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政治の研究No.103
核武装は必要かも知れない

 新発足したばかりの小渕第二次内閣で、西村防衛庁政務次官が辞任に追い込まれました。その理由が、青年誌「プレイボーイ」で行った核武装発言でありました。我が国では非核三原則が貫かれているという背景があり、間違っても政府・与党の枢機に参画する人間が、娯楽雑誌を前に勝手な政治見解を述べて良いものではありません。軽率という意味では、閣僚辞任が当然でありましょう。
 もともと西村氏は、自由党の最右翼(与党全体でも最右翼でしょうか)にある人で、常日頃から物騒な言動が目立ちました。こういう人に防衛庁の政務次官ポストを与えた小渕首相の深慮遠謀が分かりません。出るべくして出た発言、あるいは出させるべく出させた発言なのかも知れませんね。インタビューでは選良らしからぬ発言口調をそのまま掲載した上に、西村氏による原稿チェックも無かったようで、崩れた口調がそのまま掲載され、強姦などという表現も使われるなど、本筋でないところで問題が多くありました。

 今回の結末として面白いことは、西村氏が辞任したものの、核武装に関する発言が撤回されなかったことです。ある意味で恬淡としてポストを去った変わりに、謝罪も首相以下関係者にご迷惑を掛けたと言ったばかりです。一方の首相も「責任は自分にある」などと発言しながらも、「核武装発言がイカン」と明言しませんでした。「本当は核武装したい」というのが本音なのでしょう。
 政府・自民党として核武装したいというのは、「大国としてのステータスを得たい」「威嚇用の玩具を持ちたい」というこれまでの発想から、当然の帰結です。世界で第三位と言われる軍事費(ではなく、防衛費)を投入しながら、空母もミサイルも軍事衛星も持てない日本を「恥じて」いるのでしょう。本来、こういう政治二流国の政治家に核を持たせては危ないのですが・・・そういう政治家に限って持ちたがるので困ります。
 我が国は唯一の被爆国だとされます。タヒチなど核実験で被爆した国々もあるわけですが、戦略武器としての核爆弾によって被爆したのは日本だけです。多くの人命が失われたことから考えて、日本がリードして核保有を止めさせるという主張は、必要です。機会があるごとに非核三原則の徹底が確認され、対外的にアピールもされてきました。平和大会を主導してきた立場から考えても、日本の核武装は認められ無いというのが、国民世論です。

 しかし、やはり核武装は必要かも知れません。これまでは東西冷戦の延長により核武装国は限定されていました。核不拡散条約も締結されて、条約締結国は新規に核武装できない建前に成っています。しかしこの条約は、保有国は引き続き持てるし、量産することも実験することも許されているだけに、極めて不平等です。何より保有国が中心となって作られた条約というのが、ナンセンスです。
 それでも、核武装は軍事バランスの重要な要素ですから、核拡散が防止されるのは好ましいことです。軍事政権が続くような政治三流国が核を振り回すことは、世界を破滅に追い込む可能性が高いためです。政治三流国にとって、世界を玩べる核武装は最優先課題です。北朝鮮を例示するまでもないでしょう。中国・インド・パキスタンなどが相次いで核武装をしていることが・・・危険を増幅しています。
 パキスタンでは先日クーデター政権が誕生しました。堕落した衆愚政治を質すという意味において、国民の支持は高いと聞きますが、欧米の対応は冷ややかです。中でも対インド・対中国・対アフガニスタン(旧ソ連を含む)の交渉カードとして、パキスタンに援助を続けてきた米国の驚愕は大きいところです。すでに核の実用化を終えたパキスタンが、核外交を展開する危険が高まっています。
 例えばパキスタンの軍事政権が行き詰まると、核をちらつかせて援助を引き出す口実に使う可能性があります。あるいは核を欲しがる政治三流国に、核技術を輸出する可能性もあります。ここは軍事政権に将来の民主化を約束させて、従来以上の友好関係を高める努力が必要ですね。それができないとすると、日本も本気で核武装を考えなくてはなりません。

 現在のところ、核兵器を無力化する技術はありません。宇宙衛星などを使った迎撃システムに期待されていますが、近隣国から無警告で発射される核ミサイルを防ぐことは不可能です。とするならば、報復攻撃の可能な兵器を保有して、相手を威嚇するしか方法がありません。
 その兵器は、もちろん同程度のインパクトが与えられる核兵器もしくは化学兵器ということになるでしょうか。自国が壊滅的なダメージを受けても、確実に相手に報復できるシステムでなくては、相手に核兵器による攻撃を思いとどまらせることはできません。とくに政治三流国が相手では、高度な政治交渉の成果は期待できません(といって、日本政府に高度な政治交渉ができるのか疑問ですが)。
 核武装が可能となれば、極端な話として、日本に固有の軍隊は不要です。海を越えて侵略してくる相手国に、核ミサイルを一発撃ち込むと宣言すれば、国防は足りるためです。現在の自衛隊は兵力を大幅に削減して、周辺国の動向監視と災害救助とPKO程度の任務だけ分担すれば良くなりますから。当然ながら、誤発射や誤不発射は許されません。ハードウェアの不備は当然のこと、ソフトウェアの不備も許されません。セキュリティ管理を含めた厳しい緊張感を求められることになります。

 市中に拳銃で武装したゴロツキが大勢いたと仮定をします。正義感あふれる人物が、自分だけ拳銃保持を放棄しました。かつ争いを好まないために、彼は武術や護身術も身につけていません。人物としては立派ですが、彼がつまらない諍いで負傷させられる可能性は極めて高いでしょう。それでも彼にとっては高邁な理想に殉ずるのですから、個人レベルでは諦めも付くでしょう。
 これを国家レベルで考えた場合、話は難しくなります。国家には国民を守る義務があります。高邁な理想や感傷だけでは、国民は救えません。周囲に核武装したゴロツキが増えるなら、それ相応の対策が必要です。一般武装では歯が立たず、威嚇効果もないとするならば、無用な軍事費は使うことなく、核武装を選択しても良いのではないかと思います。必要なことは一部の狂人によって、日本の核兵器が行使されないセキュリティを作ると共に、自ら積極的に行使しないことを明確にすることも必要です。

 西村氏の発言は、とりあえず辞任でケリが着きました。しかし、単に核武装問題をタブーにするだけでは、問題の先送りです。問題となった経緯は別として、日本の核武装の是非を議論するべきでしょう。
 最後に平和活動に従事される方々へ一言。日本が核武装をしたとしても、世界の国々が核武装を放棄するように、運動は続けて下さい。必要なことは、世界全体として、核武装を放棄するようにしていくことです。自国だけが武装しなければ良いというものではありません。どうすれば他国の核武装を放棄させられるか、考えていきましょう。でも、交渉のテーブルに着くためには、自らが核武装する必要もあるのですよ。非武装国と対等に核武装を論議する武装国は、ありません。

99.11.18

補足1
 核兵器を無力化する技術は開発できないものでしょうか。核兵器によって、直接的に建物や人命が失われるのは、おそらく避けられないのでしょう。しかし核兵器には被爆による間接障害や後遺症障害がありますね。被爆の影響を中和できるような技術はあっても良いと思うのですが。その昔、小松左京氏の作品に「復活の日」という小説がありましたが、現在でも色褪せていないプロットですね。こんな日が来なければ良いと信じたいですが、いつ起きてもおかしくないだけの不安定さが、今でも続いています。小説の中では、被爆の影響を中和だか軽減だかできる医薬品が開発されましたが、これは実現しそうにないのでしょうか。

99.11.18

補足2
′�15日。国民の期待を集めた多目的衛星の打ち上げに失敗しました。信頼性が高いと宣伝されてきたH2ロケットの故障による失敗だけに、日本のロケット技術の後進性が白日に曝されました。これまで商用衛星の打ち上げは順調でありましたが、実験レベルではよく失敗もしているようです。こと軍事技術に触れる部分は米国による独占がありますが、核武装を前提とするのなら、ロケット技術だけは完璧である必要があります。
 核武装は要するに交渉に必要なブラフ(はったり・威嚇)です。「核武装がイカン」と思うなら、信管を抜いておくか、弾頭を常時外しておけば良いのです。ただし、ブラフに使う以上は、いつでも発射できるし、いつでも行使できることを対外的に示す必要があります。そのためには、ロケットの打ち上げに、確率50%で失敗するなんて技術力では困ります。
 かつての東西冷戦時代に、米国の核威嚇に対抗するため、開発の目処がついただけのソ連が、核保有を宣言したことがありました。現実の核保有はその1年以上後だったそうですが、ブラフの効果は十分にありました。今では核実験に成功しないと、核保有を証明できないようですが、北朝鮮のように保有疑惑を抱かせるだけでもブラフには成りますね。

99.11.19

補足3
 政府見解では、(1)自衛のための必要最小限度の核兵器は本理論上は保有できるが非核三原則により保有しない、(2)大陸間弾道ミサイル(ICBM)は専守防衛の範囲を超えるため法理論上も持てない、とされています。
 しかし有事関連法案の成立が微妙な中で、福田官房長官が「ICBMや原子爆弾の保有は憲法上問題ない」「国際情勢や国民が持つべきだといえば、非核三原則も変わるかも知れない」などと発言したそうです。核保有議論に一石を投じる形には成りましたが、拙速で軽率な発言であったと思います。政府・自民党の要職にある者としての発言は、依然として法整備によらず核武装化を考えている証左でもあり、真剣な取り組みに欠けている実体の現れでもあります。

02.06.15

補足4
 自衛隊が空母の購入を検討しています。空母の戦略的価値は、移動できる水上要塞であることです。核兵器を搭載しなければ「無用の長物」ですので、本当に購入し保有することになれば、核ミサイルの配備の要否が検討されるでしょう。公式に配備しないことを公約すると抑止力たり得ませんが、国民感情に配慮して配備しないという半端な整理もありそうです。
 日本の自衛隊の装備は、高水準にあると言われます。しかし、武器弾薬の備蓄は十分でなく、単独で軍事行動を継続することは極めて困難と言われます。防衛費を日本のために費やすべきで、米国のために費やすべきではありません。米国にとっての「物わかりのよいお客様」は、そろそろ卒業するべきだと考えます。

03.10.03
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