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経済の研究No.138
ストックオプションの損得

 米国では一般的なストックオプション制度ですが、日本での導入はあまり進んでいません。現在のところ株式公開企業の1割程度で導入されていますが、現実に機能しているのはかなり下回りそうです。一方でヤフーのストックオプション制度により相次いで億万長者が生まれたことから、同制度に色目を使い始める企業役員が増えつつあるようです。少し制度について検討してみます。

■ 報酬制度の一環である米国企業
 ストックオプション制度というのは、設定期間(行使禁止期間)後に自社株価が権利行使価格を上回っていた際、自社株を購入することができる行使権利(オプション)を付与される制度です。権利を付与された社員は、株価上昇のチャンスに自社株を購入し、それを市場に売却することで、売却益を得ることができます。株価が権利行使価格を上回らなかった場合は、権利を行使しなければ済み、損はしません。
 米国企業では、株主の理解を得て多額の役員報酬に代わるオプションを確保し、自らの手腕で株価を上昇させた上で権利行使をし、多額の売却益を得ています。コカ・コーラやGE、IBMの会長の収入の80%以上がオプション行使によるものだと言います。もともとはヘッドハンティングの際に、多額の契約金や最低報酬の保証ができない見返りにオプションを付与する制度として始まったもので、現職の役員に付与するのは制度上問題があると言われています。
 必ずしも株主から見た評価は高くありません。オーナー保有株を役員や従業員に権利行使させるオプション(これを疑似オプションと言います)であれば問題は少ないですが、新株発行で賄う場合は株主利益を損ねるものだとの批判があります。株価の上昇は必ずしも役員や従業員の努力によるものばかりと言えません。現在のように異常な株高が続いていれば、オプションとは無関係に株価が上昇します。その結果、既存株主が得るべき利益の一部をオプション行使者が横取りするだけでなく、彼らが市場で株式売却に踏み切れば流通株式数が増加して、既存株主の利益を損なう危険があります。
 役員のモチベーション作りには必要だと言われていましたが、株価上昇では利益を得て下落時には損失を被らないシステムでは、業績低迷の表面化を怖れたり問題の先送りをする危険があると指摘されています。またオプション行使後も株式を保有し続ければ一層の業績向上に邁進すると思われますが、多くの場合手放されてしまうので、株主として利益追求に掛ける意欲が少ないとも言われています。

■ 日本の大手企業には馴染まない
 ベンチャー企業には導入の価値があります。少ない資金でヘッドハンティングが行えるほか、社員に積極的に株式を持たせることで株主安定化とモチベーション向上が期待できるためです。とくに店頭公開を控えている企業では、株式公開によってオプション行使の魅力が高まることも期待され、公開へ向けてのモチベーションの高まりが期待されます。
 また株式公開企業でも、経費の無駄を削減しようと協力したり、無用な投資を抑制させたり、と役員や従業員の努力を引き出す意味で導入の価値があると言われています。現金報酬で報いることが難しい企業では、オプション付与による埋め合わせがあっても仕方ありません。しかし、すでに充分な報酬を与えている場合には、敢えて付与する必要が少ないです。お手盛りだと株主から批判も受けましょう。
 なかでも上場している大手企業では、導入の必要性は全くありません。CEOやCOOを社外から呼び寄せるのならともかく、社内登用システムが蔓延している現状では自社株を最初から買わせる方が賢明です。株価が上昇すれば利益を得て、下降すれば損失を被るように、自社株を大量に持たせてこそ、株価向上への意識が強くなります。
 また大手企業では役員の特権意識が強く、その特権を否定するようなコスト削減には取り組まないだろうと指摘されています。社長などへ権力が集中している現状で、個々の役員や幹部職員が株価向上のための独立行動を起こすとは考えられず、偶然に支配された株価によって利益を貪らせるのは無駄だとも言われています。
 さらに情報開示の遅れている現状において、株価を吊り上げて売り抜けようと策する輩は多いと予想され、本来はインサイダー取引ながら、権利行使に伴う正当取引と開き直られる可能性もあります。また権利行使を視野に入れて、株価を低下させるような問題を先送りしたり、情報開示の範囲を縮小したりする可能性も否定できません。あるいはリップサービスによる株価操作やアナリスト・機関投資家を使ったあおりを仕掛ける危険もあります。やはり現物株を持たせる方がよいでしょう。
 従業員時代に持株会を通して多数の株式を保有していたはずの役員たちは、多くの場合従業員でなくなった時点で持ち株を売却しています。持株会に残る資格を持たなくなるという理由ですが、役員持株会を作れば済む問題ながら現実には整備されていません。この結果、従業員時代には株価の動向に一喜一憂していた連中が、役員になると同時に株価に無関心になるのです。
 株価が上昇すれば売却益を得られるのはオプション制度と同様です。権利行使価格など制約はないため、株価が低迷していれば保有を続ければ済みます。役員は自分の力で株価を上昇させれば良いので、売ってゲインを得てしまうストックオプションよりもモチベーションが働くはずです。山一證券の役員は株主に冷淡でしたが、彼らの大部分が株式を保有していないか、数千株オーダーの名目保有だったことにも理由があると思います。

■ 最近の議論について
 しかしストックオプション制度の導入に前向きな企業は多いようです。米国の剛毅な話に惹かれてのことと思いますが、その前に個々の役員が十全な役割を果たすよう機能強化を図る方が優先です。特定の役員が奮起して利益が上がったものを、利益に貢献しなかった役員も相伴にありつくのは問題です。オプションをどう割り当てるか、本当に自社に馴染むものか、よく分析した上で取り組んで欲しいと思います。
 また、税制上の問題を指摘する声があります。優遇税制度がありますが、権利行使により取得する株式の総額に対して適用することに不満が出ています。例えば時価3,000万円の株式を権利行使価格1,000万円で取得すると非課税ですが、時価2,100万円の株式を権利行使価格2,000万円で取得すると譲渡益課税の対象になります(年間ベース)。いま1,000万円の枠を引き上げて欲しいという要望があるのですが、時価と権利行使価格との差益(売却しない時点で評価するのは難しいですが)ベースでの課税が本来の筋ではないでしょう。
 そして、報酬減額の議論がないことも問題です。本来モチベーションを持たせようと思うなら、黙っていても支払われる報酬部分は大幅にカットする必要があります。業績が上がればボーナスとして権利行使、業績が下がっても仕方がないから諦めようという雰囲気ではダメです。どうせストックオプションを役員に付与するなら、報酬は年300万円とか500万円とかの方が良いでしょう。報酬は従来通り満額受け取ってストックオプションも欲しいというのは、理解が得られない話です。また役員賞与の廃止や大幅カットを議論されるのが先決です。

■ むすび
 とかくストックオプション制度は見えにくいです。生え抜きの従業員や役員には持株会を通した現物株取得を勧めるのが妥当で、リスクは被らず旨い汁だけ吸いたいという考えは捨てることが必要だと思います。
 ところで欧米のストックオプション制度ですが、株価が急激な右肩上がりである現状では良いのですが、そう長い間利益だけ享受できるものでもないでしょう。また実績に比べて過大すぎる役員報酬についても株主から追求の声が高まってもおり、いつまでも旨い汁だけ吸い続けられるものでもないようです。

99.09.04

補足1
 肝心のストックオプション制度に関する説明が抜け落ちていますね。オプションの権利行使価格は、設定時の時価か若干高い水準に設定されています。ワラント債のワラントのように法外な水準ではありません。
 3〜4年間の権利行使禁止期間が決められており、ヤフーの場合は株式公開前に設定して今年8月に権利行使が解禁となりました。同社の場合、権利行使価格は1株100万円以下と見られますが分割の効果もあって現在1億3,000万円近い価値になっています。売却した社員がどれくらい存在するかは不明ですが、売却していれば巨額のゲインを得ているはずです。
 日本で制度が導入されたのは1995年のことで、当初は新規事業法の認定を受けた株式未公開企業が対象でした。そのため上場企業では本文中の疑似オプションやワラント債を発行し、ワラント部分だけを市場から買い戻して付与するなどが一般的でした。1997年6月の商法改正により上場企業も付与できるようになりましたが、本文中にあるように、株主にとってあまり良い話ではありません。

補足1は日本経済新聞社「1999経済新語辞典」を一部参照しました
99.09.05

補足2
 ストックオプションの権利を行使したまま現物株を保有すれば良いではないかとのご意見もありそうです。ヤフーの場合は、これからも成長しそうなので引き続き保有する手がありますし、一部だけ売却して投資資金以上の資金を回収することも可能です。
 しかし例示したように2,000万円で購入して2,100万円で売却する場合、これから株価が上昇する保証のない限り、とりあえず目先の100万円を手に入れたいのが人情でしょう。また2,000万円のキャッシュを遊ばせられる権利行使者は多くないでしょう。借金をしてキャッシュを集めて行使した場合、即座に売却しなくては大変です。

99.09.05

補足3
 米国企業でCEOの高報酬に批判が強まっているそうです。中でもストックオプションを使った株主利益の掠めどりへの批判が強いようです。月刊WEDGE6月号「議論沸き起こる企業トップの高額報酬」という柳沢氏のコラムから数値他を引用させていただきます。
#Nと1990年を比較すると、平均的労働者の賃金は68%増加しましたが、同時期のCEOの報酬は1,596%増加したそうです。倍率で見ると、1980年当時は平均的労働者の42倍だったCEO報酬が、1990年には85倍に拡がっています。この1999年までには、さらに拡がっているでしょう。
#Nの企業経営者のトップ年収は、ブランド衣料大手GAP社のCEOが受けた5億ドル弱(USAトゥデー社調べ)だそうです。IBMで937万ドル、AT&Tで630万ドル、ウォルトディズニーで577万ドル・・・数億円という破格の年収です。ちなみにクリントン大統領の給与は20万ドルなんだそうです。
 要するにCEOの給与がケタはずれていると言うことです。いかにアメリカンドリームの国でも行きすぎを感じますね。なかでも大量のレイオフなどを実施したり、他企業の傘下入りをしてしまった企業のCEOが億円単位の年収を取るのは異常です。上記のコラムは、FRB議長のグリーンスパン氏の「CEOの報酬額は、株主にもたらされている価値と無関係に決められている」というコメントを載せています。

99.10.09

補足4
 東京国税庁は、日本マクドナルドの税務調査によって、ストックオプションに絡む総額28億円の申告漏れを指摘したそうです。市場価格よりも割安に株式を提供(社員は取得)した場合、「市場価格と取得価格の差額が給与所得として課税される」としたのが東京国税庁の見解です。今回の差額は約8億円で、日本マクドナルドに対して更正処分を出して追徴課税するようです。
 米国本社の株式に対するストックオプションを付与された約500人の社員が権利を行使したそうですが、いずれも一時所得として申告していたため、大幅な申告漏れに繋がったという指摘です。市場価格よりも格安に物品を取得した場合、その差益は一時所得として申告することになっており、一時所得であれば懸賞金などと同様に半分まで控除があるため税金は少なくて済みます。日本マクドナルドも「一時所得か給与所得か現在も当局との見解の相違がある」と主張しています。
 これは当然の主張で、給与所得と認定された場合ストックオプションのメリットが大きく削がれる原因に成りかねません。差額に対して所得税が適用される場合、例えばヤフーの社員は年収ウン億円に認定され、それに掛かる所得税を払うために、取得した株式を争って売却しなければ成らないことになります。日本マクドナルドには、断固として争っていただきたい。

99.10.22

補足5
 補足4の認識に誤りがありました。国税庁が日本マクドナルドに対して申告漏れを指摘したのは、ストックオプションと称しながら、付与されたのが米国社の株式であったためであるそうです。自社株で有れば、一時所得との認識でも良かったそうですが、親会社とはいえ別会社の株式で優遇することが、給与の一部に相当するとの認定を受けたのだそうです。
 現在のところ、日本マクドナルドの株式は未公開で、ストックオプション制度を適用するとしても当分に先の話です。自社株で与えられないにも関わらず、ストックオプション制度の導入を急ぐあまり、米国社の株式を当て込んだ日本マクドナルドに、認識の甘さがあったとの指摘がされています。

99.11.17

補足6
 産業活力再生特別措置法(通称:産業再生法)の施行によって、子会社役員・従業員にも親会社のストックオプションを付加できることになりました(適用範囲の拡大を認める特例措置)。補足5の日本マクドナルドのような事例も、通産大臣に申請して許可を受ければ良いことになります。
 申請第1号となったのは東京エレクトロンで、子会社12社の役員30名に付加するためでした。すでに自社役員にはストックオプションを付加してきたものの、販売子会社などとの連携は不可避であるとして、申請したようです。今後も同様の事例が増えてくるかも知れません。

00.05.03

補足7
 反トラスト法違反訴訟で一審敗訴したマイクロソフト社で、人材流出が激しくなっているそうです。すでに株価のピークも過ぎ、ストックオプションの旨味が無くなったことや、ストックオプションで資産を築いた社員の士気が下がっていることが原因だとしています。
 マイクロソフトは、ストックオプションの付与規模を5倍に引き上げたり、幹部の長期休暇を拡充したり、30人近いマネージャーに副社長の肩書きを与えたりと引き留め策を打ち出しているそうです。人材流出は投資家の利益を損なう問題ですが、そもそもの問題はストックオプションのバラマキにあったはずです。さらにバラマキに力を入れることは、投資家の利益を一層損なうのではないかと思います。良くない風潮ですね。

00.05.03

補足8
#N3月末現在で、ストックオプションを導入している株式公開企業は381社に達しているそうです。これは10社に1社という数ですが、多い方だと思います。現実問題として、日本的経営にそのままストックオプションを乗せても仕方がないはずです。取締役のみに付与したのが約2割、部長級以上に付与したのが約6割だそうです。むしろ全従業員を対象にしている方が少数派で、本当に企業のインセンティブ向上のために導入しているのか、疑問が残ります。
 ところで、古河電気工業は1999年6月の時点で、役員賞与廃止してストックオプションの導入を決めていたそうです。すでに時代を先取りしている日本企業もありましたことを補足しておきます。

00.05.05

補足9
 補足5の関連ですが、近頃はストックオプションの課税のあり方で、大揉めしているようです。ネットで活躍されている方もありますが、日経ビジネス2000/12/04号でも取り上げられています。
 ストックオプションの差益については、関東圏で「一時所得扱い」、関西圏で「給与所得扱い」となっている事実が発覚しました。2000年夏には、日本マイクロソフトの社員に対して、給与所得扱いへの修正申告を求めた追徴をしたそうです。日本インテルの西岡元会長、日本コンパックの村井元会長らも追徴されたウチですが、その根拠が明確でないと提訴しているとのことです。
 非公式であるものの国税庁の見解を代弁しているとされる「所得税質疑応答集」(財団法人大蔵財務協会発行)という資料によれば、平成6年版で「一時所得として課税される」とあったものが、平成10年版で「給与所得として課税される」に書き変わっているそうで、その書き換えの根拠は何も明示されていないとのことです。本来は、課税見解の明示は「通達」によって成されますが、依然として通達は出ていないために変更は無効な様子です。「通達」の無いことが、冒頭の関西圏と関東圏の不公平を生んでいるようです。
 ちなみに、一時所得の最高税率は10%、給与所得の最高税率は20%。国税庁の希望は分かりますが、うやむやのうちに解釈を変更するのは、アンフェアです。

01.02.17

補足10
 東芝は2001年7月に経営幹部を対象とする持株会を設立するそうです。ストックオプション制度では、株価が下落しても経営幹部は損失を被らないために、株主を重視する経営の徹底化を図る意味で設置するそうです。第126回従業員持株会の役割」の補足2を参照してください。

01.05.04

補足11
 サイバーエージェント社では、ストックオプションの行使価格が株価を大幅に上回った穴埋めに、社長の保有するワラントを全社員に配分することで報いるそうです。ストックオプションの行使価格90万円に対して、株価は60万円台後半であり、社員の士気を奮わせるつもりが下げてしまうことを懸念したそうです。ワラントの行使価格は1万2,500円で、現状でも1株分で65万円以上の利益が出ます。ただし株式売却を3年間禁止することで、士気を持続させたいとのことです。ちなみに社長が得られるはずだった利益は7億円にも成りますが、これで士気が向上すれば安い買い物かも知れませんね。株主の助言による結果だそうです。

01.06.03

補足12
 コナミは、主要取引先が保有する自社株を使って、疑似ストックオプションを拡充したそうです。これまでは子会社・代理店を含む役員や幹部に限定だったものを、一般従業員や開発者に対象拡大するそうです。今後活動が期待できる人材にモチベーションを与えることが目的としています。自社株取得方式では一般従業員に利用できないとのことで、株価が権利行使価格になると、第三者である主要取引先(旧さくら銀行)が権利行使価格で譲渡する仕組みだそうです。第三者にメリットがあるのかどうか判然としませんが・・。

01.06.30

補足13
 欧米でもようやく、経営者の高額報酬にストップが掛かるそうです。業績悪化で人員整理を進めているクエスト・コミュニケーションでは、2000年のCEO報酬が2,550万ドル(年俸150万ドル、ボーナス2,400万ドル)に達したことに株主が反発し、株主総会で再選に反対票を投じる大株主が出るそうです。EUでも、上場会社の役員報酬を決める社外組織の設置を欧州委員会が提案するそうです。英国では、貿易産業省による法改正により、役員報酬を株主総会に諮ることを義務づけるとのことです。
 ストックオプションについても監視を強め、役員に支給された自社株の返還を実施または要求する企業も出始めているそうです。すでに米国主要200社における発行済み株式数に占めるストックオプションの比率は15%を越え(2000年)、株主利益を不当に圧迫する水準に達している模様です。

日本経済新聞2002/05/18朝刊記事から事例・数値を引用
02.05.19

補足14
′�26日の東京地裁において、ストックオプションによる所得を「一時所得」と認定する判決が出され、国税庁が「給与所得」課税に突き進んでいる現状に待ったを掛けました。「(ストックオプションによる)権利行使利益を給与所得(の一部)と考えることは、給与を運用して得た利益も給与所得として課税できることになり、(国税当局の)主張は採用できない」とした判じたことがポイントです。
 国税当局(国税庁)は「雇用契約があるからこそ付与される権利であり、労務の対価でない一時所得とするのはおかしい」と主張したものの、判決では「就労と相関関係が認められない偶発的な給付で給与所得とはいえない」とされました。現状のお手盛り的なストックオプションの在り方から見ると、判決の側にもっともな理由があるようです。
 本判決に対して当局側が控訴するかどうか、また他に継続中の50件近い事例でどういう判決が出されるかに関心があります。

02.11.30

補足15
 英国の会計基準審議会は、ストックオプションを導入した時点で理論時価を算出し、損益計算書に費用計上させる方針を打ち出しています。エンロン事件など企業会計不信を払拭するのが狙いで、隠れ人件費と目されるようになっているストックオプションを、金利や株価の値上がり予測を織り込んだ見込み時価だけでも、予め計上しておこうというものです。
 この方式であると、従来のように際限ないストックオプション付与への牽制にもなり、設定金額の妥当性を含むチェックを、株主や会計事務所が及ぼし易くなります。英国では2004年に導入し国内基準に当てはめる考えだそうです。欧州でも2005年からストックオプションの国際基準を導入する予定のため、より厳格な英国方式に倣う可能性がありそうです。

02.11.30

補足16
 米国では、1990年台半ばにストックオプションの費用計上を義務づけようとする動きがあったそうです。しかし、ハイテク産業のロビー活動によって、企業の任意判断という曖昧な会計基準に留まりました。当時にストックオプションを活用して急成長しつつあったのがハイテク産業だったので、当然です。ストックオプションに大きな制約が填められていたら、その後のネットバブルは発生しなかったかも知れないと言われるほどで、結果的に一般投資家も潤す結果になりました。
 しかしエンロン問題では、経営陣がストックオプションによる利益を得た一方で、投資家は経営陣に著しい打撃を与えられるというミスマッチがあり、一般投資家の利益に反するケースも目立つようになっています。米国では時価総額が最大であるマイクロソフト社においてさえも、利益の相当額をストックオプションが掠めている結果が顕れ、利益の嵩上げ問題がクローズアップされています。

 米国の財務会計基準審議会(FASB)や連邦準備理事会(FRB)は再び費用計上の義務づけに動くそうですが、あまり厳格に運用するとベンチャー企業などには酷となりそうです。現在問題なのは大手企業なので、その適用基準について十分な議論を進めて欲しいものです。もしも国際会計基準でも義務づけになれば、日本企業へも大きな影響を及ぼすと思われます。

日本経済新聞朝刊2002/07/06の特集記事を参考にしました
02.11.30
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