劇団関係者からも、よく否定的な声を聞くのですが。皆様は、綺麗に揃ったコーラスから、特定のシンガーの声だけを聞き分けられますか? 全然揃っていないコーラス(そもそもコーラスとは言えないか)なら、誰でも可能だと思いますが・・。
バンド・パス・フィルター
帯域フィルターとも呼ばれますね(正しくは、帯域通過フィルター)。ラジオを手作りした人なら、よくご存じな言葉です。ラジオ放送やTV放送では、狭い電波帯域に何本の番組が詰め込まれています。なおかつAMやUHFではノイズの混入も激しいですね。ラジオやテレビは、これを見事に選別して、欲しい帯域の電波だけを再現してくれます。
ラジオでは普通、中心周波で呼び分けられていますが、この前後でチューニングして、一番に聞き取りやすい周波で放送を聞き取ることができます。最近では、機械が自動でチューニングして、一番に聞き取りやすいところへ合わせてくれます。ゲイン調整と言います。
欲しい電波の欲しい周波が分かったとしても、その前後の電波を全てカットしなくては、取り出せません。そこで働くのがバンド・パス・フィルター(BPF)です。古典的にはコイルやコンデンサや抵抗を使いますが、今では等価回路をICチップ上に実現しています。そのお陰で、小型で高性能なラジオやハンディTVが使えています。
人間の耳にも、可能
BPFの機能は、人間の耳にもあります。これは、ICなんか使わないで、生体的に実現されています。例えば、「聞き耳を立てる」と言いますように、雑踏の中での特定の話し声や、超遠方の小さな物音を聞き分けることが、「普通の」人にはできるはずです。ただ、日頃は無意識にやっていることなので、気づかない人もあるかも知れません。
とくにノイズの中で音を聞き分けるところに、BPFの機能が活かされています。医学的なことは分かりませんが、耳の孔の大きさや内壁の堅さを変えることで、ノイズは減衰させ(弱める)、必要な音は増幅(強める)させるのだそうです。最終的には、鼓膜で必要な振動だけを取り出すワケですが・・。
さらに言えば、追尾する能力もあります。例えば、小うるさい喫茶店で、バックミュージックだけを楽しむことができますが、これは周波数が変化していても、その変化に追いていって、必要な音だけ拾うことができます。この能力を使えば、コーラスの中から、欲しい声だけ取り出せることが、お分かり頂けるでしょう。
それでは、チャレンジ
とはいえ、難しいのも事実です。かなり集中しないと、すぐに見失ってしまいます。会話やバックミュージックであれば、明確に他と違う旋律ですから、比較的簡単です。コーラスの場合、違うパートの声は易しいですが、同じパートでは難しいです。
しかし、不可能ではありませんよね。同じ旋律であっても、同じパートであっても、声質は違うものです。また微妙なところで、高音が得意な人や苦手な人、低音で同様の人、少しビブラートする人、そういう癖があります。口を開いてから声の出てくるタイミング、口の開き方での声の響きの違い・・・歌唱指導が徹底していない限り、大体は掴めます。
一旦目的とする人の声であることが分かれば、後は耳の追尾機能に期待して、さらにBPFで絞り込む周波数をより限定して、聞き分けると良いでしょう。チャレンジして頂けると分かりますが、とても疲れる作業です。本当ですよ、信じてください(笑)。
あまり個々のシンガーの声を拾えても、嬉しいことは少ないですけれどね。もともとコーラスは、全体としての調和が欠かせないのですから、特定のパートの特定のシンガーに絞る意味は無いでしょう。でも、とても綺麗な声のシンガーであれば、絞り込んででも聞きたいと思えるときがありますよ。そのためのトレーニングと考えれば、いかがでしょうか?
|