ここに名優あり

最近観た作品で「うまいなぁ」と感じた名優さんが何人かあります。共通点は小柄ながらもパワー溢れる俳優ということでしょうか。最近の作品ではミュージカル座の伊東さん、T.R.C.の田中さん、コーラス・シティの田中さん、OIEの園山さん、という感じです。

屋根の上のヴァイオリン弾き

これは東宝ミュージカルが輸入したブロードウェイミュージカルです(作品紹介第31回を参照)。この作品の主人公テヴィエは西田敏行さんが演じています。ステージに一人で出てきたかと思うと、サーっと観客の視線を集めて引き込んで見せます。これは大俳優の貫禄と言うところですね。

ところが、場面が切り替わって登場人物が増えてくると、設定上ありふれた農民の一人と言うこともあり、サッとアンサンブルの群衆に溶け込んでしまいます(姿を隠すのではなく、気配を弱める感じがします)。これって難しいですよね。普通の大俳優ならばアンサンブルに囲まれても目立ってしまいますもの。

ルルドの奇跡

これはミュージカル座の新作です(作品紹介第74回を参照)。この作品の主人公ベルナデットは伊東恵里さんが演じました。ステージで前列に出てくると、他のキャストを圧倒して輝きますが、シーンに応じてスーッと輝きを消して見せます。存在感と言い換えても良いでしょう。これは西田さんと同じですね。

伊東さんは、本来は識別できないほど後方座席からでも、表情の変化が読みとれる気がするパワーを発揮していました。西田さんもスポットが強くて表情は見分けられないはずなのに、その表情が伝わってくる感じがしました。

ビバ・ラプソディ

これはコーラス・シティの新作です。オムニバス形式のレビューショーでしたが、いくつかのナンバーで菊池明美さんが西田さん、伊東さんとは少し違った形で存在感を変化させます。菊池さんの場合は先の二人にかなり及ばないかも知れませんが、劇団員の中ではかなりの存在感を発揮しています。

とくにソロではオーラとでも申しましょうか、ダンスの切れや冴え、歌声の質、などとは違う次元で一層観客を惹きつけるパワーがあります。残念ながらアンサンブルに加わっても少しオーラは残ってしまいますが、それでも存在感に強弱が付けられています。

34丁目の奇跡

そう、この人を忘れてはいけない。元音楽座の看板女優、土居裕子さん。「ミュージカル 青空」でいくつものダンスや歌を披露するのも面白かったですが、本作で見せるドリス役は、とても素晴らしいものでした。土居さんも少し小柄なので、ステージ全体を圧倒するという程ではありませんが、動きがキビキビしていて、よく観客の目を意識していました。喜怒哀楽もよく表現されていましたし、なによりも感情のスイッチが見事です。

本来はダンスも歌もかなり上手な方ですが、私が観た楽日の出来は・・・今少し。さすがに疲れが目立ったようで、残念でした。あとは脇役に回ったときにも、上手に空間を埋める演技を見せ、回りのキャストの動きをフォローしてもいたようです。う〜ん、それならSTEPSの古川さんも取り上げるべきだったかな。

存在感に強弱を付け、強いときは観客の視線を吸い寄せ、弱いときはステージにあることも忘れさせるような、そんな素晴らしい技術を感じました。何かあるんでしょうか、名優特有の不思議なパワーが・・・。それとも小柄な人には特別なパワーの源泉があるのでしょうか。