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弁理士報酬制度に関する調査と考

第3章 新しい弁理士報酬制度のあり方
 現在の料金体系は定額料金制である.弁理士会の弁理士報酬制度委員会は労働量に見合う新しい料金体系を模索しており,現在のところ従量チャージ料金と時間チャージ料金を検討している.本章では弁理士事務所及び出願人が志向するであろう料金体系について考察する.

3.1 従量チャージ料金[C]
  • ヒアリング時の協議メモの枚数,作成した明細書や図面の枚数,中間手続の回数等,目に見える仕事量で報酬を算定する料金である.
  • 双方納得の上で料金請求ができる.
  • 明細書を主に作成したのが出願人か弁理士か,図面は内製をしたか外注をしたか等によって詳細な料金を設定する必要がある.
3.2 時間チャージ料金[B][C]
  • 時間チャージ料金は,弁理士が1時間当たりの報酬単価を決めておき,当該出願に対して要した時間に基づいて算定する料金である.
  • 弁理士の能力はそれぞれ異なるため,弁理士側が報酬単価を提示するのが望ましい.
  • タイムカードによる個別案件の厳密な時間管理や,他の仕事の割り込みを防止する工夫が,公平性の配慮から必要である.
3.3 弁理士事務所と弁理士の分類[4]
  • 弁理士事務所は,単独弁理士事務所及び複数弁理士事務所に分類できる.
    • 複数弁理士事務所は所長経営事務所及び共同経営事務所に分類できる.
  • 弁理士は所属により,単独経営弁理士所長経営弁理士共同経営弁理士及び雇用弁理士に分類できる.
    • 共同経営弁理士は代表経営弁理士及び非代表経営弁理士に分類できる.
  • 雇用弁理士は特許事務所雇用弁理士法律事務所雇用弁理士及び企業雇用弁理士に分類できる.
3.4 弁理士事務所及び出願人が志向する弁理士報酬制度
  • 弁理士事務所は,弁理士報酬が唯一の収入源である.
  • 弁理士事務所は,月々安定した報酬を得ることを望み,前払いや現金決済を強く望む.
  • 出願人は,標準額表よりは割安な料金を望み,後払いや期日決済を強く望むであろう.
3.4.1 単独弁理士事務所が志向する弁理士報酬制度
  • 単独弁理士事務所は定額料金に従量又は時間チャージを加算する料金を志向すると考えられる.
    • 労働効率は弁理士の体調や年齢又は技術分野の得手不得手により変動するため,労働単価が安定しない.
      • 時間チャージ料金では出願人に不利益を与える.
      • 定額料金であれば最低収入は保証される.
  • 完全定額料金は,難易度の高い出願を受けることが困難であるから,労働量に見合う加算料金は必要であると考えられる.
3.4.2 複数弁理士事務所が志向する弁理士報酬制度
  • 複数弁理士事務所は時間チャージ料金を志向すると考えられる.
  • 定額料金では毎月扱う案件数によって収入が決まるため,月々の収入は安定しない.
    • 難易度の高い出願や裁判を中心に扱う月は運転資金にさえ困る可能性が高い.
  • 従量チャージ料金は労働量を正しく反映しないため,必ずしも収入は安定しない.
    • 労働量に応じて利益配分を行うことができない.
  • 時間チャージ料金は,事務所収入が安定する.
    • 大手事務所であるほど平均労働時間や労働単価が平準化される.
    • 労働効率も平準化されるから出願人が不利益を被ることが少なくなる.
3.4.3 大手企業が志向する弁理士報酬制度
  • 大手企業は定額もしくは従量チャージ料金を志向すると考えられる.
  • 大手企業が出願を内製するか外注するかは,時間チャージで判断している.
  • 社員の労働単価から損益分岐点を算出し,外注が割安であれば弁理士事務所に出願が外注される.
  • したがって,企業側は弁理士報酬が定額,もしくは従量チャージ料金であることが望ましく,コスト予測が困難である時間チャージ料金は望ましくない.
3.4.4 中小企業,個人発明家が志向する弁理士報酬制度
  • 中小企業及び個人発明家は大手企業と同様に定額料金を志向するが,最終的には従量チャージ料金を受け入れざるを得ないと考えられる.
    • 本報告では社内に特許管理組織を持たない企業を中小企業として定義する.
    • また,年間に0〜2件程度の出願をする中小企業は,個人発明家として扱い,それ以上の出願をする中小企業と区別する.
  • 一般論として,弁理士事務所にとっては手間が多く利益の少ない仕事である.
    • 特許制度の説明や技術の詳細な打ち合わせ等が必要である.
    • 現在の定額料金では事務所の労働単価に見合わない.
  • 中小企業や個人発明家は,請求金額に予測がつかない時間チャージ料金は敬遠する.
  • したがって,互いの妥協点として,目に見える成果に基づく従量チャージ料金を適用することが好ましいと考えられる.
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