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前略 中内様(No.21)
余剰人員はグループ外で有効に活用を

 有能なスタッフを集めてありますと、これを手放すことが非常に惜しくなりますね。しかし有効な働き場を与えずグループ内で燻らせるだけでは、当人がやる気を喪失し、結局は損失になります。それならば、余剰人員をグループ外に放出してベストの姿勢で臨みたいものです。

 さて、卸業者を含むグループ外の関係会社は、望んでも有能な人材を抱えられないことがあります。月々の給与、福利厚生を含む待遇改善の負担が大きいためです。その関係会社へ御社の人員を出向させるのはいかがでしょうか。関係会社は資本関係がなくても一蓮托生ですから、御社の人材を有効に役立てて貰うことは、御社が得る利益も大きくします。出向から戻る社員は、その経験を生かした新しい提案や工夫に努力することも期待されます。
 関係会社は有能な人材を借りたいでしょうが、御社の系列下に吸収されないか、ノウハウを盗み出されないかといった不安もあると思います。また短期間の出向では、自社で経験を積ませ教育をする甲斐がありません。場合によっては、その人材を引き取りたいと考えることもあるでしょう。有能な社員を関係会社に渡すことは一時的には損失ですが、退職や解雇で失うよりは関係会社に収まる方が有用であると思います。

 まず出向先の条件として、取引の大半が御社との取引であること、経営の効率化が進まない小規模企業であること、取引関係が長く信頼できること、ダイエーグループとして吸収したいノウハウを有すること、などが必要条件です。
つぎに出向者の条件として、比較的若く幅広い経験を積ませたい人材であること、グループ内でその人材をより有効に使いこなす場が得られないこと、当人の希望があること、を考えてみます。
 そして出向の条件を考えます。2〜3年間の中期出向を行わせ、期間満了まで引き揚げを行わないこと、給与の一部(3〜4割程度)を補填して収入減を招かないこと、社宅を含む福利厚生は引き続き御社が行うこと、関係会社と本人が希望した場合は移籍を認めること、関係会社側が望んだ場合は御社の福利厚生システムを利用させること、効率化などで資金需要が生じたときは融資又は債務保証を行うこと、などを検討しなくてはいけないでしょう。
出向期間中は、関係会社の了解を得た上で定期的報告を義務付ける必要があります。合わせて当人について関係会社の評価を受ける必要があります。得られる情報はデータベースに蓄積し、他の関係会社への情報提供の素材とします。また必要が生じれば、関係会社同士の提携・合併を促し、経営の効率化を手伝うことも可能かと思います。

 関係会社との関係強化は、金銭ばかりでなく、人材によっても可能です。資本関係は無くとも優秀な人材を貸与・供給し、情報連絡を密にし、ノウハウを相互交換することにより、関係強化を図ることが可能になると思います。すでに実践されている例も多いかと思いますが、一層システム的に導入することにより、御社の足腰を鍛えることができるかと思います。
 関係会社が効率的な経営を実現し、コストの削減を成功させることは御社にとってプラスに働きます。また関係会社が柔軟な思考を養う余裕を育てることは、商品やサービスの開発向上に大きく貢献することと思いますので、是非ご検討下さい。

 蛇足ですが、トヨタ自動車日産自動車におけるコスト削減方法について聞いた話があります。前者は関係会社との間で緊密な情報交換を行い、コスト削減のための具体的な提案を行うそうです。結果、関係会社はレベルアップし、お互いに利益のある形でコスト削減が可能になるそうです。後者は関係会社にパーセンテージのみの削減目標を突きつけ、関係会社が努力したコスト削減の成果を取り上げるだけだそうです。いずれが優れた方法であるかは言うまでもありません。同じことは、コンビニエンスストアのアドバイザーにも言えることかと思いますが。

 取締役クラスに創業期の人材が残っていないと云われるダイエー。ある者は志半ばで倒れ、ある者は社外へと去り、そして引退した者もいます。しかし、これを以てダイエーは人材に対する意識が低いとは言えません。むしろサンコー、十字屋など傘下に収めた企業から人材だけを抜き出して、グループ内で有効に活用されていることは有名であります。リクルート株を江副氏から譲り受けたときも、優秀な頭脳の散逸を惜しんで引き受けたとも聞かれます。むしろ中内氏は人材を重んじてきたといえるのでしょう。
 しかし、中内氏はワンマン的社長であり、グループ戦略においては優秀な人材を使いこなしていません。結果として、一人ひとりの個人プレーが多くなり、エネルギーが発散してしまうために十全なパワーを出し切れていないと考えます。今後は優秀な人材をブレーンとして組み替え、集団として力が発揮されるような戦略へと切り替える必要があるはずです。

総 括
 御家騒動によって、自ら会長の地位を失った中内会長。鳥羽社長の体制を整備するために、グループの有力者を呼び戻しもしましたが、結果的に破綻してしまいました。皮肉なことに、中内氏が会長を退陣することによって、かつてのV革メンバー達が呼び戻され、大胆な自己改革を行える環境が整いつつあります。失われた時間が大きく、以前以上に劣悪になったグループ資産をどう運営して再生に繋げていくのか、大いに注目されるところです。
 やはり有能な生え抜き社員は大事にするべきだったのですね。禅譲を至上命題にしてしまった中内氏の失策が惜しまれます。結果は、ファミリーにも、従業員にも、株主にも、お客様にも、不幸でありました。

01.01.28
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