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政治の研究No.144
道路系公団の民営化反対

 特殊法人改革の目玉として、日本道路公団の民営化が確実視されています。国土交通省も受け入れる方向のようですが、果たして、日本道路公団など道路系公団を民営化することは、妥当なのでしょうか? 道路系公団の事業の在り方に問題があるはずで、それが国営であるか民営であるかは意味が無いと考えています。

 道路事業は、一部の例外を除いて、民業には向かないはずです。膨大な初期投資を必要とし、それを回収するためには長い時間が掛かります。欧米では、PFIという手法により民業にも途を開いています。日本でも導入可能となっていますが、それを受けられるだけの民間企業が育っていないのが実情です。道路は、国家の基幹インフラの一つであり、民業には馴染まないと考えます。ただし、全てを国営で行う必要はなく、地方自治体や公益法人に委ねる選択はあることでしょう。
 一部の例外とは、通行料等を徴収する妥当な理由があり、かつ採算の見込める場合を言います。すなわち高速道路や観光道路、架橋道路などです。一部のバイパス道路も利用者に利益があれば可能でしょう。しかし、日本全体を見渡したときに、該当するのは高速道路の黒字路線ぐらいでしょう。何よりも、不効率で無駄の多い開発が行われており、とても採算に乗る状況にありません。国が補助金等を出せば、民業化できる路線もあるでしょうが・・。

 日本道路公団は、30兆円近い負債を抱えています。このまま民業化するとしても、株式会社化して売り出すことは不可能です。とても民業で採算に乗るとは思えないためです。つまり株式公開はできず、名目だけの株式会社と成ってしまい、現状よりも意味のない組織になります(株式会社の限界を露呈した関西空港と同じです)。といって、国鉄民営化のように負債の切り離しをしてしまうと、その負債の大部分は国民負担となります。まず、自助努力で経営の健全化と債務圧縮に取り組んだ上で、事業性のある路線のみを切り離して民業化するべきでしょう。
 日本道路公団は、たしかに巨大な赤字を垂れ流しています。しかし、複雑に絡んだファミリー企業は、多種多様なものが存在し、かつ多額の利益を確保しています。特殊法人として事業化できない事業を、なぜかファミリー企業では事業化しています。ファミリー企業では、事業を独占して旨味を確保し、官僚OBらを迎えて優遇しています。PAやSAでの利益も独占し、政治家へ利益還元を行うなどして、公団を食い物にしています。ファミリー企業を整理し、競争原理を導入することで、まず公団の赤字垂れ流しを正すことが先決です。

 他の道路系公団も同様ですが、事業見通しが甘く、とても採算ベースに乗るものではないです。今後も事業拡張は続く予定で、新規開発をストップしない限り、ますます採算は悪化し、赤字を垂れ流します。いくら政治的な理由が働くとしても、これ以上の無駄は許されない状況にあります。既存の赤字路線の廃止、地方自治体や民間企業への払い下げも視野に入れておく必要があります。加えて、採算見通しの甘かった原因を追及し、しかるべき処分を行うことも欠かせません。
 このまま道路系公団を民営化しても、現在のような独占事業として存立する限り、経営の効率化や債務圧縮は望めません。といって、路線をエリア単位に分割しても意味がありません。あくまで路線単位での分割を行うべきで、かつメンテナンス等に手抜きを生じさせないことも必要です。無意味に地方路線を延長するのでなく、車両通行量等のニーズを正確に把握した上で、必要最小限の路線を整備すべきです。多くは地方自治体や民間に委ねましょう。

 国鉄精算事業団の蹉跌を踏まないためには、道路の所有権は国または道路系公団に残し、その使用権を民業化団体に貸し与えるスタイル(いわゆる「上下分離」)を取るべきです。道路は用地を含めて多額の諸税を生じる可能性が高く、運営と保守を民業化するだけで十分な効果が得られるはずです。道路本体を抑えておけば、事業採算を見つつ使用料を設定して債務圧縮に当てることができます。スクラップ&ビルトも国策として制御可能でしょう。
 日本道路公団は、あくまで道路資産の管理を行うのみに特化し、ファミリー企業を民営化する等の処理をし、民間企業の積極的な参入を促し、PFI等の後押しをし、運営や保守を監視・点検することに徹するべきでしょう。特殊法人としての地位はそのままでも、事業の大部分を切り離して民業化することが可能です。自ら新規開発等を行わないことで、事業の水膨れも減り、官僚や政治家にとっての旨味も無くし、インフラ経営の一翼を担うことに期待します。

 このまま道路系公団を民営化すると、ますます国民のチェックは働かず、怠慢や不正を生じることに成るだけでしょう。事業内容を精査し、捨てるべきものは捨て、切るべきものは切り、活かせる部分に民間活力を導入するのが、あるべき姿ではないでしょうか。

01.09.02

補足1
 道路系公団は、地上系3公団を統合する方向で落ち着きましたが、民営化は20年後というような実質的棚上げに成りました。国土交通省としては最大限の譲歩であり、首相に華を持たせたつもりですが、結局は現在のファミリー企業問題や天下り問題はウヤムヤです。何よりも道路敷設事業は継続するとのことで、不採算路線が増えてインフレが生じない限りは、ますます借入金が増えて、民営化不能となります。各路線の個別民営化はすぐにでも着手し、新設路線の独立採算化を図るべきでしょう。
 架橋系公団の行方は、全く不明です。事業収入が支払利息を上回っており、今後も事業性改善の目処がありません。民事再生法適用を申請するなどして、早期に負債棒引きを行うべきです。負債を切り離せば、もう少しバランスシートも改善するでしょう。第三セクター同様に、早期に開腹手術を施す必要があります。同じ轍を踏まぬよう、新規架橋計画の即時廃止も決めるべきです。

01.09.23

補足2
 近頃は石油業界も大変です。ガソリンに関して言うならば、60%という高率が課せられるガソリン税を何とかして、石油需要を延ばしたいようです。護送船団行政が破綻してしまった以上、高いガソリン税は業界への足枷でしかありません。様々な媒体を通じて、ガソリン税の高さをPRし始めています。
 高率のガソリン税があるために、これを特別財源とした道路行政が可能です。いっそガソリン税を半減させれば、新規道路開発に歯止めが掛けられるでしょうし、自動車利用は増えるでしょう。高い有料道路でも、ガソリンが格安になれば相対的に需要喚起になるのでは無いでしょうか? 現在敷設済みの道路の需要を掘り起こすことが先決で、需要の見えない道路を新設するよりも有益です。
 とはいえ、ガソリンが割安になり自動車利用が増えれば、環境へのインパクトがより強くなります。ガソリン税は据え置きにして、それを環境対策へ振り向けるのが、本来の筋であるかも知れません。一頃騒がれた環境に優しい自動車も、この不況期には見向きもされません。低公害車に多額の補助金を供与し、低公害車の普及に弾みをつけることも必要でしょう。

01.09.23

補足3
 本コラムの結論がよく見えないとのご意見がありましたので、補足いたします。結論としては、「活かせる部分に民間活力を導入するのに留めておくべきで、現状においては民営化反対」という意味を持たせたつもりです。確かに、曖昧な書きぶりでした。

 道路関係四公団民営化推進委員会(委員長・今井新日鐵会長)は、7月31日の財務試算結果なるものを報告したそうです。各委員の見解を中心に論点を定め、民営化の可能性を模索しているとのことですが、税金による債務処理には4人反対・3人留保、現在の建設計画凍結には3人賛成・4人留保という状況であるようです(委員は7名、留保は慎重意見と今後検討を含む)。1人も税金処理賛成・計画継続を主張していないのが興味深いです。「道路を野放図に作らせない」ことで意見の一致を見ているようですので、引き続き議論を継続し、強い拘束力のある結論を出して欲しいです。

02.08.15

補足4
 道路関係四公団民営化推進委員会の最終報告が、間もなく出るようです。政府系の審議会や委員会は数多くあるものの、論客が多くパフォーマンスも目立つこの委員会は随分と注目されました。7人の委員のうち、5人の委員は積極的な改革派であり、「債務返済の優先」や「新規路線の原則凍結」などで方向付けています。しかし、今井委員長は穏健派であり、国会での受けの良い報告に纏めたい模様と報道されています。
 国会議員としては、地元まで高速道路を引いて来る「我田引道」の成否が、議員生命に関わります。国会の顔色を窺ったのでは、有益な改革とはならないでしょう。とくに改革派が次々と明るみに出す、道路系公団のファミリー企業の談合不正や役員天下りなどの問題点は、もっとクローズアップされるべきものです。
 路線の分割民営化や上下分離など論点を多く残していますが、最終報告がどこまで国会で採用されるかが、一番の難関でしょうか。道路系公団の民営化では多額の国費投入が必要となる以上は、半端に終わらせず、抜本的な改革を伴った上で実現して頂きたいです。

02.11.30

補足5
 補足4の補足です。2002年12月6日に最終報告が多数決で決着されました。決着に先立って、今井氏は両論併記案を提案したものの、委員に受け入れられず、委員長を辞任して退出するという事態になりました。新聞報道によれば、首相指示が明確でなく、首相支持といわれる様々な思惑が今井氏を混乱させたそうです。
 何はともあれ、立派な報告書ができたようです。最大の目玉は、新規建設に大きな抑制力が働くことです。そして政治家先生の個人的な思惑だけでは、建設計画が進まなくなることです。いずれ負の遺産を解消し、建設余力が出てくればいずれ実現の可能性があるかも知れませんが、どうなるでしょうか。
 また、民営化にあたり地域別での分割が実施される見込みです。不採算地域では余剰金が不足し、ますます新規建設ができなくなります。用地買収の進まないエリア、一般道で十分に賄えるエリアの建設は見送られることでしょう。さらに、不採算高速道路の閉鎖・廃止という動きも出てくるかも知れません。補修費や人件費を始めとするコストも無視できないですから。

 あとの判断は、国会の先生方のお仕事です。「我田引道」が使えなくなるのは、どの先生も同じです。仲良く使えないのなら、皆んなで止めれば良いじゃないですか。

02.12.08

補足6
 参考数字です。道路系4公団の巨大さがよく分かります。中でも、本州四国連絡橋公団の数字の異様さが際立ちます。利用者数で収入では太刀打ちできない阪神道路公団に匹敵する負債額、そして供用路線の長さです。
 日本道路公団は、負債総額27兆円、供用路線6959キロ、職員数8810人、関連会社82社。首都高速道路公団は、負債総額4.8兆円、供用路線270キロ、職員数1381人、関連会社13社。阪神高速道路公団は、負債額3.9兆円、供用路線221キロ、職員数875人、関連会社27社。本州四国連絡橋公団は、負債額3.8兆円、供用路線173キロ、職員数482人、関連会社なし。
 なお、民営化推進委員会の川本裕子委員の試算によれば、道路系4公団の資産は36.8兆円、負債は45.3兆円となり、債務超過8.5兆円という数字になります。見かけ上の債務超過が生じていない理由は、道路系4公団が道路の減価償却を実施していないためだとしています。来年9月末を目処に民間企業並みの企業会計決算が報告される予定ですが、その報告の結果が待たれます。

02.12.29

補足7
 国土交通省は、有料道路を値下げした場合に一般道から自動車を誘引可能かどうかの社会実験を行うそうです。一般論として、価格を下げることにより需要を喚起すれば収入増加に繋がると言われますが、その実効性を初めて調査することになります。民営化委員会でも通行量を平均1割値下げを提言していましたので、その裏付け調査にもなります。
 高速道路・一般有料道路・地方道路公社の有料道路を対象とし、一般道路の渋滞等の緩和効果を検証するそうで、実験手法や対象路線は今後詰めるそうです。単純な値下げのほか、時間帯等での弾力的な値下げも検証したいとのことです。

02.12.31
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