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政治の研究No.72
見直し進む公共事業

 これまで丼勘定で行われてきた公共事業に、ようやく個別の費用対効果が評価され、同時に評価の結果を公表することに成るそうです。公共事業における費用対効果とは、鉄道や道路敷設に伴って物流がどう効率化されたか、河川改修で氾濫防止など水利性向上はどの程度かというものを、受益者の受ける金額として換算したものを数値化し、事業の有効性を評価する指標です。本来は事業計画を立ち上げる時点で明確に算出されるべきものですが、これまでは計画段階で受益者を大きく見積もったり、汎用化された数値を引用するなど杜撰な計算がされていました。
 今回の決定は、建設省・運輸省・農林水産省・北海道開発庁・沖縄開発庁・国土庁(以上6省庁の公共事業費は一般会計で9兆円、国の歳出総額の20%以上に達しています)が足並みを揃え、同一の評価基準で費用対効果を算出することにしたものです。算出の結果、充分な費用対効果が望めないものは事業中止や事業費削減、事業規模見直しなどを行うというもので、政治主導でのバラマキ開発行政にブレーキを掛ける狙いもありそうです。実施は2000年度開始の事業からと言うことで、算出数値は市町村窓口での閲覧や、インターネット閲覧に供するとのことです。良い傾向ですね。

 一方で地元住民が求めもしない公共事業が目立ちます。長良川河口堰問題を始め、計画ありきの公共事業へ根強い抵抗が見られます。この問題についても新しい動きが出ています。まず3月19日、運輸省と建設省は着工や完成が大幅に遅れている公共事業の再評価を行い、その結果を公表しました。その結果、ダムや貯水池の整備計画で中止になるものが10件、河川改修や港湾整備などで休止になるものが47件に上るそうです。これらは将来的な需要を多めに見積もり受益者利益を膨らませる形で成立した事業が多く、費用対効果を厳密に洗い直すと、ペイする事業でないことが明瞭になったものでしょう。
 今回の見直しに当たっては、事業評価監視委員会が設置され、御用委員会でなく、物言う委員会を編成させたことが効を奏した模様です。

 また4月27日、関谷建設大臣が吉野川の可動堰問題に関し、住民投票によって建設反対が過半数を占めるようなら建設を直ちに中止すると、コメントをしました。今回のコメントは大臣の個人的意見という見方が専らですが、政府・自民党にも住民の反対が強い公共事業を強行する意義はない、と判断し始めていることが見て取れて、評価できます。公共事業の継続に関しては住民投票の結果によって拘束されないものの、地方では神戸空港やびわこ空港など住民による住民投票提案を蹴り飛ばした自治体もあり、こうした自治体でも住民投票の実施を行い、事業見直しを行うよう勧告がでる可能性があります。全ては自治省と運輸省の動向次第でありますが・・・。
 公共事業の対象となる自治体や地元政治家にとっては不満の大きい話でしょう。すでに公共事業は行われるものと皮算用しているはずで、かなりの裏金や政治献金も行われているはずです。彼らは表だって行動しないだけに陰湿ですが、今後は住民が反対する公共事業の実施を迫るような政治家や事業会社名を公開するなどし、住民に対する情報公開を進めて欲しいと思います。自己の利益のためだけに行動する政治家や事業会社には、相応の報いを与えるべきです。そろそろ税金を特定の人間が食い物にするシステムを改めるべきでしょう。

 4月30日、総務庁は政府系特殊法人のうち、大手法人の財務調査結果を公開しました。以前から無駄が指摘されていた石油公団は、要注意債権4,245億円のうち3,550億円が利息免除の扱いとなっており、残るうち700億円が長期未収金に成っているとのことです。石油公団は石油危機を契機に国内資本による油田開発事業へ多額の資金を注ぎ込みましたが、有効な成果をほとんど上げることなく多額の資金を焦げ付かせていると言われてきました。本業の原油輸入事業や原油備蓄事業も多額の赤字を垂れ流している模様です。今回その具体的数値が公表されましたが、実態としては、さらに多額の不良債権が隠れていると予想されます。
 日本道路公団は、政治的理由で新設・延伸された路線ほど収支率が悪く、そもそも事業として成り立っていないことが明らかになりました。公団が管理する高速道路35路線のうち、21路線でコストが収入を上回り、数少ない黒字路線に完全に依存している実態が明らかに成りました。それでなくとも巨大なファミリー企業群を抱えて不明瞭な資金の流れが指摘されている公団は、今後積極的な体質改善に励むべきでしょう。
 また、本州と四国に三本もの架橋を行った本四連絡橋公団は、1979年の事業開始以来恒常的な赤字状態が続いており、100円の収入を得るために211円のコストが掛かるという赤字垂れ流しが続いています。5月1日に三本目の「瀬戸内しまなみ海道」路線が開通したため、もう少し収支は改善するものと見込まれますが、現在の収支バランスでは累損一掃に200年以上の時間が必要であるそうです。利用客が思うに任せない場合は、政府から2兆円近い資金贈与が必要だという話です。もっと早くに費用対効果が検証されていれば、1本または2本で済まされただけに残念な結果に終わりました。

 ともかく、ここへ来て公共事業の見直しが始まったことは評価しなくてはいけません。再び政治圧力によって逆行させないよう、私たち国民が監視を強める必要があるでしょう。

99.05.02
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