前略 中内
様(No.17)
怖いのは解任動議
野心的で行動力がある若社長にとって恐ろしいものがあります。それは解任決議でしょう。創業者の直系であっても、過半数株式を持つオーナー社長であっても、取締役会で解任を決議されれば解任されます。野心的であること、行動力があることは望ましく、若社長が立ち上げた事業も将来は利益を結ぶかも知れませんが、古株の取締役にとっては迷惑な存在です。
その企業の有利子負債が大きいことや、主要取引先や金融機関との関係が悪化すること、会社運営が不安定であること、がその原因となります。解任動議に勝ち残ったとしても、半数近い取締役は解雇せざるを得ません。留任させたとしても処分を恐れて従前の働きは期待できないでしょう。人材面での損失は計り知れないものがあります。
創業者一族の社長でありながら解任されたケースでは、フジ・サンケイの鹿内氏、飛島建設の飛島氏、角川書店の角川氏など多く事例があります。必要以上に解任社長の失敗や欠点を強調する面はありますが、若社長側にも油断と判断ミスがあったことでしょう。一度解任されれば過半数の株式を握っていても返り咲きはあり得ません。銀行も取引先も信用不安を恐れて復帰を望まないためです。
解任動議は取締役会で出るわけですから、その引き金は取締役の一人が引くことになります。野心家で寝技師的な古株取締役、銀行の圧力に抗しかねる気の弱い番頭格取締役、関係企業からの非常勤取締役、あるいは社長一族の取締役であるかも知れません。
いずれにせよ、日々取締役の大多数を自分の足下に抑えて置くことが必要ですが、代表取締役社長には解任権があるため、社長からは取締役の本音が見えません。社内にスパイを雇ったのでは、組織が硬直してしまうでしょう。まず取締役達の尊敬を集める努力をすること、彼らの意見を良く聞いて問題点を指摘した上で採用すること、日々言葉のキャッチボールを行い相互の意識の溝を埋めること、などが必要です。
そして若手・中堅による親衛隊を作ることです。月並みですが、若社長を囲んでの昼食会、秘書室長を囲んでの勉強会などがありますね。部下の不平不満を吸い上げ、それをプラスに転じる組織作りが望まれます。とくに若社長が先代の内から親衛隊作りに取り組んでおくことが肝要です。
前社長から若社長への権限委譲は、前社長のニラミが十分に利く時期に行わねばなりません。その期間内に実力と実績を蓄えることにより、取締役達に弓を引かれる機会は減らすことが出来ます。また先代はあまり若社長に口を挟まないことが若社長の自信を深めることでしょう。決して人前では若社長を貶さないこと、多少オーバーに見えてもベタ褒めをすることも必要かと思います。創業社長は部下を叱ることで組織を束ねることが出来ますが、実績のない若社長は部下と連帯して運営することで組織を束ねるのが無難だと思います。
さらに、競合企業や金融機関につけ込まれない努力が必要です。大きすぎる有利子負債の存在、不安定な大口取引先や子会社の存在は、介入の口実を与えてしまいます。また一般投資家の信用を失うことも危険要素です。権限委譲に当たっては、問題の大きい分野を中心に対処させ、十分な後見人と共同で処理に当たることが度胸、実績を積む意味で重要な価値があります。
くれぐれも緊急取締役会での解任動議などを招かぬよう、日頃から見通しの良い企業運用を図って頂ければ、と一投資家は考えます。
#N12月の持株会社設立で中内氏の三人の息子達が出資する「サカエ」が持株会社のオーナーとなりました。これにより持株会社及びその傘下会社内で彼らが解任される可能性は限りなく低くなりました。同持株会社は未上場会社であるから株主総会も形式的で、兄弟が争わない限りは解任動議の出されません。
ただし、持株会社の傘下企業はまだ少なく、肝心のダイエーはその下に組み入れられていません。中内氏の長男潤氏がダイエーの次期社長に就任するのであれば、その手腕如何で解任される可能性が残されています。
最近では同族会社は上場企業に適さないとの批判が多いです。オーナー社長に実力が伴えば問題ありませんが、得てして独善的経営に邁進することが多いです。そのため解任や退任に追い込まれる例が最近は多いでしょう。無能なリーダーでは乗り切れない全国的な不況が訪れていること、金融機関による不良企業のバッシングが強くなっていること、物を言う投資家が増えてきたことが、これまでは外聞上憚られた社長の解任の背景として浮かび上がってきています。
総 括
結局は御家騒動の結果、会長も潤氏もグループから退くことに成りました。潤氏に禅譲することを目指して、多くの有能な幹部を遠ざけた結果ですが、バカなことをしてしまったものです。その有能だった幹部達によって再建を目指しているところですが、彼らの有能さが証明されるのはこれからです。
01.01.28