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政治の研究No.73
動き出した省庁再編

 4月27日、省庁再編法案が閣議決定されました。これによれば、中央省庁は現在の1府21省庁から1府12省庁へ削減され、見掛け上スリム化が進むことに成ります。まだ正式に法制化されていませんが、現時点で検証をしてみたく思います。

 最大の目玉は、機構改革です。省庁が9削減に成るばかりでなく、行政機能の集約も図られています。まず、内閣直属の内閣府が設置されます。これは経済企画庁、総理府、沖縄開発庁を吸収し、傘下に金融庁・防衛庁・宮内庁を持ちます。後述の内閣機能強化への布石です。気になるのは沖縄開発庁を吸収する点で、新ガイドライン関連法案とも絡み米軍基地問題を内閣直属にする目論見のようです。
 建設省・運輸省・国土庁・北海道開発庁を統合して国土交通省が設立されます。傘下には気象庁・海上保安庁ほかを持ち、巨大な予算を牛耳る組織になります。これまで縦割り行政の弊害が言われてきましたが、ある程度緩和されることが期待されます。局間対立を深めることなく重複ロスを軽減してくれることに期待します。
 通商産業省は経済産業省へ衣替えします。当初言われていた郵政省の通信事業は統合されない模様です。ポン太個人としては、農林水産省を含めて産業関連を一本化して欲しかったのですが、郵政省・農林水産省ともに既得権の維持に拘ったようです。非常に残念です。
 厚生省と労働省は統合され厚生労働省に、文部省と科学技術庁は統合されて文部科学省に変わります。比較的関連性の深い省庁同士の統合で好ましいところですが、それぞれ共通の枠組みからはぐれる業務もあり、他省庁との業務調整が行われることを期待します。ところで、これからは厚労省とか文科省とか呼ばれるのでしょうか。
 省庁の調整機関の役割を果たしている総務庁は、自治省と郵政省を吸収して総務省に格上げされます。前述のように郵政事業は経済産業省に移管されるのが望ましいと思うのですが、郵政事業庁が郵政公社に移行するまでの暫定措置と見れば、まずまずかも知れません。傘下に郵政事業庁・消防庁・公正取引委員会・公害等調整委員会などを擁します。同じく格上げされるのは環境省です。現在、他省庁からの出向組が幅を利かせている環境庁から衣替えします。これに伴い移籍組を含めてプロパー行政が展開されることに期待します。
 大蔵省は財政・金融分離の激しいつばぜり合いを制して、名称を財務省と変えるほかは既得権を守り通しました。ただし、後述の内閣府直属となる金融庁によるコントロールを受けることに成りますが、見事な巻き返しを演じました。

 二番目の目玉は、内閣の権限強化です。首相は内閣の重要政策に発議権を備えます。また内閣法に職権行使の規程が盛り込まれ、諮問機関として経済財政諮問会議、金融危機対応会議などブレーン機構を持つことになっています。さらに、副大臣23人と政務官27人を省庁へ送り込んで行政府に対する内閣の優位性を強めます。ただし実効性を生むためには副大臣や政務官が名目でなく実体を伴った活動を行うことが必要です。今後は副大臣や政務官としてキャリアを積んだ者が優先的に大臣に着任する道筋を付け、派閥論理でなくキャリア志向での大臣抜擢が進むことを期待します。また傘下の金融庁は2000年中に金融監督庁の機能を引き継ぎ、財務省の動きを牽制することになります。

 三番目の目玉は行政のスリム化です。今回の行政機構改革にともない、90の業務・機関が独立行政法人となることが決まっています。第63回行政機構改革はまやかし」に書きましたように、企画・立案部門が現業部門に対して支配体制を強める動きであり、かなり注意を払わないと、企画・立案部門によるしたい放題が罷り通ります。また独立行法人化や行政機構改革に伴い、局の数を128から96へ、課・室数を1,200から1,000程度へ削減するそうです。ほかに審議会を211から78へ削減するなども盛り込まれています。
 気掛かりな問題は、事務次官ポスト、局長ポスト、課・室長ポストの減少です。組織としての数が減る以上、ポストが減るのは当然なのですが、どうもその通りには成らない様子です。まず事務次官は9人減少しますが、すでに財務官や審議官のポストを増設して事務次官待遇のポストを設ける準備を進めているそうです。とくに次官級ポストが増えるのは国土交通省・厚生労働省です。局長ポストも同様で、内部的には局長待遇とする局次長や審議官のポストを増設する動きにあり、局長級ポストの確保に躍起であるそうです。給与体系の在り方や、構造上やむなく天下る構図が抜けきっていないための苦肉の策であるようで、まやかしにはチェックが必要です。

 いろいろ問題は内包していますが、とりあえず複雑な行政機構にメスを入れたことは評価されるべきでしょう。今後は組織を硬直化させることなく、より柔軟度を高めた行政運営を心がけて欲しいと思います。そのキーは内閣府機能と副大臣制度の有効機能に期待されるのですが、ハードウェアに見合うだけソフトウェアが育つのかどうか不安が残ります。

99.05.02
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