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弁理士報酬制度に関する調査と考

第5章 弁理士事務所の支出
 弁理士事務所の支出が弁理士報酬を上回る状態では事務所を維持することができない.したがって,事務所の支出から弁理士一人あたりの労働単価を計算し,実際の報酬単価と比較することが必要である.そうでなければ,適正な利潤を確保することはできない.

5.1 弁理士事務所の支出[4]
  • 事務所収入は全額人件費と諸経費に消えると仮定すれば,弁理士一人当たりの諸経費は,単独弁理士事務所が1,258万円,所長経営事務所が1,440万円,共同経営事務所が761万円である.
  • 諸経費から家賃を除外したものを事務雑務経費と仮定すれば,弁理士一人当たりの事務雑務経費は,単独弁理士事務所が855万円,所長経営事務所が932万円,共同経営事務所が408万円である.
  • 共同経営事務所は,弁理士一人当たりの非弁理士が少なく,人件費及び諸経費の削減が可能である.
  • 所長経営事務所は,人件費及び諸経費が膨らむために経費も大きい.外国出願の扱い量が大きく,電話代・旅費等の負担が大きいことも経費増大の原因である.
5.1.1 非弁理士の人件費[H]
  • コンピュータの導入により,文書タイプ,請求書発行あるいは経理等の事務処理は経営弁理士本人が処理できることとなった.
  • 電話番,お茶汲み,コピー取りをする単純事務所員は不要である.
  • 庁や出願人との対応,明細書の下書き作成(いわゆる書き屋),図面のトレース,翻訳等の高度な能力が非弁理士には求められる.
  • 大手事務所は,内国出願では労働単価の安い単独弁理士事務所に対抗できない.
    • 大手事務所は超大手企業の出願,外国出願,裁判などの仕事を受けざるを得ない.
  • 所長経営事務所は,全ての仕事を所長が受注する義務を負う.
    • 小口よりも大口の出願,内国よりも外国の出願を扱わざるを得ない.
    • 外国出願は同時に多数の非弁理士が必要となるものの,それに見合う多額の手数料が確保できる.
5.1.2 弁理士事務所の諸経費[4]
  • 弁理士事務所において,人件費に次いで大きい経費は家賃である.
    • 家賃を決める要因は,立地と床面積である.
    • 事務所の多くは,都心の立地と広い床面積を要求するから家賃負担は大きい.
    • 弁理士一人当たりの床面積は,単独弁理士事務所で17.5坪,所長経営事務所で12.5坪,共同経営事務所で10.2坪である.
    • 単独事務所の床面積が広いのは,弁理士一人当たりの電子機器保有数が多いためであり,玄関や応接間等の空間も必要であるから,作業スペースはむしろ狭い.
  • 家賃に次いで大きい経費がリース・メンテナンス料である.
    • 弁理士事務所においては,多機能電話,FAX,コピー機,ワープロ,パソコン本体及び周辺機器及びオンライン端末等の多数の電子機器が必要である.
    • ワープロ及びパソコンは所員数に合わせて必要である.
    • 電子機器は一般にリース購入であるが,リース・メンテナンス料の負担が大きい.
  • 外注費(製図,翻訳等)も諸経費において大きい割合を占める.
5.2 弁理士事務所の支出を削減するためには
5.2.1 事務所の人件費の削減[E]
  • 大手事務所においては,弁理士業務に習熟した非弁理士が少なくない.
  • 所員評価は年間売上げ成績であり,弁理士であるか非弁理士であるかは関係がない.
  • 大手には弁理士が40人,非弁理士が200人以上の事務所がある.
5.2.2 事務所の諸経費の削減[D][H]
  • 家賃削減のためには,利便性又は作業スペースのいずれかを犠牲にする必要がある.
  • オンライン出願やサーチシステムの普及により,特許庁に近接して事務所を設ける必要性が薄れているから,多少の立地利便性は犠牲にできると考えられる.
  • 電子機器の削減が行われれば作業スペースの犠牲は最小限に済ませることができる.
    • 電子機器の削減はリース・メンテナンス料の削減にも貢献する.
    • FAX,コピー機,プリンタ,モデムの機能を一台の多機能コピー機に統合する.
  • 他事務所との提携により経費削減に取り組むことは重要である.
    • 近隣事務所と電子機器を共有するゆるやかな連携をする.
    • 先述の株式会社を共同出資で設立する.
    • 複数の単独弁理士が集まって共同経営弁理士事務所を設立する.
5.3 求められるコスト意識
  • 新しい報酬制度を導入するためには,弁理士一人当たりの報酬単価を提示できることが必要条件である.
  • 報酬単価は労働単価に適正な利潤を上乗せして決められる.
  • 労働単価を常時正確に把握するためのコスト管理を行うことが重要である.
  • また労働単価の引き下げには努力し,事務所の競争力を高めるべきである.
  • コスト算定においては,特許コンサルタント業務や先行技術調査などのコストも積極的に組み込む必要がある[H]
  • 別途謝金を要求しないこともコスト意識向上に対して有効である.
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