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K君の私的曲紹介(第2回)
シンフォニア (その2)
■作 曲 家 C.Ph.E.Bach (1714-1788)
■作品番号 Wq.182
■作 曲 年 1773
■編  成 交響曲、弦5部、通奏低音
■演奏時間 10〜12分

 では、シンフォニアの続編ということで。

 この時代においては曲集を作る際、曲をどういった順序で並べるか、ということにはあまり注意が払われていなかったように思われる。言葉を換えれば、曲集というものは文字通り曲を集めたものにすぎず、曲集全体としてのプロローグ、エピローグ的なものは、全く考えられていないと言ってよいだろう。かろうじて曲集としての構成が配慮されているものは、テレマンのターフェルムジークくらいであろう(これは元々そのように作ったものであるから当然なのだが)。
 しかしこのシンフォニアには、そのような仕掛けが何かあるように感じられる。第1番第1楽章の冒頭では、ユニゾンでいきなり「ジャンジャカジャン(字で書くと間抜けだが、この表記がぴったりなのである)」というまさに絵に描いたようなオープニングの宣言がなされているし、また第6番第3楽章(終曲)はホ長調8分の3拍子で、付点リズムが支配しているのだが、宴の後のようなどこか寂しい雰囲気を漂わせ、曲集はこれでおしまい、という感じを聴く者に抱かせる(余談であるがこの第6番第3楽章の感じは何かに似ていると考えていて、先日思い当たったのが日曜の夕方に放映されている長寿アニメのエンディングテーマ。もちろんこちらは8分の3拍子でも付点リズムでもないのだが、思い出話によく出る、「あのエンディングを聴くと、楽しい日曜が終わっちゃった、また明日から学校だ、って悲しくなったよね」という話に何か通ずるものがあるように感じられる)。
 エマヌエル・バッハが曲集のオープニングやエンディングを意識していたという記録はないので、上に書いたことはあくまで多分に贔屓を含んだ個人の感想の域を出ない。しかしそういう風なことを考えてみると、曲の楽しみが拡がるのではないだろうか。
 では次にオープニングとエンディングの間に挟まれた曲を2つ採り上げてみよう(ここにきてさすがに全曲は扱えないことに気付いた)。

◆第2番 変ロ長調
 この曲では伴奏の扱いに注目したい。アウフタクトで旋律に先行して曲を引っ張り、更には旋律の隙間を埋める合いの手のような効果を多用(第1楽章)することによって、伴奏は旧来の通奏低音よりも曲の進行を積極的にリードするようになっている。そのためこの曲ではとりわけヴィオラ、チェロの役割が重要であり、これらのパートがしっかりしないと曲がさまにならない。
 第3楽章(4分の3拍子、Presto)では、伴奏によって奏せられる躍動的なリズムが印象的である。バロック期の曲はその多くが舞曲を源としているため、リズムが単調になりがちである。しかし前古典期になると舞曲の束縛から解放され、自由なリズムの曲が増えてくる。それでもエマヌエル・バッハのようなリズム感覚を持っている同時代の作曲家は、あまり見られないだろう。
 また前半、後半に一回ずつ用いられている、半音階の上昇形も特徴的である。音の変わり目を2拍目の頭、3拍目の頭とし、また16部音符の刻みによって、力強い推進力を曲に与えている。

◆第4番 イ長調
 エマヌエル・バッハの曲には、長調でありながら暗い曲が多い。モーツァルトなどのウィーンの音楽を「爽やかな秋晴れ」とするならば、エマヌエルはさしずめ「曇りところにより雨、のち薄日がさす」といったところか。この第4番がその代表的なもので、冒頭イ長調の分散和音をヴァイオリンが奏でた後、4小節目で思い切り暗い主題が、ユニゾンで強烈に奏される。その後も垂れ込めた雲は第3楽章まで殆ど晴れることがなく、薄日がさすコーダで曲は閉じられる。
 また一方で臨時記号の使用が多いために調が安定せず、これが本当に古典派以前の作品か、と思わせるような曲である。
 この曲のどこが魅力か。爽やかで明るい曲はもちろん良い。しかし明るいだけの曲に対してはふと「世の中って、そんな脳天気なもんじゃないだろ」と、あまのじゃくな筆者は思ってしまうのである。加えて、例えば小説でも映画でも、日々是好日、ハッピーエンドではつまらない。やはりドラマチックな事件がないと…。この曲にはその辺りの不満・物足りなさに対する答えがあるような気がする。曲自体が持つ起伏のおもしろさ、暗い中で時折さす日の光をうけた時の感動に通ずる感覚、そのあたりが魅力であろうか。

 …やはり長くなってしまった。好き勝手なことを書いてしまった。これでは誰も聴いてみようとは思わんだろうなあ、と考えつつ、演奏はやはりホグウッド/エンシェント(Po F35L-50393)が一番ノーマルでおすすめ、ということで今回は締め。

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