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政治の研究No.104
俺達はグミンじゃない

 二流政治国家の政策に、グミン政策というのがあります。グミンとは愚民、つまり愚かな国民という意味ですね。政治的に未成熟・未発達で、政治を国民に理解させたくてもさせらない三流政治国家とは違い、ある程度理解力のある国民を欺瞞して、愚民であり続けさせる政策です。
 グミン政策の利点は、行政が主体となって、強力な政治運営が可能になると言うことです。国民が権利や主義主張を強く訴え続けた場合、政治運営が滞ってしまうことがママあります。改革すべき問題が目前にあっても、国民の利害関係を調整するウチに機会を逃して仕舞うという問題を回避することができます。ドラスティックな政治改革はグミン政策において、最も有効に機能します。
 グミン政策の欠点は、政治が腐敗しやすいことです。国民が知らないことを良いことに、政治家や官僚が好き放題してしまい、結果として政治運営が滞ってしまうことがあります。とくに汚職などが横行して公私混同が著しい場合、一時的な停滞で済まされず、大きなツケを遺すことがあります。利点と欠点を比べるとき、欠点の方が著しく大きいです。

 実際のところ、政治改革の推進は、グミン政策の如何に関わらず、どれだけ有能な指導者と、それを支える優秀なブレーン組織があるかが問われます。有能な指導者を欠くが故にグミン政策が必要であり、事実を隠蔽する必要があるのです。同時に、無能な指導者達が居座って、より事実を隠蔽する必要が高まります。これまでの日本は常にグミン政策を指向し、現実に行使してきました。「シラシムベカラズ、ヨラシムベシ」という言葉が、グミン政策を象徴する言葉です。
 グミン政策を行うためには、国民をグミンに変えなくては行けません。第一に多くの情報を持たせないことです。第1回知識エリート論」に書きましたが、主要な情報は全て政治家や官僚で独占し、多くの国民は知識迎合層に留めておくことが有効です。情報され与えなければ、日本の政治がどうなっているのか、サッパリ分かりません。新聞では政治の茶番劇ばかり見せて呆れさせ、有識者には勝手なコメントを連発させて実体を歪めさせます。歪んだ像から正しい像は掴めません。
 第二に画一的な価値観を持たせることです。多様な価値観の存在は、国民同士で議論を深めてしまう危険があります。現在の政治体制を批判したり否定したりする思想は、芽の段階で摘んでおく必要があります。政治家の発言を真実と信じる、官僚の施策を有り難がって受ける、忠実な国家の奴隷であることを疑わない、そんな「立派な国民」を育てるべく画一的な教育を行います。日本では、偏差値教育の導入によって、まずまずの成果を収めています。一頃よりも価値観の多様さは失われているでしょう。
 第三に興味の対象を政治から逸らせることです。TVやラジオでは、愚にも付かないバラエティ番組と、ゴシップばかりを追うワイドショー番組などで埋め尽くし、雑誌以下の媒体も政治から程遠い方向へ関心を向ける工夫がされてきました。とくに若者への効果は絶大で、ニュースに触れる機会を少なくし、かつ加工されたニュースを信じて疑わないように誘導してきたと言えます。政治そのものへの関心を持たせず、関心を持つ者には失望させ、失望しない者にはペナルティを課すような操作が続けられてきました。

 しかし、日本で続けられたグミン政策も、思ったほどに成果を得ていません。何よりも依然として啓蒙活動に熱心な有識者が多く存在していることと、海外から多様な情報が流入していることとが、日本国民のグミン化に一定の歯止めを掛けていると言えます。それでもグミン政策は、それなりの成果を上げています。中身のない流行スタイルを追い求め、政治への関心を失ってしまった不幸な若者が増えています。その若者たちが育てる子供達も、同様に育って行くでしょう。とはいえその若者たちも、今の社会システムはどこかおかしいと気付き始めています。
 日本の政治では、グミン政策の利点であるドラスティックな改革は、大きく後退しています。戦後10年間と、その後の40年間とを比べると、この40年間の政治の進歩は限りなく少ないです。世界では変革が進んでいるのに、日本だけ遅れています。なぜなら、日本の政治家や官僚の大部分がグミン化しているからであります(ご本人は否定されるでしょうが)。欠点である政治の腐敗だけは、どんどん進みました。最近でこそモラルハザードという欧米文化(?)が持ち込まれましたが、これまでモラルハザードなど当然でした。
 ここへ来て、日本の政治機構の行き詰まりは確実です。巨額の国債を発行して借金体質に陥り、有効な経済政策も打ち出せず社会問題は深刻化し、にも関わらず政争とスキャンダルは耐えません。もはやグミン政策化せずとも、国民の政治への関心は薄れ始めています。諦めと言っても良いでしょうか。しかし諦めの中から、日本の政治を変えなくては行けないとする声も出てきています。
 幼稚な書生論(ウチのことなのです)も多いですが、インターネットという媒体の出現が、グミン化への歯止めにも成りつつあります。互いに意見を主張しあって議論を進めることは、価値観の多様性を持つことです。豊富な知識を互いに持ち寄ってくることもできますし、グミンを量産するメディアの介入も軽微です。インターネットをテコにして、国民のグミン化を食い止めましょう。

 我々は自分がグミンでないと思ったときから、グミンで無くなるのです。一人一人がグミンで無くなっていけば、あとは政治家や官僚の中に紛れているグミンを狩り出して、彼らのグミン意識を変えて行くだけです。国際水準並みの一流政治国へ進化し、明るい21世紀に繋がる新国家への脱皮を目指して、とにかくグミンの名を返上していくことにしましょうか。

99.11.19

補足1
 グミン政策その1。介護保険料の凍結
 介護保険は、なぜか保険を掛けていない人が貰えます。そうえいば年金受給も、今の高齢者が優遇されていますね。物価スライドに賃金スライドで、掛け金以上に優遇されています。その負担は、我々後に続く世代です。その上に、介護保険料の徴収や、年金保険料の引き上げですから。しかも制度的に10年以内で行き詰まるかも知れませんから、「ヤラズブッタクリ」と言えましょうか。
 ところが介護保険料を徴収し始めると有権者の抵抗が目に見えます。年金保険料の問題も先送りが決まっています。目前に控えた衆議院選挙までは回避したい、でも法施行が決まっているし・・・というわけで保険料だけ凍結。支給は開始。これを喜ぶ有権者はグミンであります。いいですか、そんなお為ごかしで騙せる国民だと思われているのですよ。

99.11.20

補足2
 グミン政策その2。直接税の引き下げ
 所得税・法人税・相続税の引き下げが実施・検討されています。国税の使い道が無いほど余っているのならともかく、豊かな国民の懐を豊かにするために、豊かでない国民の懐を貧しくする政策です。直間比率是正などと抽象的な概念で説得を試みていますが、要するに富裕層を味方に付けようとする魂胆ですな。
 国民の負担増意識を回避するために、地域振興券をばらまきましたが、経済効果の程は疑問が残りました。政府・与党は効果のほどを強調しておられますが、使えた国民、使って貰った小売店での評判は今ひとつ。面倒だったわりに消費拡大に繋がりませんでした。景気回復は株式回復のお陰、壮大な実験はやはり愚挙でした。
 一応振興券を貰えた国民は満足したようですが、それは史上最大の赤字国債に裏打ちされた結果ですから、本当に満足しているとグミンですぞ〜。

99.11.20

補足3
 グミン政策その3。企業献金の継続
 せっかく法制化して、今年には廃止になるはずだった企業献金。自民党の激しい抵抗で、骨抜き成る危険が・・・。その理由が揮っています。期待したほどに個人献金が伸びていないから、とのこと。当然でしょうね。個人が浄財を叩いて献金するほど政府に食べさせて貰ってませんから。「政党に一定額の個人献金を行った場合、相続税の税額は大幅に減免する」と法制化してはいかがでしょう?
 廃止の検討を見送るほか、検討条項の削除まで要求しているというので、自民党の一部議員の見識には呆れます。内部批判もあるようですが、どっちかといえばポーズの面が強いように感じられます。代わりに政党助成金を減らそうという議論もありますが、企業献金とは次元の違う話です。
 選挙のときにばらまく実弾(現金ですな)は借入である自民党は、助成金では返済できないので、献金での返済を目論んでいるとのことです。献金が金権選挙の根元なら、献金全廃という選択肢もありますが、国民には気付かれたくないのですねぇ。

99.11.21

補足4
 グミン政策その4。選挙運動
 選挙に勝つためには有権者の支持が必要です。有権者の理解や、応援は無用。必要なのは支持票だけです。したがって、選挙も公約で争うというよりも、お願いが主体です。「今度地元に銅像が建つので、ぜひもう一期当選させて欲しい」と言ったセンセイが居たとか居ないとか。
 選挙では饗応も平気ですし、地元の陳情や苦情整理も精力的にこなしています。しかし特定の有権者の利益だけを優先して公益を無視するので、良いのかしらン。また当選してしまえば、有権者は「ただのグミン」と考えて居られるセンセイも多いようで、必要以上に尊大であるのも見掛けます。公約未達成でも平気ですし、公約違反も平気でなさいますから、次期選挙でもお願いしか言えないのか。グミンなのはセンセイの方かも知れませんね。

99.11.21

補足5
 日本には縁がないので、忘れるところでした。グミン政策のもう一つに、国民を熱狂させる方法があります。例えば、ピューリタン革命、フランス革命の国民公会、その後のナポレオン政権、ナチスドイツなど、主に革命指導者によって主導される熱狂的状況も、ある意味で国民の正常な思考を妨げるので、グミン政策ですね。
 革命の場合は、熱が冷めてしまうと終わりで、いずれもその反動が大きく出ています。国民は熱狂したことを恥じ、誘導されたことを反省しますが、時間が経つとやはり同じことを繰り返します。
 日本の場合、熱狂的なグミン政策というのは、少なかったかと思います。太平洋戦争での大本営発表などは一例に成りますが、前提として正しい情報を与えないグミン政策が敷かれていましたので、戦後に恥じることも反省することも無かったように思います。

99.11.23

補足6
 石川県在住の読者の方から、細川政権はどうだったか、と問われました。
 国民から見た細川首相はどういう人物だったでしょうか。高貴の生まれで、颯爽として斬新で、発言は明瞭で威勢良く、県知事として行政トップの経験もあり・・・なんて感じでしょうか。しかし、マスコミの情報操作の面が強く、実像ではなかったことが分かります。我々はマスコミの描く人物像に惑わされ、彼もまた自民党一派と変わらないことを知らされました。
 マスコミは確かにウソを言ってなかったのですが、何となくイメージを膨らまされたのも事実です。そこには、ヒーローの出現を待ち望む国民感情があったものと考えています。その国民感情さえ誘導されたものであったはずですが、その後も小泉氏・菅氏・鳩山氏など・・・相変わらずヒーローの虚像に迷わされます。
 細川氏は何をしたか? 政治に失望させ、新党に失望させ、自民党に懐古の念を抱かせました。その後は自ら虚像を崩してみせ、散々に政界と官界を振り回した挙げ句に、引退を表明しました。有権者のグミン化には随分と貢献してくれました。自民党の下野も、仕組まれた茶番だったのかも・・・。

99.11.29

補足7
 グミン政策その5。自自合流
 結局流れてしまったようですが、少し前まで自由党による自民党への合流(正しくは復党)で盛り上がりました。修復不可能な亀裂を生じて分裂したはずの小沢派。野に下れば連立野党政権を画策し、その後最大野党の党首を務め、徹底的に自民党のあり方を批判してきたはず。自民党を分裂させるために、恥を忍んで連立を組んで、引きずり回したはず・・・。今更合流したいなんて、どういう政治理念なのでしょう。
 と、いうのが大方のマスコミの論調です。違うと思いますけどね。いつでも脚光を浴びたい、いつでも時の人になりたい、いつまでもお山の大将でいたい、子分はたくさん従えたい・・・そのために小沢氏はマスコミにシンパを作り、怪物・辣腕のイメージを植え付けてきたはずです。結局は、徒手空拳の不幸を思い知らされた放蕩息子が、オウチに入れて貰えなかっただけの話。架空の話題で盛り上がるマスコミ・・・そこまで国民をグミン化したいのですか?

99.11.29

補足9
 グミン政策その7。国会議員の定数削減
 国会議員が削減されるのは良いことですが、比例枠から削るのはいかがなものでしょうか。結果的に小選挙区に有利な与党にベースがあります。それでなくとも一票格差が言われている小選挙区を、これを機会に整理するのが本来ではないでしょうか。小選挙区が整理統合されて失職する議員に比例枠を当てはめるべきでは?
 有権者の少ない小選挙区では、その期待に応えて投票率が高いのが特長ですね。それだけに地元国会議員が持ち帰る土産も大きいというものです。有権者が増えれば、議員の負担も増え、不公正も目立ち、最終的にクリーンになると思うのですが、いかがでしょう。土産をたくさん持ち帰る議員センセイの分け前に与って喜ぶのは、良くないことですよ。国税はみんなの財産です。

99.12.10

補足10
 グミン政策その8。たばこ税の増税
 減税などバラマキを続けるためには、ある程度の増税が必要なのでしょう。国民の反対が少ないところから税金を重く取るのは常套手段ですが、再びタバコ税増税が議論されました。タバコ税は昨年・一昨年も引き上げがありましたが、昨年の増税は国鉄清算事業団の一部債務肩代わりの財源でした。今回も、ただ5,000億円の財源が必要であるという議論のみでした。
 結局のところ政財界でも理解が得られず、JT株放出に話が切り替わっているようですが、これも保有株式数に法律上の縛りがあって難しいようです。そもそも政府が売却しそうだという風聞だけで株価が崩れるような状況で、見込み相当の株式売却が可能とも思えませんが、どうなのでしょう。
 酒税やガソリン税など安易な財源から増税を行わないで、無駄遣いを止めることと、消費税の未納分徴収や業種別課税効率の解消などバランスの修正に重点を置いていただきたいものです。

99.12.19

補足11
 グミン政策その9。ペイオフ解禁の先送り
 自由党は2年間の先送りを提言し、自民党でも部分解禁か先送りの意見が大勢を占めました。公明党だけ公約実施を求めたようですが、結果として12月29日の首脳会談で、自自公はペイオフ解禁の凍結期限を2002年3月まで1年間延長する線で纏まりました。選挙対策も兼ねているのは間違いなく、このまま毎年1年ずつの延長を重ねて骨抜きになる可能性も出てきました。元々は2000年4月凍結解除の予定だったのですよね。
 背景には、中小金融機関を始めとした業界の激しい抵抗が見え、預金者の大手シフトを食い止めるための目一杯の抵抗を見せた成果です。結局のところ中小金融機関は、自助努力よりも政治活動を優先してしまった模様です。

99.12.31

補足12
 グミン政策その10。小沢の離脱カード
 度々離脱カードを切って、自由党の主張をごり押ししてきたはずの小沢党首。あまりに我が儘な狼少年であるため、遂に自民党から見放されて、逆に離脱を迫られる格好に追い込まれているそうです。自由党が強気であった理由は(1)最後には自民党の親密派閥や親密幹部が同調するとの希望的観測、(2)自公連立では有権者請けが悪くなるとの判断、(3)反自民の保守連合を画策できるとの甘い状況予測、という感じになるようです。
 しかし、むしろ選挙協力や今後の自民党結束を考えると自由党の離脱を容認すべきとの意見が大勢に傾いており、小沢アレルギーを持つ党幹部の意向も反映されているとのことです。自由党内でも繰り返し離脱カードを切ってみせる小沢党首に、強い不信感を持ち始めているとのことです。これまで小沢党首を辣腕・強腕と持ち上げてきたマスメディアの茶番が目立ってしまいます。

99.12.31
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