト削減などに取り組むか、余剰資金で自社株消却をするかをして一株利益を引き上げる努力をしなくては成らないのです。

98.07.26
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