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政治の研究No.151
お医者さんがいっぱい

 医療費支出を抑制するために、診療報酬の引き下げが検討されています。しかし政府・与党の社会保障改革協議会は、診療報酬を俎上に上げながらも見送りました。診療報酬の引き下げが実現しない限りは、国民の自己負担額の増加しか途が無く、国庫の医療関連費への負担は軽減されません。
 小泉首相は診療報酬の引き下げ検討を指示したそうですが、自民党議員の一部や日本医師会など圧力団体の反対があり、実現は難しそうです。さらなる検討指示を出し続けるかどうかが焦点でしょう。特定郵便局局長会などの圧力団体の勢力が予想以上に低下している現状を鑑み、いつまでも圧力団体に阿る必要は無いと考えます。

 これまで国民の診療報酬への興味は薄かったと思います。保険適用外の診療を受けた場合には、その高額報酬に目を剥くことになりますが、多くの場合は保険適用ですので、自己負担額が低率であった従来は、全く気にならなかったというのが実情でしょう。しかし、自己負担額の引き上げや、不況による失業者の増加により、診療報酬への不満も増大しつつあります。
 一昔ほど前には、開業医も多く高額の医療設備を必要とする中で、高額の診療報酬も許されたと思います。しかし昨今では、開業医が減少する傾向を示し、医療法人による総合病院や大型病院が増加しています。医療法人が年々大型化していく現状を見れば、そこに蓄積されている資本の増大が著しいものであり、それは高額の診療報酬により支えられていると見えます。その資本の一部が政治家に配分され、圧力団体としての資金力に直結しているのであれば、これを改革することは必要急務です。

 医療法人による病院の大型化・寡占化が進む一方で、激しい競争にも晒されています。専ら開業医に不利な競争ですが、少ない患者を奪い合う現状も指摘されています。競争原理が働くのは良いと思います。報酬の割引は難しいので、付加サービスで競争することに成ります。立派な外観・内装・設備、そして送迎などでしょうか。一方で人件費圧縮のために医師の質は落としていると言います。
 医師の質という言うと語弊がありますが、専門能力に見合った給与を支給せず、ために安月給に甘んじ機械のように扱き使われる医師が増えています。「医は忍術」と言われてきましたが、「医は算術」の時代となった今、大型病院の医師にモラルやモチベーションを求めるのは無理な話でしょう。ここ10年間、医師の数は大幅に増加しています。一方で大型病院に勤める医師の割合も増加を続け、明らかに病院側の買い手市場です。高い報酬が病院に払われるのに、医師には払われず、自己増殖の原資となるばかりです。

 近頃では、その診療報酬に興味を示し、診療の明細発行を求める患者も増えているとか。高額の保険金支払いに追われている健康保険組合なども、診療報酬の透明化を要望し始めています。不必要な検査を繰り返したり、代替が利くにも関わらず高額の新薬を使う病院の在り方を、問い直す動きが活発化しています。単純に診療報酬の削減ばかりでなく、無駄な報酬を削減することも必要でしょう。
 さらには、可能であれば開業医回帰が増えることを望みます。大病院では、大型化する故の無駄が生じます。本来は軽減されるはずの事務業務の肥大化、そして事務職員の官僚化、医療補助職員の増加、医師や看護婦の待遇悪化、経費水増し等の不正・・こうした問題は開業医が増えることで改善が図られるはずです。様々な専門医を抱える総合病院は便利ですが、別に一法人が運用する必要もなく、行政がインフラ整備をした病院に、各専門分野の開業医がテナントとして入居しても同じではないでしょうか? その方が良い意味での競争が働いて、医療の健全化が図られると考えます。

 まずは不健康な医療制度を健康にするために、診療報酬の引き下げに加えて、医療制度全体の改革が行われることを期待します。その動きに医療系の圧力団体が暗躍するのであれば、それを掣肘することが、「本来は国民の味方である」政治家の仕事ではないでしょうか?
 また適正な競争原理が働けば、努力しない医師は淘汰され、結果的に増え続ける医師の数も適正化が図られると思います。儲かる専門分野に医師が集まるという事態も回避され、提供する技能と労働量に見合う報酬が得られれば、「お医者さんがいっぱい」という現状を打開できると思います。

01.11.18

補足1
 今は少し改善されているのでしょうが、かつては保険点数を稼ぐほどに収入になるために、検査や薬の投与を繰り返し、検査のための予備検査、投与の際の副作用防止薬など無駄が目立ちました。検温や血圧・尿検査も、全く必要のない患者にも実施したりして、とにかく点数を稼ごうと必死になる病院が多々ありました。
 最大の壁は、医師のカルテの閲覧には裁判所の令状が必要であることです。本人への開示がされても、素人の患者には全くチンプンカンプンですから、意味がありません。せいぜい投与薬の効能などを調べるので精一杯でしょう。入院ともなれば、検査や投薬を拒否するわけにも行きません。病院側にしてみればやり得、患者側にしてみればやられ損。ただし、ツケは国庫に回るという仕組みです。

01.11.23

補足2
 厚生労働省の調査によれば、2001年6月の開業医の月収(医業収入から医業費用を引いた差額。ただし、設備投資費用を含む)は、1999年調査に比べて5%増加(248.8万円)し、民間病院の一施設当たりの収益は19%も増加(525.4万円)しているそうです。医薬の公定価格と市場価格も7.1%あり、価格差解消が大きな課題であるとしています。
 医療機関が増えすぎて収益性が低下していると言われますが、現状でも他業種と比較すれば恵まれた環境にあり、医療報酬を含めた改革が必要と思われます。とくに高齢者向け医療の改革は必要急務ですが、政府の腰は重く改善効果は見込めません。第137回薬漬けと老人サロン」も参照してください。

01.12.29

補足3
 補足1や補足2の状況を踏まえ、政府・与党は診療報酬(含む医療材料)の2.7%引き下げを決めました。2002年度に医療機関に支払う診療報酬本体で1.3%減、薬や医療材料の公定価格を合わせた額の1.4%減という内訳です。患者と保険加入者の負担増も決定済みで、医療制度改革は凡そ定まったようです。
 日本医師会は診療報酬の引き下げに抵抗していましたが、小泉首相が患者と政府の負担増を指摘し、医療機関にも相応の負担を強く求めたことを受け、小幅ながらも引き下げることに譲歩したとされます。薬価差については、一定の幅を認定しつつ圧縮する方向で合意した模様で、最終的に薬価差を0とする目標は2年後の再改訂に持ち越される模様です。

01.12.29

補足4
 診療報酬は1点10円の点数制で、検査や投薬の回数により点数が積み上がっていく仕組みです。日本経済新聞2001/12/18朝刊から引用すると、風邪で2日通院したモデルケースでは、初診料(270点)・再診料(74点)・処置料(24点)・検査料(28点)・投薬料(160点)で、合計556点(5,560円)の医療費になるそうです。
 これは検査や処理が簡単な風邪の例ですが、高齢者の場合は処置料や検査料および投薬量が嵩む傾向にあり、あっという間に点数が積み上がってしまいます。

02.01.13

補足5
 医師の診察といえば、問診・視診・触診・打診・聴診に分けられるそうです。喩えインフルエンザであっても、これら診察を欠かさなかった依然と較べると、診察を省力化する医者が増えているそうです。一つは、診察能力の低下による誤診回避だと言われます。二つは、数多くの検査を行うことでの点数稼ぎとも言われます。
 とにかく疑わしい可能性を全て「検査」して、その検査結果から患者の「データ」を判断するという傾向が増えています。おそらく試験勉強に熱心で理論先行方の医師が増える中、検査機器に使われる医師は増えたと言うことでしょうか。
 簡単な診察で病状が特定できるのなら、検査は不要です。数多くの経験を積むことにより、誤診の可能性も小さくなるはずです。検査ミスによる誤診の方が怖いです。是非とも診察の充実を図って欲しいと思いますが、そのために医療報酬制度の全面的な見直しが必要となるのでしょうね。

03.01.03
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