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経済の研究No.137
バブルは続くか、どこまでも

 米国の株式市場は、一向に崩れる気配が見えません。数多くのメディアが警鐘を鳴らし続けてきましたし、米国のエコノミストもかなり厳しい分析を繰り返してきました。しかし、NYダウは8月に新高値を再更新し、繰り返す利上げにも強気の姿勢を崩していません。バブルバブルと言われながらも成長の勢いが止まらない、米国株式経済の元気の素は何なのでしょう。

■ 株式経済を支える個人マネー
 とにかく株式経済の担い手は、個人マネーです。これまでは法人もヘッジファンドも担い手でしたが、企業は少しずつ株式から債券へシフトしているようです。米国株式に限っては強気の売りを踏み上がられて、ヘッジファンドも散々の様子です。つまり統計上は明らかに危険な水準であるにも関わらず、強気でどんどん資金力を増し始めている個人マネーが、圧倒的な強さを示していると言うことでしょうか。
 現在のところ、米国経済は堅調です。それを下支えしているのも、個人マネーです。限られた機関投資家のための市場である日本とは違い、学生や主婦までが積極的な投資を行う裾野の広い個人投資家によって、米国の市場が支えられています。ここ数年の株高で一般投資家の含み資産は膨れ上がり、その含み資産を背景に過剰な消費が行われています。可処分所得から貯蓄に回す資金の割合を貯蓄率と言いますが、1998年12月には大恐慌以来と言われるマイナスを記録しています。つまり国民全体で見ても支出が収入を上回っている計算になっています。
 株価が上昇した手持ち株式を売却し、その資金で消費しているのなら、可処分所得が増えるので貯蓄率マイナスはあり得ません。結局売却した資金も株式に投入し、月々の給与から余剰分をさらに株式投資に回している分けです。自分たちの資金で自分たちの相場を持ち上げ続ける、一種の花見酒経済、かつて日本も体験したバブル時代であります。

■ バブルは続くか、どこまでも
 バブル経済は、弾けない限り実体経済になります。いつまでもオーバーヒートを続けることはできませんが、徐々に熱が冷めるのなら、さほど大きな反動には成らないでしょう。日本のバブル経済は、不動産融資の総量規制という急ブレーキにより、パチンと弾け飛びました。未熟だった日本の金融当局の金融政策と、土地神話を信じ時価以上の掛け目で担保融資を行った金融機関の無謀とが、日本のバブル後遺症を大きくしました。
 その点では米国の金融当局は賢明です。市場の動きを監視しながらジリジリと市中金利を引き上げています。その一方で、明るい話題も投入して株式経済の大幅なブレを修正していますね。また複数ある金融当局がそれぞれポジティブとネガティブの見解に分かれるなど、画一的な日本の当局とは異なるバランス感覚を持っています。
 個人マネーが株式投資に向かう限り株式経済の大崩れは無さそうです。貯蓄率のマイナスもまだ2.5%程度です。まだ数年はマイナスのままでも大丈夫かも知れません。貯蓄率の低下が顕著になるか、年金などを含む将来不安が具体化してくれば、個人マネーの流出が始まるかも知れません。昨年に一度個人マネーの流出が大きくなった時期がありましたが、もしも踏みとどまれなければ、雪崩をうって個人マネーが流出してしまう危険があります。

■ 鍵を握るのは海外マネー
 米国の株式市場を支えるもう一つの担い手は、海外マネーです。米国市場が一人勝ちを続けている結果、海外の投資資金が大量に流入しています。個人マネーが押し上げる分だけでは、マクロ的に見て一般投資家のバブル資産は大きく膨らみませんが、海外マネーによってバブル資産がさらに大きく膨らむ一因となっています。
 海外マネーの流出が発生し、それが個人マネーの流入を上回れば、株式経済はマイナス方向へ転落することになります。いま米国経済が警戒するべきことは、何より海外マネーの動向です。海外マネーは株式経済のみでなく、債券経済も下支えしています。債券経済が悪化すれば企業の活発性が失われ、いくら個人消費や株式経済が堅調でも不安要因に成ります。間違っても、エマージング市場で起きたような信用不安を生んではいけないのです。

■ 信用不安の回避に躍起
 信用不安といえば、一つはドル安。あまりにもドルの価値が低下するとドル資産が円資産やユーロ資産に化けてしまいます。それはつまり海外マネーの流出です。米国政府としても迂闊な政策は取れません。幸いにもユーロ市場は低迷気味で、日本市場も本物の回復には程遠い感じです。
 二つは財政赤字や貿易赤字です。財政赤字は好景気で税収が潤うことにより小康状態ですが、潜在的に水膨れした体質は日本と変わりません。政府は国債の前倒し償還などで財政安定化を図りたいところですが、議会が地方への資金バラマキに躍起で難しいようです。貿易赤字もドル安に成れば拡大するため、知的所有権強化による技術貿易黒字の拡大、ダンピング提訴など強権発動による輸入縮小輸出拡大、日本への内需拡大強要・・・など赤字削減に躍起です。
 ドル安と財政赤字と貿易赤字は一体不可分です。ありとあらゆる手段によって、米国の実体経済を高止まりさせようとしています。その手法が活き続ける限りは、米国の株式経済も安泰ではないでしょうか。

■ むすび
 しかし日本も、本当はバブルが続けば良かったですね。急ブレーキなど掛けず、金融機関へ緩やかな改革を求め、企業体質の健全化に着手し、一般投資家を株式や債券市場にもっと呼び込んでいれば・・・もう少し健全な形で日本経済は発展したのではないかと思います。そもそも未曾有の低金利政策でバブルを生み出し、その過程で一緒に踊り狂っておきながら、不味いと判断した途端にサッと幕引きをしてしまった日本金融行政の舵取りの失敗が原因ですものね。
 米国の見事な舵取りを見習って、これからは少しでもまともな金融行政が行われることを望みますが・・・果たしてどうなりますでしょうか。とりあえずは、米国の株式経済が大崩れすることになった場合に、どこまで悪影響をシャットアウトできるかが見物です。米国の不調を後目に海外マネーを呼び込んで発展させられるか、あるいは米国と一蓮托生とばかりに奈落の底へ転落させるか。
 日本の金融行政も少しは大人になったと信じたいところですが・・・はかない夢に終わりませんように。

99.09.04

補足1
 米国の貯蓄率とGDPには相関関係があるそうです。貯蓄率が0.5%下降すれば、GDPは1.5%上昇するのだそうです。つまり貯蓄率がマイナス2.5%から0%に上昇すれば、GDPは7.5%も下降するわけです。現在の貯蓄率マイナスは、必ずしも預貯金の取り崩しという意味ではないそうです。もともと米国国民の資産に占める預貯金の割合は小さいです。それを取り崩すというよりも借金をしているのが実体に近いでしょうか。ローンショッピングの割合が大きく、好景気が続くことを見越しての先食い消費が本当のところのようです。

補足1中の数値は「WEDGE」9月号より引用
99.09.04

補足2
 少し数値は古いのですが、1997年末現在における個人金融資産の日米数値比較のデータがあります。日本は現預金が62.2%,保険年金が28.2%,投資信託が2.3%,有価証券が7.3%です。対する米国は現預金が15.7%,保険年金が29.9%,投資信託が9.5%,有価証券が27.9%,その他17%となっています。米国のその他の内訳は不明ですが、それでも投資信託と有価証券で37.4%という数値は驚異的です。現在ではさらに投資信託と有価証券のシェアが拡大していることでしょう。

補足2中の数値は「DIME」99/09/16号より引用
99.09.04

補足3
 すでに個人マネーの勢いが弱まっていることが明らかになりました。直接投資ではなく、投信(ミューチャル・ファンド)経由の資金ですが、1999年1−6月分の純流入額が906億ドルとなり、前年比27%減に成っているというものです。株式投信のほかMMFなどの減少も著しく、7月・8月に入っても増加する傾向が見えないとのことです。
 投信への純流入額は、1991年から急増し、1993年に1,300億ドル、1997年に2,300億ドルにまで拡大してきました。しかし1998年は1,500億ドルへと急減し、依然として大幅な入超ではありますが、勢いは鈍っているようです。一部が直接投資に向かう一方で、消費その他にも回されているようですが、個人マネーの直接投資分はデータがありません。
 そのほか依然として年金マネーの流入は続いており、個人を出所とする資金により市場が支えられているのは間違いなく、また現状では需給の著しい悪化は認められていません。

99.09.10

補足4
 アメリカの財政赤字について補足します。レーガン政権時の放漫財政が原因で1992年の財政赤字は2,809億ドルに達していました。ところが1998年には728億ドルの黒字に転換し、1999年には990億ドルの黒字に拡大する見込みです。黒字の原資は歳出抑制や政府機関の合理化にあり、これに好景気の収入増大がプラスされているとの見方が一般的であるそうです。
 累積額で見れば依然として財政赤字であり、これを埋めてきた国債の償還がいずれ必要なのですが、黒字効果は当分続くものとして、恒久減税を求める声や、教育・研究のために先行投資するべきとの声が出ています。「金融ビジネス」10月号の特集記事によれば、今後10年間で捻出できる財政黒字は2.9兆円で、このうち社会保険関連に1.9兆円を留保しても1兆円は使えると試算しています。
 過去の負債を圧縮して身軽になるのが良いのか、先行投資して将来の果実を大きくするのが良いのか、減税して目先の好景気を延命させるのが良いのか、難しいところですね。我が国は財政赤字の最中に減税論議をしていますが・・・。

99.09.20

補足5
 ネットバブルは1999年1月に始まり、2000年11月で終わっていたそうです。その期間はわずか21か月であり、過去の好景気の中では最短だということです。不動産バブルの時代に較べても、あまりに短く、あまりに弱々しいものでした。米国経済は5年近くのネットバブルを謳歌し、日本の不動産バブル並みに消費も刺激し、米国の経済覇権の時代を築きました。日本はその余禄を受けると同時に、都合良く利用されただけだったようです。
 中でも、ドットコム企業や通信関連企業のM&Aは散々たる結果で、現在も「のれん代(買収価格から、被買収企業の資産価値を引いた差分。これが被買収企業のブランド価値に相当します)」と称する多額のツケを受けています。ネットバブル期には勝ち組企業と言われた企業ほどダメージが大きく、NTTドコモなども喘いでいます。

 ネットバブルは早くから警鐘を鳴らす存在が多かったために、不動産バブルほどには長く尾を引くことなく済みそうです。一気に大手企業にのし上がったベンチャーも数社あり、それなりに産業構造の改革には役だったようです。それにしても、短いバブル景気でした。

02.11.30
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