ロビーで、ブザーが鳴る。「まもなく開演です」とのアナウンスが流れる。慌ただしい観客、飛び交う会話、キビキビ動くスタッフ。本番の幕が開くまでの五分間には、ちょっとしたドラマがありますね。
何をしようか?
さて、五分間というのは、長いようで短いです。黙って席に座っていると、たった300を数える時間が、長く長く感じられます。それまで疎らだった座席を、粛々と埋めていく観客たち。散漫な会話も収束に向かって、期待の籠もった会話が囁かれます。開演前に悪口なし。
ポン太のパターンは、二通りです。後方席の場合は、前方席の方を眺めて、他の観客を観察することが多いです。そこに他人のドラマを観ることができます。前方席の場合は、後方席を眺めていることもできませんので、ザッと見渡して、おとなしく座っていることが多いです。プログラムを再度眺めることもしますね。
五分前の精神
ところが、小劇場系では、その期待を裏切ってくれることが多いです。暗転と同時にミュージックが流れ始めたり、遅れてきた客を案内していたり、大きな音で扉を閉めようとしたり、雰囲気ぶちこわしです。本当は、ブザー前に着席のアナウンスが欲しいところです。お客様にも五分前の精神。
あるいは、開演前のブザーの後で、諸注意のアナウンスがあったりします。携帯のスイッチがどうこうとか、照明がどうこうとか、もっと早くにし終えて欲しいです。ギリギリに来て気づかない客には、有効なのでしょうが・・。また休憩が無いのでトイレに行ってくれ、と言われても間に合わなかったりします。スタッフにも五分前の精神。
開幕直前の暗転
小劇場系の90%近い作品では、開幕直前に暗転があります。開演中の暗転とは違って、本当の真っ暗闇に成ります。時間にして30秒ほどの暗転は、期待で胸が一杯になります。大きな劇場では、ライトがスッスッと段階的に暗くなっていきます。その瞬間、観客の雑談は消えて、視線が幕へと集まるワケですね。
何かの雑誌で、この暗転は、神様の呉れるキスの時間だと言っていました。確かにブロードウェイ系の作品では、この暗転だけが唯一長時間続く真っ暗闇なのです。男性から女性に贈るのが、マナーなんですって。そうでなくても、誰もが神経を研ぎ澄まして、訪れる展開に、ワクワクしていることでしょう。
さあ、開幕です。誰もがワクワクしているところに、「オーバーチュア」あるいは「プロローグ」。その期待に応えて、どれだけ観客を気持ちよく引き込めるか、この一瞬を大事にするかどうかで、演出家の腕が試されます。五分前の精神と、正統派の暗転を守れない作品は、期待を裏切ってくれることが多いのです。
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