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経済の研究No.127
動かない勇気も必要

 いつまで待っても低金利政策は止めない様子です。金融機関救済のためのはずが、相次いで行き詰まる金融機関が続いています。大手銀行に優先株を投入しましたが、その安くない利払いを続けるために必要な運用先が見つからないのも、日銀のゼロ金利政策が原因です。都銀の国債保有残高が過去最高に達したそうですから、運用資金が低金利に喘いでいるのは間違いないところです。その代わり、オーバーローンが解消され資金繰りに一息ついているようです。

■ 有利な金融商品は無い
 近頃、生保会社や証券会社が個人の資金運用に乗り出してきました。ファイナンシャル・プランナーという肩書きを持ち、図表を提示して専門家らしい説明をする彼らは、表向き顧客のためを考えている素振りを見せますが・・・。
 そのファイナンシャル・プランナーという肩書きですが、くせ者です。米国では信用ある公的資格ですが、日本の場合各社が研修の実施だけで適宜乱発している私的資格に過ぎません。多少の専門用語などはたたき込まれていますが、新しい資金運用のニーズを満たすだけの知識はありません。
 彼らの提示する資金運用プランにしても、要するに低リスク・中リスク・高リスクを組み合わせて、どれかで損を出しても残りで損を埋めようと言う安直なものです。ところが低リスクとなればMMFなど安全すぎる商品、中リスクでは相場変動で高リスクに変わりかねない商品、高リスクに至っては円高局面での外国商品だったり、トリプル安懸念の米国株式・債券だったりします。これでは損だけ出して埋められない散財に成りかねません。
 そもそも分散投資はある程度まとまった資金が必要で、しかも10年20年と寝かしておけることが必要条件です。そんな資金を持っているのは一握りの金持ちで、分散投資は庶民向き商品ではないのです。要するに顧客に有利だと進めながら、自社で運用手数料を吸い上げることだけが狙いです。顧客が損をしても手数料は確実に取れますし、なにより自社は損をしませんから。

■ なぜ今、投資信託か?
 投資信託が人気を集めています。銀行での窓口販売が解禁されたことが大きいのですが、運用に格別有利な商品が増えたわけでもありません。単に販売窓口が増えて、売り込みに熱心なセールスが増えただけです。雑誌も熱心に投資信託を薦めていますが、決して良い商品ばかりではありません。
 実績をみる限り安定した利回りを確保している商品が多く見られます。しかしこれは利益操作した結果なんです。未だに運用資産は時価評価されていませんから、決算の際に含み益のあるものから利益を吐き出して上手に運用益を計上し、利益を調整しているだけです。ふたを開けてみたら含み損を多く抱えていたりする投信商品も出るかも知れません。
 新しい商品では、数年高利回りの成績を残しているものがあります。しかし、これまで高利回りであったことが、これからも高利回りを保証するものではありません。中には運用者の腕が優れていて、新しい資金を次々に集めてより大きな利益を生み出している場合もあります(オープン投信の場合)。しかし運用者が変わったり勘が狂ったりするだけで、アッという間に損失が膨らんでしまうリスクもあります。現実に、5年間連続して高配当の成績を残した投信商品は数えるほどです。
 投信には株式のみ、債券のみ、海外のみ、国内のみ、それらのミックスなど色々の種類がありますが、そのリスクを示すはずの指標であるRRもあまり正しい評価でないという話です。また現状としては正しくても将来を保証するものでもありません。僅かな利回りの差を追いかけて、大きすぎるリスクを背負わされたという失敗はしたくないものです。

■ なぜ今、乗り換えか?
 生保や損保が商品の乗り換えを勧めに来ています。月々の掛け金負担が少なくなるとか、複数契約で割引になるとか、補償の範囲が広がるとか、口上手に説明をしています。しかし、カタカナ生損保を除外すれば、どこも逆ざやに喘いでいます。しかもこの運用難の中で、顧客がノーリスクで利益だけ享受できる乗換商品は存在しないはずです。口車に乗らないようにしたいものです。
 掛け金が安いことで優勢なカタカナ生損保も、安全とは言えません。彼らの提示する運用条件は、加入者が増加し運用資産が一定以上の規模に達することを前提にしています。莫大な広告費を使い、人件費の膨らむ男性正社員を使っていて、本当に国内よりも良い利回りが提示できるのか疑問です(もちろんコスト削減効果などは説明されますが)。何より国内撤退というリスクもあります。
 乗り換える前の商品は、概ね高い利回りを前提として作られています。目先掛け金が安くなったとしても、将来的には不利になると思います。何よりも乗り換えるためには、旧来の契約を捨てる(下取りと呼んでいますね)のですから、そこでかなりの損を出すことも覚悟するべきです。結局、商品の乗り換えはしないほうが賢明だと思います。

■ 動かない勇気も必要
 いよいよペイオフが解禁になります。これからは自己の責任で資金運用をすることを迫られます。パンフレットの表面で踊るだけの数字に飛びつくと、虎の子を失うリスクが待っています。これまで貯め込んだ虎の子を丸損することを考えたら、年利0.1%でも安全に増やしてくれる商品の方がマシです。たとえ年10%の利回りを出す金融商品でも、10年以内に破綻すれば大損です。
 株式市場を見てみましょう。回復基調だと言われて日経平均が3か月で3,000P以上も上昇しましたが、わずか2週間で1,400Pも下落しました。買うなら今の内だと騒ぐ証券記事を読まれれば、いかに日本の投資情報はいい加減か分かっていただけるでしょう。雑誌や新聞の宣伝に惑わされず、今の成り行きをじっと見守ることも必要だと思います。
 他人が資金運用に成功した話を聞くと自分も乗ってしまいたく成ります。投資に参加するよりもしない方が勇気のいることです。しかし、その勇気を持てるかどうかが本当の勝敗を分けます。今は研究に専念してみてはどうでしょうか。自分への投資が今一番に高リターンの商品かも知れませんよ。

99.08.08

補足1
 意外に多くの反響を頂きました。それだけ関心が深いと言うことなのでしょうか。本文中の保険の乗り換えは専門用語で「転換」というそうです。最近、強引な転換をさせて契約者に損失を与えているケースが多いそうですので、転換の際は必ず契約書をチェックしましょう。外交員の作成したメモと現実の契約内容が異なることもあるそうなので、外交員の言葉を鵜呑みにせず、上司の一筆取ることも必要です。
 金融監督庁も「消費者保護の視点から転換問題に重大な関心をもっている」とコメントしていますし、新規契約の取れない外交員が0.3件分(日本生命の場合)の実績にカウントされる転換を積極的に勧めてもいます。また低利の養老払いを高利に粉飾したり、必要以上に特約を付加して終身部分を極端に圧縮したりもするそうなので、まず動かないことも必要でしょう。

99.08.26
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