近代戦争の時代となり、大量殺戮兵器の研究が盛んになっています。第二次世界大戦では、原子爆弾を開発した米国がその横綱となり、その後の米ソ対立では水素爆弾や中性子爆弾が開発されました。しかし一方で、細菌・化学ガスなどのバイオ兵器の研究も進められ、局地戦では飲料水を汚染するなどの実用化を見ました。
なかでも森村誠一氏の小説「悪魔の飽食」で悪名を高めた関東軍満州第731部隊が知られています。戦後この部隊の研究成果は米軍に引き渡され、その内実は明確でありません。いずこの国も捕虜や少数民族を対象に人体実験を繰り返したと思われますが、崇高な研究と信じて悪行を重ねた第731部隊のそれは格別であったろうと思われます。
幸いにして、第二次世界大戦後に、表立ってバイオ兵器が使われた戦争はありません。ベトナム戦争での除草剤バラマキ等もありますが、一応は国際世論の手前から使用が禁止されています。それでも動物実験を主体とした研究だけは続いており、今話題の炭疽菌もその研究成果の一つであります。本来であれば、ワクチンなど予防策とセットで進められるべきものですが、予防策が普及すると兵器としての価値が失われることから、敢えてワクチンを作らないこともあるそうです。
しかし、細菌兵器のリスクは、もっと大きなものです。細菌には耐性があり、その増殖の過程において弱点を克服したり、悪性が進化したりすることが一般的です。当初は制御可能と考えていた兵器が、思わぬ「戦果」を上げてしまい、人間により制御できなくなる可能性があります。研究の過程で漏洩したり盗難されたりというリスクもあり、かつて映画「復活の日」で示されたような現実が来ない保証はありません。
生命の神秘を玩ぶ者には、必ずや神秘に弄ばれることでしょう。今回の一連の「炭疽菌騒動」は、極めて危険な兆候だと思います。
かつて原爆投下後の長崎や広島に、多くの米国化学者が乗り込んだことを憶えておられる方もあるでしょう。化学者は、自らの作った兵器を試したくてウズウズしているのです。高い感染能力や殺傷能力を持つ細菌を開発したら、直ちに使ってみたい誘惑に駆られることでしょう。米国で盛んな炭疽菌感染事件は、果たして米国同時テロ犯によるものでしょうか。今ならば、バイオ兵器によるバイオ=テロリズムの責任を全てビンラーディンの責任にできます。
小さな事件として、以前に「縫い針事件」の問題を取り上げました。世界各国のバイオ兵器研究家や軍上層部は、おそらく手持ちバイオ兵器によるテロリズムを仕掛ける誘惑と闘っていることでしょう。その誘惑に負けた誰かが、考え無しに大規模なテロを仕掛けてしまったら・・人類は局地的な戦争にかまけている場合でなく、極めて凶悪な細菌を敵に回してしまうかも知れません。
どうか凶悪なバイオ兵器が、テロリズムの道具に活用されませんことを!
01.11.04
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