前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.167
株価指数不況がやって来た?

 ネット株の大幅下落が引き金になった形で、日経平均の急落が続いています。一時は20,000Pを上回って、株式経済の回復が叫ばれましたが、どうやら幻想だったようです。いや弱気になる必要はなく、自然体で行けば問題は少ないはずですが・・・。

■ 離れる外国人投資家
 5月10日の日本経済新聞によれば、3月第三週以降は外国人の売り越しが続いているそうです。売買金額ベースの集計結果ですが、7週間連続で売り越されている上に、4月第一〜四週で8,462億円もの規模に達しているそうです。この規模は1990年2月以来という記録的なものであり、しかも月間ベースでの売り越しは20か月ぶりだと説明してあります。
 つまり、外国人投資家が大規模な撤退を始めていると言うことです。撤退の要因は、米国株式の下落に慌てたファンドが、ある程度利益が上がって値下がり懸念の強い日本株式を売却して利益確定に動いたこと、と市場では言われています。とくに日本店頭市場でIT株バブルを仕掛けたと言われるソロス・ファンドの撤退が目立ったそうです。
 その外国人投資家の売り物を拾っているのが、再び国内金融機関だと書かれています。どこの金融機関とは明記していませんが、おそらく大手銀行もれなくでしょう。このままでは、拾ったモノ拾ったモノが含み損を拡大し、再び金融機関の財務を圧迫しそうです。2000年3月期は思わぬ株高で儲けたそうですが・・・学習能力の無いことです。せめて売り時を間違えないで欲しいものです。

■ 逃げる個人投資家
 個人投資家の逃げ足も早まっているようです。空前のIT株ブームで一財産を成した個人投資家も多かったそうですが、3月以降の大崩れ局面で失敗した投資家が多いと聞いています。証券会社に勧められて、IT株を担保にした信用取引に手を染めて打撃を受けた人、本格的な値下がりをチャンスと見て大量買いした人・・・色々と話を伺っています。
 ある程度、初期投資を回収した投資家もあって、全員が打撃を受けたわけでも無いようですが、IT株はどこまでも上がるとの幻想を信じた個人投資家が多かったようです。しかしプロであるはずの大手証券会社も、IT株ではずいぶん痛い目にあったそうなので、日本人全体が投資下手なだけかも知れませんね。
 投資信託の銀行窓口販売が解禁されたことや、成長株ファンドなどの宣伝が大規模に行われたこと、新聞が投資信託の入門解説などを繰り返し掲載したこと、これらの影響で昨年から投資信託に資金を注ぎ込んだ個人投資家も多いようです。空前の金利安の中で、高金利時代の郵貯マネーが流れ込んだとも言われていますが、景気のいいファンドがあった反面、景気の悪いファンドもあったようです。昨年の運用成績などに踊らされた個人投資家で、投資信託嫌いの人が増えそうです。

■ 日経平均の銘柄入れ換え
 日本経済新聞社は、日経225銘柄の入れ換えを4月24日に断行しました。詳細は第2回の補足を参照して頂きたいのですが、約9年ぶりの入れ換えであり、同時に60銘柄が入れ替わったので、市場の混乱が拡大しました。指数から外される銘柄を売り、入れられる銘柄を買うというものでしたが、安値売り高値買いを強いられた結果、機関投資家の不満が大きかったようです。
 以前から日経225銘柄が日本市場の現状を表していないと、批判的に書いてきました。国際的な大企業と地方の斜陽企業が肩を並べていたのですから、遠からず調整は避けられませんでした。以前にも度々銘柄入れ換えの噂が流れては、関連銘柄の物色がされてきました。しかし何度も見送りがされ、専ら風説の流布材料であったわけです。
 一新聞社の作った指数ですが、日経平均と通称される日本市場の代表指数でありました。その調整はインパクトを避けるよう慎重に行われるべきでしたが、残念ながら大胆な入れ換えという形になりました。何故この時期に断行したのかも定かでありませんが、リスクヘッジに先物取引を組み込んだ機関投資家には、迷惑意外の何物でも無かったようです。
 結局は、組み入れられた銘柄も崩れて、IT株の下落なども不安材料に加わったため、日経平均は大幅に下落しました。5月11日には大引けで17,000Pを割り込み、1999年9月以来の水準に逆戻りしました。まだまだ混乱の収拾は着きそうにありません。東証・大証以上に影響が大きかったのは店頭市場やマザーズですが、もともとの市場規模から比較すればやむを得ない結果かも知れません。

■ 株価指数不況がやって来た?
 さて、再び悪者登場です。金融機関、とりわけ都銀には多額の公的資金が注入されました。公的資金をテコに当面の資本不足を補い、体力を回復するはずでした。最大の懸案は保有株式の含み損で、何度も益出し操作を繰り返して膨らんだ損失を計上させ、それによる資本不足に絶えられるよう政府が救済したものです。
 それが再び株式に手を染めたのですから問題です。このまま株式市況全体が悪化すると、またも高値で掴んでしまった保有株式が、銀行経営に大きなリスクとしてのし掛かります。最近経済誌で叩かれている話では、都銀にノルマとして課された中小企業向け融資が、インチキ分で底上げされていたとかどうだとか、色々と糾弾されています。ここへ株式投資でさらなる公的資金・・・とは許されないでしょう。
 金融機関の体力低下は、再び融資先企業の大型倒産を招く危険があります。長期金利の引き上げは不良融資先にダメージを与えますし、預金金利の引き下げは事実上不可能です。スリム化を進めて仲良く合併としている大手銀行も、相次いで合併計画を見直す必要が出るかも知れません。金融再編といえば聞こえは良いのですが、不良行同士の合併ですから、互いの財務悪化に疑心暗鬼・・・となる危険があります。
 くれぐれも株式指数主導での不況は勘弁して頂きたいものです。金融機関もペイオフ解禁をしていれば、このような身勝手は起きなかったかと思いますが、政治的思惑が機能したせいで変な状況になりました。

■ むすび
 またぞろ政界では、株価対策が主張され始めています。公的資金による指数買い支えにも失敗し、金融機関やゼネコン・流通の救済も破綻しつつあります。政治力を使うのならば、金融機関による株式投資を禁じる方が先だと思うのですが、どうも政治は金融機関に甘いようです。今年は総選挙もあり、株式経済の低迷から不景気再来が連想されるのは極めて危険です。

00.05.13

補足1
 日経平均の計算は225銘柄の単純平均ですが、今回新規に追加されたアドバンテスト等5万円額面の株式は、50円額面に換算した上で平均されます。週刊ダイヤモンド2000/05/27号の「マネー運用術入門」によれば、入れ換えによって加わった30銘柄はいずれも株価が高い株(値がさ株)が中心となったため、指数全体で捉えて51.5%ものバリューが発生したそうです。配当利回りは0.71%→0.47%、PBRは2.48倍→3.07倍、PERは297倍→187倍、などと一つのポートフォリオと見たときの変容は巨大なものです。
 しかし、日本経済新聞社は日経平均の指数連続性を打ち出したため、実体としての日経平均は大きく膨れ上がったものを無理矢理歪める結果になったようです。日経平均に連動するファンドは多数存在しているにも関わらず、こうした強引な手続を踏んだ結果、廃止になる銘柄を売り、追加になる銘柄を買うばかりでなく、追加になる銘柄を買うために廃止にならない銘柄も売るという混乱を招いて、日経平均は大きく崩れたのだと説明されています。その過程で巨額の損失を発生させられたファンドもあったようですが、日本経済新聞社は何の責任も負わないのでしょうね。日経平均連動ファンドは少なく見積もって2,000億円程度の損失、逆に日経平均を先物売りした証券会社が2,000億円程度の利益を得たのだそうです。
 今後も銘柄入れ換えに伴う同様の損益発生はあり、日本経済新聞社のさじ加減一つで連動ファンドに巨大なインパクトを与えることが可能になってしまいます。やはり株式指数というのは一営利団体に運用させるものではないのでしょうか。ちなみに、「「連日の年初来安値更新」は日経平均については正しいのですが、株式市場の状況としては正しい報道ではない」とのことで、実体としては5%以上上がっているようなので、指数に振り回される必要は全く無いようです。

00.05.20
前頁へ  ホームへ  次頁へ