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前略 中内様(No.01)
創業者を讃える仕事は、  
二代目の特権です     

 創業者が偉大であることは当然です。しかしながら、偉大さを強調しすぎると二代目が実力を奮えません。何をするにしても先代と比較されるからです。
 では、若造と見られる二代目が自分の意見を主張するにはどうすれば良いでしょうか。例えば親子であれば、息子の自分だけが聞かされた(と主張する)先代の言葉を使えば、自分の意見の正当性を主張できるでしょう。
 また、毎日部下に訓辞を垂れることは大変です。何と言っても適当な話題が見つかりません。そこで、部下の知らない先代の仕事ぶりや発言を引用しつつ訓辞をすれば、部下が尊敬する訓辞を垂れることができます。

 したがって、いずれは二代目によって披露されるであろう「創業者の偉業」は、創業者ご本人が宣伝しない方が良いでしょう。あまりに宣伝されると、部下は皆創業者と二代目を比較して評価することになりますし、当然に二代目が無謀な挑戦に駆り立てられることになります。武田信玄と武田勝頼の例を引くまでもありませんが、偉大であることを宣伝され尽くした創業者を持つ二代目は大変なのです。
 例えば御社グループの21世紀ビジョンを発表するとしましょう。素晴らしいビジョンを社長が発表すれば「さすがは社長だ!」と内外の評価を受けますが、副社長の評価には何の効果が無いばかりか、むしろ頼りなさを際だてさせます。できればビジョンは社長が作られても、副社長が発表する形式を取って下さい。そして、副社長なりのコメントや解説を付けることを勧めて下さい。不測の事態に備えて打ち合わせは必要ですが、発表は副社長一人でされるのが良いと思われます。そうすれば、次期社長の立場が鮮明になりますし、外部に副社長のイメージが形作られます。
 雑誌や新聞のインタビューの仕事は副社長に回して下さい。二代目は頼りないのが当たり前だ、と日頃から社長が公言して下さい。そして、「頼りないがあいつの考えも聞いてくれ。ダイエーの今後の要は副社長だ」と説明して下さい。インタビューの席に同席されるとしても、副社長をメインに立て、記事にも副社長の名を明記するように記者に依頼して下さい。少なくとも副社長のありのままを世間に曝すことで、ダイエーの世代交代に不安がないことを提示できます。

 話が少し脱線しました。ダイエーの中内社長の偉大さは誰しも知ることです。私も何冊か書籍を購入しました。何といいましても社長は地元の英雄です。だからこそ、考え方を世間に知らしめたいと思うのは解りますが、社長は経営者である以上、ノウハウは世間に公開せず、後継者にのみ伝えるべきだと思います。軍事においても、政治においても、情報を独占する者が優位を占めます。副社長が新社長として社内の優位を確立するためにも、情報の独占は必要です。それが、創業者の偉大な功績、偉大な発言などであり、これらを訓辞その他で小出しにすることにより、自分が創業者の思想的な跡継ぎでもあることを示すことができるのです。
 最後になります。かつて豊臣秀吉の天下取りを助けた黒田如水は、息子長政に家督を継がせるにあたり、頑固ジジイぶりを発揮したと伝えています。そして長政には家臣を庇う役目を与えました。そうすることで、家臣の心は如水からやや離れ、長政への依頼心を育てられたということです。中内社長もこの故事に習い、部下の相談事は副社長に処理させ、あえて無理難題を部下に押しつけて見せてから副社長の助言で撤回するなどの擬態もよろしいかと考えています。

 とにかく、偉大な創業者の跡を継ぐ、やや非力な二代目を育てたいとお考えであれば、是非自己PRはお控えになり、副社長が内外に発言する機会を増やされるようお考えください。

 提案の第一回目となった本回。偉大な創業者であったはずの中内氏がマスコミにバッシング攻勢を掛けられて四苦八苦しています。なんといっても大きすぎる借入金の問題に批判的な論評が目立ちます。
 とはいえ、この約10日後に「週刊ダイヤモンド」と「日経ビジネス」に計3本の副社長コメントが掲載されました。しかも写真入りで情報関連に強いとのコメント付きで好意的な記事掲載でした。時期的に考えて本稿の影響があったとは考えにくいですが、先取りした点に意義を認めたいところです。

総 括
 ダイエーの御家騒動が発生し、功会長は退陣に追い込まれました。取締役に留まっていた潤氏も辞任し、DHCを含む一切のグループ事業から身を引く結果に成りました。結局のところ、功氏によるダイエー私物化というレッテルが貼られてしまいました。

01.01.28
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