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政治の研究No.116
小渕氏弔う、出まかせ解散

 小渕前首相が5月14日に逝去しました。最後まで本当の病名は明かされぬままに、帰らぬ人と成りました。ここへ来て、小渕氏が緊急入院して以降の、不透明な動きが追及されることになりました。入院から一ヶ月ばかりで急逝したことは、その病状が脳梗塞などと言われる病気では無かった可能性が高く、後事を託されたという青木官房長官の発言が極めて疑わしいということです。

 ここへ来て、小渕氏の病状に詳しいとされる弁護士が、「私人でない首相の正確な病状が公表されないのはおかしい」として、HPで病状を公開しているそうです。また小渕氏の医師団が「うなずくのが精一杯だった」というコメントも発しているそうです(ともに「SPA!」の特報記事から引用)。確かにそれでは、青木長官の発言に全く信憑性が無かったことに成ります。
 しかし、だからと言って森首相の正統性が否定される必要はありません。首相職は禅譲を受けるものでなく、国会議員の投票によって選出されるものです。首相が人事不省に陥った段階で内閣総辞職を行った判断にもミスはなく、正当な手順により選出された森首相は、今さら野党に後ろ指を指される必要もありません。野党は、青木長官の「出まかせ」の責任を問うとしていますが、あの状況で「私の独断により」と青木長官が言えるはずもなく、ウソも方便のウチでしょう。

 小渕氏の病状が最後まで伏せられたことは、やはり残念です。日本を代表する公人が突然に倒れたというのに、全く情報を閉ざしたことは異常です。戦時下でもないし、政体的にも過半数維持が確認されたばかりの状況で、何故に自民党は秘密保持に走ったのでしょうか。森首相をスピード交代劇で選出しなければ不利になる、というのは党利党略の問題であり、首相選出が確定したのちも秘する必要は全くないと言えます。
 それにしても、民主党のマヌケぶりは本物です。誕生当初は結構期待をしたものですが、これまでの動きを見る限り、旧社会党並みに頑なで要領が悪いようです。もはや政権担当能力どころか、国政参加能力さえも疑われかねません。小渕氏が何らかの後事を託す能力を持っていたならば、竹下氏がしたように、録音テープででも発言を伝えようとするでしょう。テープさえもなかったのですから、その病状は推して知るべきです。本気で戦うならば、その時点で自民党の非主流を担いででも、自民党をかき回すぐらいのことをやっても良かったはずです。
 小渕氏の再出馬では随分と荒れたニューリーダー達も、あっさりと森首相を呑みました。これは明らかに緊急に後継首相を立てる必要を諭され、暫定であるとのネゴが取られた結果と見るべきです。その証左に、ここへ来て誰も森・青木両氏を批判する者がいません。有珠山問題・サミット問題・中台問題・自由党離脱を目前にして、内輪もめをしている場合でないことをよく理解したのでしょう。

 自民党は森首相の暫定内閣で、サミットまで乗り切るつもりだった様子です。しかし、急遽6月2日の解散を打ち出しました。出まかせがバレて仕方なくではなく、小渕氏の弔い合戦という名目の下、同情を集めての大勝利を期しているようです。某紙は解散のネーミングを募っていましたが、敢えて「出まかせ解散」と名付けましょう。野党による禊ぎ選挙の主張を逆手に取り、弔い選挙で一気にケリを着けるつもりのようです。
 小渕氏は国葬にこそ成りませんが、内閣・党の合同葬と成るようです。当人としては大きな実績を残しきれず、就任当初は「鈍牛」「冷めたピザ」「ボキャ貧」と揶揄されながらも再選を果たした手腕は評価され、最後に党利党略に利用されることに成りますが、ある意味で本望かも知れません。衆議院選挙は6月13日公示・25日投票の見込みと伝えられています。合同葬は解散と選挙の間の6月8日に据えられます。弔い合戦の気勢を上げて、一気に野党を叩くつもりです。

 おそらく次期選挙では、自民党が圧勝するでしょう。民主党や自由党は失点を稼ぎ過ぎましたし、政策上の論点が少なく、小渕氏の逝去で同情も集めやすいです。この危機的状況では、自民党も一枚岩を装う必要があり、それだけに強力な選挙運動を展開することでしょう。地滑り的な大勝利を得るのは間違いありません。
 割を喰うのは公明党でしょうか。小渕氏の手で解散・選挙が行われたならば、これまでの実績を宣伝して浮動票の取り込みが大いに期待できましたが、自民党の組織票がフル動員される上に同情の浮動票も流れると、現状維持か微増に留まると思われます。小選挙区での候補調整も十分でなかったようですし・・・。
 その後、森氏が再信認されるのは間違いないと思われますが、任期中にYKKのいずれかに禅譲する可能性が高いでしょう。森派は小泉氏に継承されていますし、就任の過程の不透明さと、党運営能力への不信感とが、長く政権を保証しそうにありません。

 さてさて、野党諸氏はどうするでしょうか。自民党が単独過半数を抑えたりすれば、もはや何も手が打てなくなります。これから選挙までの時間も短く、巻き返しの余地も多くありません。そもそも巻き返しの指揮を取る人材が無いようです。再び自民党独裁の時代が来るのか、与野党伯仲の時代が来るのか、小渕氏の逝去ですっかり見えなくなりました。

00.05.21

補足1
 そういえば、竹下元首相が今期限りで引退するそうです。島根県に圧倒的な地盤を持ち、キングメーカーとして力を奮った時代もありましたが、時代の流れですね。旧竹下派は小渕派と呼ばれていましたが、今後引き続き旧小渕派と呼ばれるようです。会長には橋本元首相を据えるものの派内で人気が無く、橋本派と呼ばれないそうです。選挙後は、誰か若手が会長に納まるのか、分割されて他派閥に取り込まれるのか、難しいところです。現職で倒れて逝去した大平元首相の派閥は、今も血脈が残っていますが。

00.05.21
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