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政治の研究No.106 |
ポン太の新エネルギー論 |
今年11月22日、埼玉県狭山市で墜落した自衛隊機が、送電幹線をブチ切ったことで、東京圏は大規模な停電に見舞われました。数秒の瞬時停電から数時間の長時停電まで、影響は様々だったようですが、こんなことが大きなニュースになるほど、日本では電力に対する信頼が強いです。裏返すと、停電への危機意識が弱くなっているということでしょうか。
都内では地下鉄が一時運行停止し、都内の重要設備のいくつかでシステムダウンが発生しました。通常はバックアップ電源の確保や、重要機器への無停電電源配備を行うはずですが・・・商用サービスでさえ停電に対する油断が大きいのですね。油断で失敗を招いた企業が、東京電力にクレームを付けたという呑気さですから、いかがなものでしょう。
海外での停電は、日常茶飯事です。東南アジアでは数日の停電も珍しくなく、米国でさえ短時停電は頻繁に発生しています。そのため停電はある程度仕方のないことで、停電で困る機器には無停電電源を備えるなどの対策が図られています。自己責任が原則だと言って良いでしょう。
日本では、電柱工事にさえ停電させない工夫を採用していますし、予測できない活線事故でも生じない限り、まず停電は生じません。仮に停電が発生しても停電区域を最小エリアに抑制する区分保護が徹底していますし、救済可能なエリアには迂回ルートや冗長ルートから給電を継続するシステムが完備されています。最近のパワーエレクトロニクス機器の普及で、高調波ノイズが発生しやすい環境にありますが、これも積極的に除去するシステムが設けられています。あまりにも高品質な電力が提供されており、ある意味で過剰サービスかも知れません。
日本の電力会社は神経質なほど、給電電力の質に拘っています。ユーザーはそれを当然だと考えているようですが、果たしてそうでしょうか。昔は豆電球を光らせるだけで良かった電力が、今では生活に欠かせないインフラの一つに成っています。家庭に備わる電気機器の種類は増加し、個々の消費電力は抑制される方向ですが、ユーザーニーズは膨らむ一方です。生活に必需でない部分にも、同じだけの質の電力を同じ料金で供給する義務があるのかどうか、疑問ですね。
「日本の電気料金は高い」という批判を良く聞きます。電話料金に関しても同様ですが、サービスの質を抜きにして、内外格差を強調している面が目に付きます。米国のように停電が頻発しても、多少のノイズが乗っていても良いという前提でサービスするならば、日本の電気料金は安くできるでしょう。もちろん現在の設備投資を回収し、過剰なサポート機器を全て外したとして、の話です。しかしユーザーとして、月々の電気料金が半額になったとしても、質の悪い電力を送電される方が、結果として不経済になるのではないでしょうか。とくに一般家庭では。
新聞記事を丁寧に眺めていると、電気料金引き下げを求めているのが、大規模な工場を構えている業界の人間であることに気付かれるでしょう。政治家やエコノミストの発言でも、その背後にはそうした勢力があると見て良いでしょう。たとえば精錬工場、産業ロボットを使うような大規模生産工場、あるいは百貨店など大手小売業、いずれも自らの電力使用量が桁違いに大きい大口需要家ばかりです。精錬工場などではコストの大部分が電気代だと言われます。生産工場や大型小売店舗でも電気代の軽減は収益改善に大きく働きます。そのため引き下げを求めていると見るべきです。
家庭の場合、月々電気代が5,000円浮いたとして、年間に6万円です。しかし落雷事故や停電によって、必要なときに必要な電力を受けられなかったり、電子機器が破損するようでは大きな損失です。軽減される6万円との損得を考える必要があるでしょう。停電を避けるべく無停電電源装置や保護機器を買うとすれば、初期費用や維持費がバカになりませんし、住空間も狭くなります。損得以前の問題化も知れません。「電気料金が高い、高い」とぼやかないことも一考です。
それで大口需要家です。彼らは多少電力の質が低下しても、料金が半分になればペイするでしょう。おそらく自家発電設備によるバックアップ体制が整備されているでしょうし、精錬工場や生産工場でノイズ除去まで施した高品質は必要ありません。だから彼らは質か料金かと問われれば、迷わず料金を選択するのでしょう。
今年は原子力に受難の年でした。東海村事故、プルサーマル計画不正発覚など、日本の発電システムの核になる原子力発電は、今後期待できません。そうなると、手軽な石油火力への逆戻りしか選択の余地がありません。年々増加する電力需要を圧縮しない限り、発電設備の新設は避けられず、設備更新を含めた電力会社のコスト負担は莫大なモノになるでしょう。もはや値下げどころでは無いですね。
ここは大口需要家に、自家発電システムの充実を急がせるべきです。今更ディーゼル発電も無いでしょう。太陽電池や燃料電池がメインとなるでしょうが、夜間電力の活用やデマンド制御の導入なども後押しして、電力の自給率を上げて貰うべきです。太陽電池や燃料電池はようやく実用システムが増え、導入コストも下がっています。しかし、商用電力と競合できるコスト水準にありません。
電力会社自身や政府・自治体から補助金を出してコストを引き下げ、導入を促していく必要があります。同時に自給率の努力目標を行政指導で導入することも必要でしょう。大口需要家が一斉に新エネルギーシステムの導入に踏み切れば、その需要を見込んで導入コストのディスカウントが可能です。少し官民一体での新エネルギー導入に取り組んでみませんか。
土木工事はたしかに景気対策のカンフル剤ですが、出来上がった公共財が有効に使われない不幸があります。それよりは、大口事業家に自家発電システムを普及させるために税金を使う方が、マシでしょう。法人税の軽減措置など税制面でのフォローもあれば、大きな追い風になってくれるはずです。最終的には、国内産業の足腰強化に繋がり、電力会社も過剰になる設備を老朽設備から順番に廃棄していき、良いサイクルを生んでくれると期待しています。
総体として新エネルギーが安くなれば、これまで以上に一般住宅への設置も増えるでしょう。そこには電力に対する資産認識、事故に対する自己管理意識が芽生え、自ずと節電意識も育つのではないでしょうか。一般家庭では、今の電気料金は無駄遣いの許される水準です。これ以上安くなれば、一層電子機器の使用が増え、ものぐさな国民ばかり増えるのではないでしょうか。
99.12.26
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補足1
我が家の電気料金は月間3,000円程度です。夏場でも4,000円には成りません。月々1,500〜2,000円のために無停電電源や保安機器は変えません。家の中で一番働いている電子機器が、パソコン。次いで電子レンジ、冷暖房機器、オーディオ・・・。
平均的な家庭では月間10,000円前後と聞きますので、本文中では電気料金が半額になると仮定して書きました。しかし、現実には電気代徴収に一定の費用が掛かっているはずで、そうそう半額には成らないでしょうね。
また太陽電池システムを一戸建て住宅に設置したとしても、発電してくれる昼間は不在であることが多いですね。余剰になった発電電力は蓄電池に貯め込むか、配電線を通して売却するかするわけですが、その電力の質を一定に保つためには結構なコストが必要です。積極的に新エネルギーを導入しようと思うには、商用電力の電気料金を大幅に引き上げるか、発電電力の買い取り料金を高水準にするか、いずれにせよ行政的判断が必要なようです。
もちろん国民の電力に対する意識改善を図れれば良いのですが・・・なかなか。
99.12.26
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補足2
電力同様に水道でも言えますね。自家用車の洗車や、植木の水やり、玄関先の水撒き、トイレの洗浄・・・殺菌された蒸留水を使う必要性は、全くありません。それなのに、我々は意識することなく高品質の水資源を無駄遣いしています。もちろん意識して生活している方もありますが、雨水を受け溜めてトイレの洗浄に使うまでの配慮はないでしょう。コストも掛かりますしね。井戸水があったり、別系統で無殺菌水用の水道管を整備しても良いのでしょうが、日本ではそこまでする方が割高な印象です。都会の水が飲めなくなって、ミネラルウォーターを調理に使うような現状は、ある意味で高品質と中品質の使い分けなのかも知れませんが・・・。
99.12.26
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補足3
自家発電電力を電力会社に売ること、つまり売電ですが、これは長い間法律で禁止されていました。自家発電機と商用電力系統を繋いで運転することを系統連系と言いますが、電力を買うにしろ売るにしろ系統への悪影響が大きいためです。中でも買電は、不安定に供給されるため、既設の保護機器では対応できないとの主張でした。
しかし、1995年12月に電力事業法が改正されて、卸電力入札制度(大規模発電設備を持つ事業体:独立発電事業者(IPP)から電力会社が買う)が導入され、2000年には電力小売りの自由化(IPPが直接需要家に売る)を盛り込む再改正が行われる予定です。IPPは主に大規模な事業用地を所有する鉄鋼・石油・ガスなどの重厚長大産業で、自社用地内での消費を前提にせず、最初から電力の小売りを目指しているようです。
また電力各社は、自社の本支店や事業所を中心に、新エネルギーシステムを絡めた実証設備を導入して、システムの分析を行っています。親密企業を中心にして、どんどん実用システムが導入されていくと望ましいのですが。
00.01.01
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補足4
電力会社にお勤めの読者の方からご意見がありましたので、ご紹介します。
●IPPは、独自のルートで仕入れた1次エネルギー(石油・石炭・LNG
等)を発電に用いて電力会社より安い値段で電力を供給できると触れ込ん
でいますが、それには幾つかのからくりがあります。
●第一にIPPには電力の供給義務がないため、必ずしも高品質の電力でな
くても良いこと。
仮にIPPが供給不能になった場合、電力会社はIPPの顧客に対しても
供給義務を負うという不公平な状態となっています。
つまり、需要が減っても発電設備のキャパは現状通り必要になります。
●第二に出力が一定規模未満の小型発電所には環境設備の配備が免除される
ため、その分設備投資額が少なくてすむこと。
環境設備が高く採算性が悪いとして新規参入を断念した某商社もあるほど
環境設備というのは高いのです。
以下、私見だというお話ですが・・・
●電力会社は地域独占をいいことに企業努力を怠って来たことも事実です。
●高品質な電力の供給のためとはいえ、安全率を高く設定した設備投入をし
ていることもあります。
●おそらくどの電力会社も積極的に外に展開しないことでしょう。彼らは現
状の需要を守るのに躍起になるでしょうから・・・。
●今後環境問題に関する関心が益々高まって環境設備の取付が義務づけられ
たとしたら、益々IPPに勝算はありません。
とくに私見の部分は参考になりますね。
00.01.02
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補足5
#N末現在のIEAとNEDOの統計を参照します。世界の太陽光発電は39万キロワットだそうですが、日本は13万キロワットで1/3にも達します。日本の総エネルギー供給量に占める新エネルギー発電の割合は、太陽電池ほかを含んで1.2%に過ぎないとのことです。まだまだ導入の余地はあります。まずは価格次第でしょうか。
対して風力発電は、世界の984万キロワットに対して、日本は3.8万キロワットです(2000年末には8.3万キロワットに拡大する予定)。地勢的な違いもありますが、風力はまだまだです。風力に一番熱心なのはドイツで258万キロワット、次いで米国の205万キロワットです。
また1キロワット当たりの発電コストは、風力で16-25円、太陽光発電で70-100円、石油火力で10円・・・太陽光発電に補助金を出すにしても、かなりの高額ですね。
日本経済新聞00/01/08夕刊から引用
00.01.08
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