前頁へ  ホームへ  次頁へ
政治の研究No.115
首相のスピード交代劇

 4月2日未明、小渕首相は病院に運ばれて昏睡状態に陥りました。依然として内実は不明ですが、表向きは脳梗塞との発表が成されました。青木官房長官が首相臨時代理となった直後に、首相不在のまま内閣総辞職となり、5日には森新総裁が首相に指名されるというスピード交代劇が演じられました。
 平時であれば、たとえ脳梗塞で首相が倒れたとしても、当分はそのまま内閣を存続させるところであったでしょう。しかし、自由党が政権から離脱を決めたばかりで政局に猶予がなく、沖縄サミットを控えるなどの問題もあり、内部争いをしている余裕を与えぬ為のスピード交代となったようです。一時は「官邸内での不慮の事故」という憶測もありましたが、前後の状況から見れば脳梗塞という病名も肯けるものがあります。

 当コーナーで小渕氏の名前が登場したのは、第23回自民党総裁選…慨嘆」でした。その後は、都合18コンテンツで名前が登場するほどに、注目してきた首相でもあります。ことに前期通常国会では、数多くの懸案法案を成立させる手腕を発揮し、記録的な法案通過率という実績を残しました。自自公連立という多数派工作にも成功し、啀み合いの多い諸派閥をとにかく乗りこなす成果を挙げました。しかし政権は、わずか20か月という短命に終わりました。
 問題の多い治世ではありましたが、不況の真っ直中で何とか経済悪化を食い止めることに成功しました。年金・医療・金融など改革すべき問題を次々に先送りした責任も問われるでしょうが、これらは首相1人に帰せられる責任ではないでしょう。野党の多くの失策に救われた面もありますが、とにかく国会運営には安定性をもたらして、自由民主党の安定期を演出したことは評価されるでしょう。

 脳梗塞という病気は、極度のストレスから来るのだそうです。外目には盤石となりつつ見えましたが、もともと気配りの人であった小渕首相には、色々負荷が掛かっていたものと思われます。何度も政権離脱のカードを切り続けた、かつて盟友の小沢氏に振り回され・・・ついに三行半を突きつけられたことが、危険水位を超した原因でありましょう。
 当面の政局は、自由党所属の議員のうち約半数が離党して新党「保守党」を旗揚げしたことで、大勢への影響は食い止められた模様です。結局、現実路線派が小沢自由党を見限った形になり、遠からず自民党への合流を含めた安定与党体制が維持されるでしょう。この事態を正確に知っていれば、小渕氏ももう少し別のアプローチで対応し、少なくとも最悪の事態は回避し得たかも知れません。
 いよいよ衆議院の解散が目前に迫ってきました。民主党の凋落、自由党の分裂、保守本流への期待、こうした背景を追い風にするならば、自由民主党が再び圧倒的多数を獲得する可能性が高いと言えます。暫定内閣とはいえ、ひとまず首相の座を平和的に受け得た森総裁の下で、当面は失地回復に邁進することになるでしょう。竹下七奉行の時代も終わり、YKK世代へのリリーフという展開を見せることでしょう。

 これからの自由民主党に期待することがあるならば、今少し近代的な政党に脱皮してくれることでしょうか。そろそろ戦後の亡霊達を排除し、偏った政治スタンスを排除して、より国民を意識した政党に変わってくれることを願います。特定の圧力団体に振り回されることを止め、健全な競争を維持することで、前向きで建設的な政策提案などを行って欲しいと思います。
 合わせて公明党には、より宗教色を薄めて広く国民に訴え、利益バラマキ型ではない現実的な政党に脱皮してほしいと思います。保守党には、あまりにも理念の感じられない政党名なので、早期に自民党に溶け込んで中途半端さを捨てることを望みます。
 自由党は、もうお終いです。政権離脱するならもっと早期であるべきでした。選挙を目前にしてのパフォーマンスは、あまりにも愚かしい話です。民主党もまたまた内輪もめの様相で、弱小抵抗野党がいつまでも遊んでいて良いものかどうか・・・今度の衆議院選挙は、野党に極めて厳しい選挙に成りそうです。

 何かと話題の多かった小渕内閣が終わり、日本の政治も一つ大きな時代を乗り越えたような感じがします。現職首相の病気退陣は、大平元首相以来だとか。得てして党内の結束は高まり、政局も安定するなどと言いますが、果たしてどうなるのでしょうか?

00.04.05
前頁へ  ホームへ  次頁へ