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政治の研究No.137
薬漬け と 老人サロン

 関西系大手の医薬品卸から聞いた話では、「医者の使う薬は、業者の言いなり」なのだそうです。代替の利く医薬品の選択に限っての話ですが。総合病院では、一種の薬でも使われる分量が半端でありません。そこへ自社製品を押し込めれば、相当量の売上げに直結します。売り込み攻勢は激しく、値引きやオマケは当たり前の世界だそうです。利幅は薄く成りますが、競合他社もやっていることですので・・。巧く立ち回って、シェアを拡大すると旨味も増えるそうです。
 医者は医者で、確かに儲けがありますが、薬価切り下げなどもあり近頃は苦しいそうです。多め多めに薬を使って、薄利多売に励む必要が出てきます。世間で言われる「薬漬け」体質は、そこに原因があると言われています。手術後には効果が薄いと言われる抗生物質を、数週間に亘って投与するのが問題視されています。世界的には効能に否定的な医薬品が、習慣的に使われるとも言われます。医薬品Aを投与して生じる副作用を軽減する医薬品Bも併用し、医薬品Bの副作用を緩和する医薬品Cも使うというのもザラです。

 また別の問題に、病院の「老人サロン化」があります。歳を取れば、肉体的に支障が出てくるのは仕方がありません。しかし老人は、暇人でもあります。毎日病院に通い、アッチが悪いコッチが痛いと「待合室」に出勤します。医者の治療も受けますが、主たる目的は患者間あるいは医者とのコミュニケーションです。格安で時間がつぶせる病院は、長らく老人のサロンと化しています。病気ネタは格好の話題でもあり、病院を毎日ハシゴする患者もあって、無駄に医療費が使われています。
 サロン化することの弊害は、他にもあります。かつては老人医療の旨味が大きかったので、必要以上に病院が増えてしまいました。実需は薄いのに、バブルに踊ったと言うことでしょうか。もともと高コスト体質が多い総合病院では、患者の奪い合いまで発生しています。それにも関わらず、待合室には老人が溢れて、重度患者やサラリーマン患者が診療を受けられない問題も発生しています。老人サロンの廃止は、中期的に着手すべき課題でしょう。

 厚生労働省としては、1999年に30兆円を越えてしまった国民医療費の対策に、アレコレと思案中です。毎年1兆円ベースで増える国民医療費ですから、圧縮するための手を尽くすのは当然でしょう。しかし多くの対策は、政治的に潰されています。与党である自民党にとって、医者は大事な票田です。医者の利益を削るような政策に手を貸す理由がありません。むしろ旧厚生族を中心に、圧力を加えています。
 国民医療費の場合、患者負担(14.6%)も増えていますが、約半分が保険料負担で、残りが公費負担です。公費負担(32.9%)も重いですが、医療保険(52.5%)の負担増はハイリスクです。年齢層別に見ると、70歳以上が39%(12兆円)、65歳以上では合わせて50%を越えるそうです。一人平均では、70歳以上が85万円で、70歳以下が17万円だそうです(70歳というラインが妥当かどうか分かりませんが)。年金と同様に、高齢者は大きな利益を享受していますが、それを支える勤労者は将来享受できないでしょう。世代間の不公平が拡大する一方です。

#Nの国勢調査によれば、老年人口(65歳以上)が、年少人口(15歳未満)を上回ってしまったそうです。ますます老人サロンに通う人が増え、薬漬けで国民医療費は増える一方です。何らかの対策が求められます。

01.07.01

補足1
 政府は医療費削減対策の一環として、高齢者(70歳以上)の外来患者の自己負担額を、2002年10月から引き上げると発表しました。現在の月額上限は3,000円(大病院では5,000円)で、これを12,000円まで引き上げるそうです。当初は厚生労働省の上限40,500円案が検討されたものの、急激すぎるとの政治的判断で小幅値上げに。70歳以上の高齢者の医療費が、大幅な負担となっている現実を考慮しない「高齢者に優しい」改革に留まりました。
 高齢者の入院の場合、上限は37,200円(40,200へ値上げの予定)と格安。老齢福祉年金受給者では15,000円に留まります。高齢者ほどに高額の医療費が掛かる現状において、受益者負担は全く考慮されていません。ちなみに、一般患者の上限は63,600円。住民税非課税の低所得者でも35,400円。
 高齢者を優遇しすぎるとの批判が強まりそうです。手厚い治療が必要な高齢者には配慮が必要ですが、この程度の自己負担額では老人サロン化を食い止める役割を望めません。

01.12.29
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