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政治の研究No.114
首相直接公選制について

 前回を踏襲したいと思います。首相公選制の最大の利点は、国家のトップが密室で選出されないことです。日本は間接民主主義を導入していますが、国民が選出した代議員(衆議院議員)によって首相(内閣総理大臣)が選出されるという二段階プロセスを踏むために、国民から見て適任と思われない人物が、首相に選出されることが多いです。

 さて、公選と言いましても、現状の二段階プロセスでも公選は公選である訳でして、一応儀式として国会での代議員投票があり、首相は間接公選されています。間接公選で問題を生じているのは、比較第一党である自由民主党の総裁が、一時期を除いて常に、首相に選出されているという問題があるためです。
 自由民主党の総裁は、党所属の国会議員と党員代表によって選抜されており、国民の公選で選ばれていません。また党員代表の票数は小さめに設定されており、国会議員を多く取り込んだ勢力のボスが総裁に、その総裁が首相に、という構図に成っています。これが自由民主党に派閥を生み、金権による水面下の勢力争いを生じ、本来の国会運営がお座なりになる原因です。
 国民の公選になれば、少なくとも国会運営がお座なりになる問題は解消し、むしろ積極的に国民に訴え掛けられる人物が人気を集め、政局を主導する存在に変わって行くはずです。多少のパフォーマンスが目立ち、スタンドプレーが流行るでしょうが、最終的には国民に訴え掛ける実力のない人物は淘汰されるはずです。

 つまり首相直接公選制です。どれほど多くの金脈と人脈とを保有していても、国民から見て不適切な人物は首相に成れないシステムを構築することです。システムの器を作るのは簡単でしょう。単なる器だけなら、現行の総裁選出プロセスを踏襲し、党の縛りを強化して組織票の積み上げるだけで首相の座を射止めることに変わりはありません。まず、党総裁(党首・党代表)と首相(内閣総理大臣)を分離した上で、党内での首相候補選出の過程をオープンにすることです。
 首相の直接公選ということに成りますと、党として候補者をどのように絞るかという課題があります。米国の場合は、二大政党制が確立されており、党としての大統領候補を選出するプロセスも明瞭です。延々1年近くも大統領選挙に時間を費やすのはどうかと思いますが、それだけに世論の支持を受けられない候補は振るい落とされやすく成っています。日本の与党・野党がそれぞれ明瞭なシステムで候補選出を行ってくれると良いのですが、まだまだ途は遠いでしょう。

 また、無党派候補の扱いも問題です。東京や大阪などの知事選では、泡沫候補が多々見られます。中には単なる売名のために立候補を重ねている候補も見受けられます。首相選ともなれば全国区ですから、無意味に泡沫候補の立候補を認めるのもどうかと思われます。歯止め無い泡沫候補の乱立は、対外的にも恥ずかしいことです。
 仮に泡沫候補の1人が首相に選出されたとしても、就任後の国会運営では全く支持を受けられず、政局運営ができないという問題も生じます。国会内に与党を得るためにも、立候補には所定数の現職国会議員の推薦が必要であるとの制限が必要だと思います。所定数の設定次第では大政党に有利に働きますが、所定数を集められず独自に候補を擁立できない小政党が合従連衡して、パワーバランスを変えてくれることにも期待できます。

 しかし本当に変えなくてはいけないのは、首相のあり方だと思います。今の日本では、首相になることで多数の金脈や人脈を得ることができますが、それを得るために手持ちの金脈や人脈をフル投入しなければならない、という問題があります。それ故に、首相以下派閥のボス達は無用な金権闘争・政治謀略に明け暮れるという愚行が展開されます。
 首相の役職は、あくまで名誉職であって、首相個人が利潤を得るような職であってはダメだと思います。首相は薄給に甘んじ、あらゆる悪事に手を染めないことを誇りとし、国民がその姿勢に喝采を浴びせ称賛するような制度を実現すべきではないでしょうか。米国大統領を例に挙げるまでもないでしょうが・・・。

00.04.02

補足1
 結構古い作品ですが、一倉治雄監督の「国会へ行こう!」という映画作品があります。政権を陰で牛耳る元首相は、金権政治にまみれており、さらに首都移転で巨富を得ようと暗躍しています。対する非主流派の旗頭である松平代議士(緒形拳)が、政略と謀略を尽くして対決しようとするストーリーです。その中で、首相公選制の必要性を語らせています。興味がおありの方は、是非ビデオ屋さんへ。

 小泉首相は、新政策の目玉に首相公選制を掲げています。任期を伴う現職首相には有利ですが、なかなか新人候補が当選するのは難しいです。変にタレント首相などが就任すると、政治が混乱するのは課題です。米国方式を採用するには、自民党に対抗しうる第二政党が必要ですが、政権担当能力を要求されるのは仕方がありません。
 県知事には20年以上の長期政権を握っている人がいます。首相が巨大な利益を握ってしますと、政治は今以上に混乱を来すでしょう。バランスが悪くとも現状の派閥闘争方式が安全かも知れません。我々有権者が賢く成らなくては、利益誘導型の金権政治家が首相の座を占めてしまいます。

01.05.13

補足2
 首相直接公選制を導入したのは、イスラエル一国だけであったそうです。結果は、議会が多党化して連立が激増し、少数党に与党が引きずり回される散々な状況であったそうで、廃止になっています。これは、国会が比例代表制を採用していたことにも原因があるのですが、首相と国会の関係が曖昧であった影響が大きいとのことです。
 首相が直接公選されるようになると、国会との関係が難しくなるようです。内閣総理大臣に国会(衆議院)の解散権はあるか、国会に内閣総理大臣の不信任決議ができるか、内閣総理大臣と国会の意見が対立したら収拾する方法は、内閣のメンバーは過半数を国会議員から選ばずとも良いのか、等々あります。また、その整理次第では大統領と実質同じになる危険もあります。

 首相を直接公選することは、政治の透明性を高めるには有効です。しかし、独裁政権を築かれてしまったら、国民は手も足も出なくなる危険があることを、忘れてはいけません。特定の人物に強大な権力を与えることは、極めてリスキーなことなのです。改革には適しますが、劇薬は長く使えません。
 AERA2001/05/21号に、小林彰美氏の「首相公選制」というコラムが、掲載されています。

01.05.20
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