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経済の研究No.166
物流サービスの担い手

 物流サービスとは、生産者から消費者までの間を生産物を移動させるサービスを指します。具体的には、包装・輸送・保管・荷役・情報などを含む概念で、物的流通の総称でもあります。国内最大の物流事業会社は日本通運ですが、今では佐川急便やヤマト運輸、西濃運輸など多くの大手物流会社が成長しました。その過程で、激しい価格やサービスの競争・競合があって、互いに市場のパイを拡大してきました。
 電子コマースの時代の訪れで、物流サービスへの注目度が高まっています。

■ イノベーター、ヤマト運輸
 物流サービスは元来、事業者間を繋ぐサービスが基本でした。事業者と消費者を繋ぐ物流ルートは、せいぜい郵便小包が担う程度でありましたから、物流事業会社が消費者を意識することは希であったようです。また多くの会社がトラック1台を基本とする小規模中心であったこともあり、サービスと呼べるほど高級ではなく、輸送のみの低級なものであり、運送業と呼ばれていました。
 その運送業が物流業へ脱皮するキッカケは、宅配事業です。盆暮れの贈物や通信販売などの商品を宅配することから始まり、少しずつ事業範囲を拡げてきたことから、物流サービスと呼べるものへ変わっていきました。この段階の宅配は事業者と消費者間を結ぶモノが主体ですが、やがて消費者間というよりも個人ユーザ間を結ぶ宅配事業が誕生しました。トップを切ったのは、ヤマト運輸です。
 ヤマト運輸は「宅急便」と名付ける宅配事業を展開し、個人ユーザ間のニーズを積極的に取り込みました。全国展開・安心・確実・格安とされていた郵便小包事業に対抗するために、きめ細かな拠点作りを進めると同時に、コストを引き下げるという難業に取り組んで成功を収めました。成功の秘訣は、自ら新商品を開発して宅配荷物数を飛躍的に拡大させることにありました。業界一のイノベーター(技術革命者)であります。
 クール便やゴルフ便など郵便小包では実現できないサービスを新設し、時間帯指定や即日再配達などユーザ重視のサービスを強化してきました。無から有を創り出すと同時に、既存インフラのシェアを奪うという二段構えで、宅配事業に不動の地位を築きました。

■ コンビニとの提携
 宅配事業を立ち上げた物流事業会社の各社は、地元に密着するとともに一定の倉庫機能・宅配機能を持つ商店(米屋・酒屋など)との契約を進めていました。郵便事業を上回るサービス拠点を拡大するための最短の手法であったようですが、拠点数の拡大に掛かるコストと、均一サービスを提供する上での障害も多かったと聞いています。また手数料交渉も煩雑で、個店ごとに契約条件が違うなども課題であったようです。
 そうした苦労を軽減し、宅配便の普及に弾みをつけたのが、コンビニとの提携です。提携当初はそれほど大規模なネットワークに成長していなかったコンビニですが、均一なサービスを提供しやすいFC契約を活かす形で、拠点の拡大とネットワーク化の恩恵を受けることが可能となったようです。今では数万のコンビニが全国に展開し、集荷面で大いに助けられる存在に成っています。
 コンビニとの提携や宅配貨物の急増、利益確保スタイルの確立によって、当初よりも拠点を拡大する際の負担は軽減され、契約交渉などもスムーズに進むようになっているそうです。コンビニはあくまで集荷だけを担当しますから、配荷は自らシステムを構築する必要がありますが、コスト軽減の面でコンビニとの提携は大きな助けになったようです。

■ コンビニとの競合
 しかし、コンビニと競合する時代がやって来ました。コンビニの商圏は半径100〜200mと言われています。今では物流業者のネットワークよりもキメが細かいコンビニネットワークが、配荷に乗り出す動きを見せているためです。個々のチェーンで見れば数千オーダーですが、昨今のチェーン間提携が進行すると、数万オーダーの拠点で集荷・配荷が行えるほか、今後の物流に欠かせない情報などの付加価値を付けることが可能です。
 すでにam/pmは、都心部でのバイク便による宅配を始めています。コンビニの定番商品のほかオフィス商品を1回200円で配達するというもので、即時調達・即時配達が消費者に受けています。また店頭受渡のサービスも強化され、書籍やCDの予約・取り寄せなども行われています。平日に宅配が受けられないサラリーマンには、店頭受渡も人気が高いと言われており、宅配事業のパイを喰いつつあります。
 最近の流行は「e−コマース」と呼ばれる電子コマースでしょう。インターネットや携帯電話で情報を入手し、商品をオーダーすると数日で入手できる手軽さが受け、近頃の価格よりも便利さを重視する若者の需要を吸収して成長しているようです(iモードに代表される携帯電話独自のコマースは、Kコマースとも呼ばれるようです)。現在のところ、高額商品や小型商品・人気商品に限定されていますが、少しずつ商品ラインナップも拡充され、ユーザーもその利用額も膨らむ傾向にあります。
 電子コマースは、昔のカタログ販売など無店舗販売のスタイルを取り込んで、一層の拡大傾向を示しています。その成長のキーは、納期の短縮と物流コストの削減にあります。大口・高額商品では宅配に軍配が上がりますが、コンビニもイノベーターですから、宅配に油断は禁物でしょう。これまでの宅配路線が勝つのか、これからのコンビニ路線が勝つのか、興味深いところです。

■ 見直す宅配事業
 たしかに宅配事業は便利です。多彩多様なサービスを、比較的安いコストで提供しています。しかし扱い荷物が小口化・低価格化してくる場合、さらなるコスト削減を実現する必要があります。コンビニとの競合を視野に入れて、大口・高価格商品に重点を置いて棲み分けを図るという選択肢もありますが、物流サービスの担い手としてサービス向上とコスト削減という相反する課題を今後も解決する必要がありそうです。
 長い間、郵便事業の独壇場だった定期購読雑誌の配達を、宅配事業は「メール便」と称するサービスでクリアしました。不在時は再配達し、在宅時にも受領印を取得するなど手間と時間を食う部分を簡略化して、コスト削減に成功しました。同時に扱い荷物の数を増やす効果を生み、全体コストも引き下げたと聞いています。
 小口化・低価格化商品も同様の手法を採用していこうとしていますが、そこに盗難・事故のリスクがあります。物流サービスには安心・確実も要求されますから、いかに安価で迅速なサービスであっても「メール便」は嫌われるでしょうか。汎用品であれば弁償も可能ですが、特殊品であるかどうかは配達者には分かりません。
 またドライバーの質の悪さも批判のあるところです。管理強化の方向にあるものの、コスト削減のために報奨金を削り士気が下がる傾向にあったり、離職率の高さに有効な解決策がなかったり、などの指摘もあります。宅配事業全体の伸びが鈍化し、参入事業者間で激しいパイの食い合いが始まっていることも、気掛かりな点です。宅配事業全体を見直す時期が、来ているのかも知れません。

■ むすび
 物流サービスは、インフラ事業です。インフラを全て独自に持つ必要がないことは、コンビニが証明済みです。コンビニとの共存共栄になるか、完全な棲み分けになるか、激しいバトルを繰り広げるか、先行きは見えません。そもそも電子コマースがどこまで普及するのか、という問題もあります。
 しかし、どんな事業にも適正な競争が必要だと思います。競争のないところに発展はなく、成長もありません。かつてのイノベーターも、今ではジャイアンツです。進取に富んだ経営姿勢を保ち、常に革新の歩みを続けていく意味でも、コンビニとの競合は好ましい状況かも知れません。

00.05.06

補足1
 米国最大のネット小売であるアマゾン・ドット・コムは、自社で構築したウェブサイトの運営・管理・物流・顧客対応のインフラを、他社に有償提供する方針を発表しました。巨大な固定費を注ぎ込んだ自社インフラの低稼働を逆手に取り、後発企業にサービスすることで高稼働化を目指すそうです。かつては独自インフラを整備していたトイザラスと提携、医薬品・AVソフトなどにも拡大する一方で、米国書店第二位のボーダーズグループと提携するそうで、同業ライバル会社とも結ぶ積極さが評価されそうです。
 アマゾンはすでに本業でも赤字縮小を実現し、ようやく赤字垂れ流しを解消しつつあります。巨額の先行投資で構築したインフラが金の卵となれば、単年度黒字・累損一層も遠い話では無くなりそうです。
 ちなみに、アマゾンの最大の売り物は、内製している小分け・配送にあるそうです。大手業者は大分け配送が内製で、小分けは外注が一般的です。単価が安いだけに内製するメリットはあり、他社製品を受注することで稼働率が高まれば利潤も大きいと読んでいるそうです。

01.06.03
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