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政治の研究No.148 |
狂 牛 病 で 大 騒 ぎ |
狂牛病が日本に上陸していたという話題で、このところ大騒ぎです。牛肉を扱う業種は、国産・輸入を問わず、大きなダメージを受けています。空前のディスカウントで集客力を誇っていた牛丼業界も、一転して閑古鳥だそうです。日本の国民性がはっきり分かります。
欧州では以前から狂牛病の被害が出ていましたが、日本では対岸の火事として静観して来ました。感染ルートが明確でなく、一種の風土病と見られていたために、騒ぎようが無かったという見方もできます。しかし、それだけに事実報道が遅れた面は否めません。遺伝子組み換え作物でも同様ですが、食品の安全性に敏感な欧米で問題発覚が進んだだけで、日本だけが安全であるという保証は無かったようです。。
そもそも狂牛病とは、何なのか。その病気による被害が語られるばかりで、今ひとつ実体が掴めません。英国では数万頭・数十万頭もの牛が、大量に焼却処分されました。感染源が不明確なままに、広域に渡って被害が拡大していることも分かりました(急に感染したのではなく、昔から蔓延していたのかも知れません)。羊や山羊、ミンク、シカなどにも同種の病気があることが報道され、ようやく異種の動物間でも感染する可能性が高いことが分かりました。もっと以前から、狂牛病に感染した食肉を我々が食していた可能性も・・分かり始めています。
この狂牛病は、プリオン病と呼ばれるようです。1980年代に学術上の仮説として知られ、後に存在が実証された「感染性タンパク質粒子」がプリオンです。プリオンには正常型と異常型があり、異常型プリオンが自らのコピーを量産するそうです。やがて正常型を圧倒して、脳や神経の脊髄組織を破壊してしまうようです。上述の各動物のプリオン病では、それぞれのタンパク質は微妙に異なるものであり、異種間で感染したものかどうか研究の余地があるそうです。
英国で狂牛病の騒ぎが顕著になった原因には、人間のプリオン病とされる「クロイチェルト・ヤコブ病」の大量発症にあり、牛のプリオン病との因果関係が取りざたされるようになった訳です。プリオン病は食物連鎖の中で感染すると見られるため、牛のプリオン病が引き金である可能性が極めて高いわけですが、牛だけを警戒すれば十分という話でも無いとのことです。
牛に限定するならば、脳や脊髄にプリオンによる高度の汚染があり、臓器にも低度の汚染があるとされます。食肉部位や血液、生乳には汚染が確認されておらず、ステーキよりも加工肉の方がリスクがあるということで、世間の認識とはズレがあるようです。いわゆるエキスを抽出するような加工食品がとりわけ危険で、冷凍食品などは点検が必要でしょう。
また少量のプリオンで発症する可能性は低いそうで、多量のプリオンを継続的に摂取しない限りは、神経質に成りすぎる必要も無いとのことです。ただし、若年層ほど異常型プリオンの量産スピードが速く、体質・体形による違いもあるために、一概にどの分量なら安心という基準は定かでありません。
とはいえ、まだまだ化学者による研究が十分でないプリオンです。大きな社会問題となったことが幸いして、研究は急ピッチで進んでいるようです。プリオン病は、まだ有効な治療法が見つかっていません。異常型プリオンを減少・死滅させるか、正常型へ転換させるかが方向性のようですが、手がかりが早く見つかることを祈っています。
01.10.13
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補足1
肉骨片を媒介して狂牛病が感染するとの判断から、当初は全量廃棄を打ち出したはずの農水省。廃棄に膨大な費用が掛かること、懸念されるのは一部の牛に限定されること、農家等への打撃が大きいこと等を理由として、ブタや鶏に限定して餌として良いとの判断を示しました。学説的な裏付けはなく、これまで感染した事例が無いとの根拠での解禁は、非常にリスクがあります(ブタの脳に牛のプリオンを注入して、感染が確認された実験はあるそうです。あくまで経口感染が報告されていないだけであると思われます)。。
全国で一斉に開始した全頭検査でも、簡易検査(エライザ法)に引っかかる牛が多いことから、確認検査(ウエスタン・ブロット法)で安全と判断される事例が多いことを挙げ、不透明なままに安全宣言を出そうとする意図が見え隠れしています。そもそも簡易検査と確認検査での齟齬が多いということは、簡易検査が検査の体を為していないことの証左です。簡易検査で「陽性」であっても確認検査で「陰性」であるのは良いとしても、簡易検査で「陰性」であっても本当は「陽性」という検体を見逃している可能性が大きく、全頭検査そのものが徒労に終わりそうです。
果たして、こんな検査だけで安全宣言を出して良いのかどうか。風評被害を訴える業界の圧力は理解できるものの、中途半端な安全宣言で被害を拡大する方が社会的影響が大きくなります。より信頼性の高い検査方法を導入すると共に、一定の研究成果が現れてくるまでは、拙速な安全宣言を控えて欲しいものです。
01.11.03
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補足2
肉骨片とは、牛・ブタ・鶏を解体する際に発生する骨や内臓を高温・高圧で処理したもので、食肉処理で廃棄物を出さない理想的なシステムであるそうです。欧州では、この肉骨片による感染を確認したため、焼却処分やペットフード等に流用しています。プリオンは高温・高圧処理で分解することが可能であると言われていますので、肉骨片を製造するにしても、プリオンを分解できる処理を行うことが必須でしょう。一律に解禁してしまうことは、やはり危険であると考えます。
01.11.03
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補足3
結局のところ、年内で3頭の感染が確認されました。同一の感染ルートは見いだせず、肉骨片のルートも考えがたいとのことです。10万頭以上の検査で3頭を多いか少ないかと議論しても始まりませんが、これまでの流通牛にも感染した牛がいた可能性が高くなりました。感染経路の洗い出しと、さらなる検査態勢強化が望まれます。
こうしてみると農林水産省による安全宣言の危うさが、クローズアップされてきます。一方で、11月には狂牛病に感染するリスクを1991年に唱えた国内学者に対し、農林水産省の幹部が圧力を加えた事実も露呈しました。畜産・食肉業者への影響の配慮と見られますが、圧力を加えただけで何ら対策を講じなかった問題が、今後の論点になりそうです。
旧厚生省のエイズ問題と同根の病魔に、農林水産省も冒されているようです。我々国民に知らされていない新たな病気が潜在的に隠されている可能性もあり、こちらの方が問題かも知れません。
01.12.31
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補足4
補足3とは別の話です。
EU委員会は1990年代の前半以降、繰り返し日本も英国並みの感染リスクがあることを指摘していたことが明らかになりました。これ対して、農林水産省は「省の意見として」EU委員会に申し入れを行い、日本を指定する採択を見送るよう三度抗議したそうです。農林水産省は、単に抗議したに留まり、何ら安全性を担保する努力を行わなかったことは明かで、改めて責任問題を問われそうです。
「BSE(狂牛病)問題に関する調査検討委員会」は、こうした農林水産省の対応を重要視し、最終報告書案を纏める方向であるそうです。EU委員会は、英・伊・丁国から輸入する肉骨粉を加熱しても感染リスクが高レベルから中レベルに下がるに過ぎないことを再三指摘したものの、これを無視したことになります。農林水産省の当時の言い分は「EU委員会の評価方法などに問題がある」としたものの、明確な反論根拠は示せなかったようです。
01.12.31
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