前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.105
国内通信業界の再々編

 世界最大の通信事業会社、日本電信電話株式会社(以下、NTT)。施設負担金の名目で多額の資金を顧客に負担させ、それを原資にしたインフラ整備に明け暮れた巨大企業です。今や低迷していた株価も急回復し、4月30日現在の株価は130万円。時価総額は20兆円を超えています。長年に渡り通信事業を独占し、負担金によって獲得したインフラ面の優位性を活かし、健全な市場形成を目指して設立された新規通信業者を圧迫する一方です。
 以前には、その巨大な企業を分割して健全な競争をさせようという議論が沸き起こりましたが、いつのまにか棚上げされ、純粋持株会社構想に話がすり替えられてしまいました。東日本・西日本・長距離に三分割されるものの、実体としては人事交流を抑制されるほかは持株会社の下に一事業体であることは変わらず、しかも時価総額13兆円を超える無線通信事業会社NTTドコモ、同じく3兆円に迫るデータ通信事業会社NTTデータほかを傘下に収めて通信業界のガリバーが出現します。

 長距離系電話会社の導入に始まった通信業界の規制緩和でしたが、圧倒的なNTTのシェアに太刀打ちできず、しかもインフラの大部分をNTTに依存する構造から抜け出せず、NTTを肥え太らせるだけの結果に終わりました。無線通信事業では、IDO、セルラーなど非NTT系携帯電話企業が奮戦しましたが、やはり資本力の違いには抗することができず、ジリジリとシェアを喰われています。辛うじてPHS事業だけはDDIがNTT系を圧倒しましたが、価格競争の果てに巨額の累損を抱えただけで、結局両者痛み分けに終わりました。
 またKDDとの棲み分けがあった国際電話事業も、いつの間にかNTTが触手を伸ばし、シェアを食い荒らしています。これは専らKDDが高コスト体質に胡座を掻き続け、海外の低コスト回線と体力消耗戦を演じたところに付け込まれたことが敗因ですが、やはり資本力の差には叶わぬ様子です。NTTはこれまで国策会社という性格上海外への進出に歯止めが掛けられていましたが、アジアの電話事業会社の買収やAT&Tとの提携など積極的な海外展開にも手を染めています。依然として日本での通信料金は高いままなのですが・・・。

 強いNTTに対抗して、非NTT系は相次いで合併・提携を模索してきました。有線・無線・国際の垣根を越えての大同合併ですが、NTTへの規制緩和と並行して認められた結果、やはり出遅れ分を埋めるには至っていません。やむを得ず、日本テレコム(JR系)は外国資本の出資を受け入れると発表しました。IDO(トヨタ系)とDDI(京セラ系)も最後の提携を模索し、それでも不足ならば積極的に外国資本を受け入れる姿勢を明確にしました。高すぎるNTTとの接続料金を下げさせることは、現在のパワーバランスで不可能なことに気付き、外国資本を背景に大きく巻き返しを図ることに成りそうです。
 現在注目を集めているのは、国内で唯一の国際電話専業となったIDCの動向です。IDCはもともとトヨタ自動車、伊藤忠商事、英国C&Wなどが共同出資して設立した国際電話事業ですが、トヨタ自動車が傘下のテレウェイと合併させてKDDを手に入れたことから持株の手放しを意図しており、これにNTTが食指を動かしたのが現在の構図です。NTTは現在IDCと資本関係が全くありませんが、取締役会にNTTへの身売りを決意させるなどの荒技を演じました。これに異議を唱えたのがC&Wで、同じ筆頭株主の立場からトヨタ自動車ほかの持株を優先的に譲り受ける権利があると主張しています。
 NTTにはNTTの都合が、C&WにはC&Wの都合があるわけですが、筋からすればC&Wに軍配が、国民感情から言えばNTTに軍配が上がるのでしょう。旗色の悪さを実感したC&Wは、英国政府やWTOを動員して必死の巻き返しに出ていますが、どうなるでしょう。

 ポン太個人としては、NTTによる市場独占は歓迎しません。この日本で、通信事業だけに巨大な市場独占を許すべきではないのです。完全に分割してしまえば、国際的に資本集中が起きている現状で生き残れないと言う主張は理解できます。しかし公正な競争を経ていない巨大企業が、このままで国際企業と互角以上の戦略を展開できるとも思えません。NTTの強みは長年ユーザーから吸い上げて整備したインフラにあります。本来なら公社時代からのインフラは他社に無償で利用させるべきものです。そうでなければ電話加入権を全加入者から買い上げる(つまり施設負担金を全額返還する)のが筋で、今のまま事業展開を継続させるべきではありません。
 非NTT系の各社は外国資本の傘下に収まることで、とりあえず対抗していくことになりますが、ここまで国内資本で育ててきただけに、惜しまれます。今ならまだ間に合うはずです。たとえ世界一の通信事業会社で無くなるとしても、NTTは完全に分割するべきです。

99.05.02

補足1
 NTTは確かに世界一の通信事業会社ですが、その経営スタイルは旧態然です。あまりにも悪い資産運用効率、あまりにも多い過剰人員、こうした問題を解決することなく海外へ打って出ることは極めて危険な話だと思います。欧州でも通信事業の再編が始まっています。最大の関心はドイツ・テレコムとテレコム・イタリアの合併で、世界第二位の規模となる予定です。幸いにも両者も国策会社体質から脱却できていないようですが、EUを股に掛けて成長する過程でかなり実力を養ってくると思います。NTTにとっての不幸は、そうした機会が当面得られないことです。これまで国内の通信業者が発展する芽を自ら摘んできたことが原因なのですが、果たしていつ気付いてくれるのでしょうか。

99.05.02

補足2
 NTTドコモは業績の好調と株価高を反映して、1株を5株に分割するそうです。ただし配当は据え置きの模様で1株当たりの配当は5分の1と成るようです。株式流通量は増加するため、これにより株価が下がる可能性もありますが、人気銘柄が割安になるため逆に値上がりするかも知れませんね。NTTの有線回線は契約件数が減少に転じており、その分をNTTドコモの無線回線が喰っている構図になっています。全国で見たときの携帯電話のシェアは60%以上、東京に限定すると75%以上とのデータもあるようですから、業績はまだまだ伸びるかも知れません。NTTドコモも企業分割の必要が出てくるかも知れません。
 NTTデータ通信は、システム構築時業が好調で、2000年問題に絡んだ特需でも大いに潤っています。まだまだこれからも事業が拡大しそうですが、その動向には注目が必要です。

99.05.03

補足3
 開示されているデータによりシェアは異なりますが、日本経済新聞3月2日の特集記事によれば、PHSを含む移動体通信市場のシェアは、NTTドコモが52.9%、セルラー系が11.2%、DDIポケットが7.8%、デジタルホンが7.7%、IDOが7.2%と成っています。NTTドコモは通信事業全体では20%程度のシェアに過ぎないと強弁していますが、その場合は有線事業のガリバーNTTと合わせたシェアの議論が必要であろうと思います。

99.05.04

補足4
 IDC買収に関しては、条件引き上げ競争をした結果として、C&Wに軍配が上がりました。主要株主のトヨタ自動車と伊藤忠商事がC&Wへ持株を売却した結果、C&Wの持株比率が51%を越えたことが理由です。
 敗者NTTは国際通信のインフラを自己資本で強化するかリースで賄うかを迫られますが、大きな戦略変更を強いられはしないでしょう。勝者C&Wも、買収価格がつり上がった結果、かなり不効率な投資に成っています。いかにして赤字会社からリターンを確保するかに注目されます。

99.06.15
前頁へ  ホームへ  次頁へ