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経済の研究No.126 |
従業員持株会の役割 |
上場企業の大株主に従業員持株会が顔を並べているのを見受けます。日本経済新聞社の調査では、持株会も持つ上場企業は1998年度中に47社増加し、2,337社(シェア96.3%)に上っているそうです。また店頭公開企業でも500社近くが導入しています。もともと福利厚生の一環という意味が強く、従業員に自社株で安定的に資産形成をさせようという制度です。このため奨励金を補助して時価より割安に購入できるようにするなどしています。
■ 持株会はどう運営されている?
持株会は従業員で組織される任意団体です。いろいろな運営形態があるようですが、事務局を社内に設け証券会社に運営委託しているケースが多いようです。組合員(つまり持株会に参加する従業員)は給与天引きなどで月々定額を拠出し、ボーナス時などに追加で拠出することもできます。
拠出された資金は事務局が集金し、持株会の規約で定めた日に株式を買い付けます。上場企業は株価が額面の数倍であるのが普通なので、組合員1人分の拠出金では単位株分さえ買えませんが、全組合員の拠出金を集めることで購入が可能になります。単位株未満になる拠出金は、自動的にプールされて翌月の購入資金に回されます。
当然ですが、株価が上昇すると買い付ける株数は少なくなり、株価が下降すると買い付ける株数が多くなります。例えば、昨年株価が額面(50円)を割り込んだフジタの場合、持株会の保有株数は前年までの4割増になっています。1998年度は軒並み上場企業の株価が下落しましたので、保有株を大幅に増やした持株会が多いようです。
組合員は原則として従業員のみで、役員成りや退職で脱会扱いになります。脱会する際は規約に従いますが、持ち分を株式で受け取る場合と時価相当の現金で受け取る場合があるようです。
■ どのようなメリットが?
企業が順調に業績を伸ばした場合株価は上昇しますから、持株の資産価値は高まります。また未公開企業の持株会であれば、株式公開のチャンスがあれば大きなキャピタルゲインを得ることができます。ある種のストックオプション制度と見ることもできます。
株式公開を狙う場合、外部に出資者を募るよりも社員に出資させた方が安心なので、オーナーの持ち分や増資新株を持株会に拠出して購入させているケースが多いようです。大手証券会社の受託分だけで3,800社ほどに達しています。同様に店頭公開企業が株式上場する場合にも利益を受けることが可能です。
自社株式を購入することで自社の財務内容や経営内容に関心を持つようになります。この関心をどう活かしていくかは経営者次第ですが、経営者が開明的であれば持株会への情報提供や意見交換なども行ってくれるでしょう。必要に応じて持株会として株主の権利主張ができるようになれば良いのですが・・・。
■ 高まる従業員持株会の重要度
日本経済新聞社の調査によれば、持株会のシェア(保有株数の占める持株比率)は、昨年度中に単位株ベースで10.1%も増加したそうです。前述のフジタの例を引くまでもなく、株価が急落した企業を中心に持株会のシェアが拡大しています。例えば、三菱電機では持株会が首位(4.8%)に躍り出ています。1997年度末に3位(3.8%),1998年度末に2位(4.2%)であり、株価低迷がそのまま持株会のシェアを押し上げたケースです。
週刊東洋経済99/07/31の調査によれば、シェアで首位を占めているのは三菱電機(4.8%),フジタ(3.8%),肥後銀行(4.6%),大阪銀行(4.7%),アズウェル(10.6%)などがあり、2位を占めているのは熊谷組(3.5%)、3位を占めているのは三洋電機(3.6%),大成建設(3.0%),コスモ石油(2.9%),ユニチカ(2.7%)、4位を占めているのは日立製作所(3.1%),北海道銀行(2.9%)などと成っています。
こうして持株会のシェアが増加し、金融機関相手の持合株解消の受け皿役も果たし始めていますが、現状のままでは問題があります。持株会が持株会として経営方針に反対できる体制にないと言うことです。持株会の事務局は経営側の管理下にあり、株主総会において経営陣を批判する立場に立てません。それはつまり、本来の株主である従業員の利益と反するかも知れないと言うことです。
■ むすび
持株会の意義を単に福利厚生に限定するのであれば、持株会を翼賛化するのも良いでしょう。しかし経営判断のミスがそのまま株価低迷に現れるようになった今日、それは組合員の資産を減少させることに直結します。株価が1/2、1/3に下落するようでは、福利厚生の目的すら満たし得ません。そんな経営にも、組合員は指を加えて協力しないとダメなものでしょうか。
持株会を核とした株主代表訴訟なんて話も現実化してくるかも知れません。現在の株価が大幅に落ち込んでしまった企業の経営者は、株主重視の経営へ路線転換し、株価回復へ向けた算段を進めるべきだと思います。
99.08.07
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補足1
本文中で引用した週刊東洋経済の記事によれば、10位以内の大株主に成っている株式公開会社の持株会は、1,525社(全公開会社の46%)だそうです。
また未公開企業の株式公開によってキャピタルゲインが得られた例として、フューチャー・システム・コンサルティング社を挙げています。同社の持株会は1996年12月に1株13.6万円(額面5万円)で第三者割当増資を引き受け、1999年6月の株式公開で初値3,350万円となったそうです。実に246倍です。こういうケースばかりだと良いのですけどねぇ。
99.08.08
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補足2
第138回「ストックオプション損得」とも関係がありますが、東芝は2001年7月に経営幹部を対象にした持株会を設立するそうです。具体的には、取締役(社外取締役含む)・執行役員・事業本部長など約100人が対象で、年間100万円以上の東芝株購入を求めるとのことです。株主を重視した経営の徹底化に繋がるということで、無責任なストックオプションとはひと味変わっています。
01.05.04
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補足3
コナミは2001年度から本社とグループ会社の幹部・幹部候補生に対して、全員に社員持株会への加入を義務づけたそうです。株価に対する意識を養わせることが目的で、業績向上に対する意欲を強めるためと説明しています。役員に義務づける企業は増え始めていますが、社員に義務づけるのは珍しいです。すでにストックオプションも導入しているものの、これでは経営に対する意欲が出ないとの判断が働いているそうです。
しかし本制度の導入により、代表取締役であっても株価を低迷させかねない経営方針は打ち出せないことになり、結果的に経営の透明性を高めることでしょう。追随する企業が増えることに期待します。
01.11.04
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