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弁理士報酬制度に関する調査と考�

第4章 弁理士事務所の収入
 別表2は,平成4年度に弁理士会が野村総合研究所に調査委託した「弁理士業務の将来のための実態調査報告書」(回収率49.7%)の抜粋である.

4.1 弁理士事務所の売上げ規模[4]
  • 弁理士一人当たりの売上げ規模を比較すると,単独弁理士事務所が4,260万円,所長経営事務所が4,621万円,共同経営事務所が3,286万円である.
  • 所長経営事務所は,所長のみがマネジメントを行い,他の弁理士は本業に専念できるために売上げが大きいと考えられる.
  • 共同経営事務所は,マネジメントを各共同経営弁理士が行うため,本業に専念できず売上げが小さいと考えられる.
  • 単独弁理士事務所は,所長がマネジメントと本業を行うが,他人のマネジメントは行わないため売上げが共同経営弁理士を上回ると考えられる.
4.2 事務所収入の税法上の扱い[B][I]
  • 弁理士事務所は法人格を取得できない
    • 課税は経営者個人に対して,個人と同率の累進課税が適用される.
    • 同時に損金の翌年繰り越しや引当金等の内部留保が認められない.
    • 事務所固有の資産を持つことができず,経営者個人が全リスクを負うこととなる.
  • 共同経営事務所も一つの人格として認められない.
    • 全ての共同経営弁理士が,それぞれ独立して確定申告する必要がある.
4.3 顧客との関係
4.3.1 大手企業が望む弁理士事務所との関係[E][H]
  • 大手企業は弁理士事務所に仕事を依頼するにあたり,扱い件数に関する契約を交わしている.ただし契約は書面に限らない.
  • 企業側から見れば,1事務所のみと契約するのはリスクが大きい.
    • 想定されるリスクは,例えば,事務所経営者の死亡や破産,事務所経営者との関係悪化,機密漏洩の可能性が高い等である.
  • 大手企業は数カ所の事務所に絞って出願を依頼する.
    • 多数の事務所と契約することは個別事務所の管理が大変であり,親密な関係を構築することが難しい.
  • 大手企業は,ノウハウの蓄積とリスク管理を行い,出願の内製率を高めつつある.
4.3.2 弁理士事務所が望む大手企業との関係[H]
  • 弁理士事務所側から見れば,1企業のみに依存するのはリスクが大きい.
    • 想定されるリスクは,例えば,企業の倒産,方針転換による出願の大幅減少,企業経営者や担当者との関係悪化等である.
    • また1社依存は,事務所の立場を著しく弱めるために危険である.
  • 主要顧客数は,複数弁理士事務所であっても意外に少ない.
    • 顧客数が多くなると顧客管理が大変であるのは企業の場合と同様である.
  • 第1位顧客への依存度は弁理士事務所において重要な問題である.
    • 複数弁理士事務所の30%程度に対して,単独弁理士事務所は56%と高率である.
    • 大手企業は少なくとも100件程度の年間扱い数を要求するから,1社の大口の大手企業と複数の小口の中小企業との仕事を受けてリスク分散を図るしかない.
    • 中小企業が大手企業と資本提携関係にある場合は,リスク分散の効果が小さい.
4.3.3 弁理士事務所が望む中小企業との関係[D][H]
  • 商標出願は,出願手数料及び謝金(1出願91,000円)に加え,10年後の更新期間管理料(1件100,000円程度)と更新出願手数料及び謝金(1出願79,000円)の収入が保証される.
    • 商標権取得に意欲を示す中小企業は,複数の商標出願を依頼するため,弁理士事務所の重要な収益源と成り得る.
  • 中小企業の特実出願は,大口顧客等との技術競合関係を勘案して受ける必要がある.
    • 弁理士には守秘義務があるものの,弁理士モラルに反すると考えられる.
    • 十分条件は,新規契約企業の技術分野が弁理士にとり理解可能な分野であること,所定数の出願が安定継続して得られること,大口企業と新規契約企業との間に資本 提携関係がないことを満たすことである.
4.3.4 弁理士事務所が望む個人発明家との関係[B][D][E][H][I]
  • 弁理士事務所にとって,個人発明家は労多くして益のない仕事である.
    • 個人発明家は特許を取得することに価値を置いており,権利意識が希薄である.
    • 知的所有権の法律,制度に対する知識が全くなく,権利を取得すれば利益が得られると誤解しがちであること.
    • 弁理士を代書屋として捉えており,弁理士のアドバイスに従わない
    • カネ払いが悪く,権利が取得できない場合のトラブルも少なくない.
  • したがって,個人発明家の依頼は,ほとんど受けないことが多いそうである.
  • カネに関するトラブルが多く,内金入金や,誓約書取得などの対策を講じている.
4.4 弁理士事務所のリスク回避[I]
  • 弁理士事務所は法人格を得られない.
  • 損害賠償に対しては,損害賠償保険に加入すればリスクを回避できる.
    • 損害賠償が請求される事例として,意見書提出期間経過による戻し拒絶査定,特許料納付期限経過による権利失効等が挙げられる.
  • 高額な立替払い金を含む運転資金の不足発生に対しては金融機関から借入する以外に有効な手段がない.
  • 主要顧客が減少するリスクに対しては,複数顧客の開拓の努力をするしか方法がない.
  • 運転資金不足に備えるためには,事務雑務部門を株式会社化することである[B][H]
    • 弁理士事務所から会計的に独立し,税率は法人適用となる.
  • 経営弁理士が株式会社の社長を兼務し,弁理士事務所の大部分の業務を株式会社に外注する形態を採用する.
  • 固定資産を持つことが可能であり,損害補償保険金や,営業車・事務所等の購入資金を全て経費として処理できる.
  • 内部留保を蓄積し,リスクに備えることが可能となる.
  • 資金借入面でも有利である.少額であれば経営弁理士の個人補償が不要である.
  • とくに大手の共同経営事務所に適している.
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