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政治の研究No.97
自民総裁選が面白い

 自民党の総裁選が近づいています。今期国会で大量の懸案法案を通過させた小渕総裁は、その勢いを持続させて総裁選再出馬の意向です。党内でも小渕総裁の実績を認めざるを得ず無風選挙になるかと思われましたが、急遽加藤派の加藤紘一前幹事長、山崎拓前政調会長が総裁選への立候補を表明しました。政策上の大きな相違点が無い中、どのような選挙戦となるのか注目されます。
 たしか派閥は消滅したはずの自民党・・・これまで政策研究会などの名目で集結していたと思ったら、またまた派閥復活と成りました。しかし自民党のためには、派閥があって派閥の領袖が居る方が健全であるようですね。そうして見回しますと、小渕派は94名、加藤派は71名、山崎派は31名です。森派の62名と江藤・亀井派の60名ほかが小渕支持で、山崎氏の票読みでは小渕270票、加藤70票、山崎30票とのこと。これに党員の票が加わっても小渕氏再選は間違いないという話です。

 加藤派・山崎派は、現在のところやや非主流です。今回の立候補表明により小渕氏再選後の閣僚ポストなどに悪影響が出そうだ、との意見があるようです。政策論で争えば一層亀裂を深めるため、党運営のあり方で現執行部を批判する方向へシフトしているようです。負け戦とはいえ、党員票をある程度取り込むことで、存在感をアピールしたいというところなのでしょう。
 ほんの一時期前、旧竹下派の7奉行に対抗する形で、MYKKというニューリーダーに注目されました。Kの小泉氏は前回の総裁選を小渕氏と争って敗れて後退し、Mの森氏はポスト小渕路線を追っているようです。先の総裁選後MもYもKも一派閥の長になり、一端の領袖になりました。
 これまでのようにニューリーダーと担がれる世代ではなくなったのですね。領袖には派閥を拡張するという責務があり、そのためには派閥の存在感を高め有能な新人を登用する責務を負います。YとKは対決姿勢で訴えることにしたのですね。

 とくに加藤氏は党内第2派閥の人数を背景に、目先最大の課題である自自公連合を争点に据えてきました。支持基盤である宗教団体の反対はもとより、公明党を快く思わない保守層の抵抗が激しく、思いの外、多くの党員票を集めそうだと言われています。
 一方の小渕氏は、自ら推進した自自公ですから、加藤氏の批判を正面から受けるしかありません。総裁選に勝利を収めても、党員票の行方次第では舵取りに制約を受けそうです。山崎氏も自民党の政策が一層分かりにくくなるとして、自自公には反対する意向を示しています。残念ながら加藤=山崎連合には結びつかないようですが。
 小渕氏支持と言われる各派にも反自由・反公明の議員は相当数あり、加藤氏に票を投じることもありそうです。自らの所属派閥の方針を優先するか、自らの支持基盤の意向を優先するか、衆院選も近づくだけに窮屈な議員も多いのではないでしょうか。小渕氏の側近は加藤派の攻撃に余念がありませんが、吼えるしか手はないのでしょうね。

 しかし、ある意味で自民党はしたたかです。今回の総裁選が無風選挙となると自自公反対の基礎票が自由党や民主党へ流出しかねません。それほど自民党の台所事情は悪化しています。法案成立を至上命題とし、さしたる議論もなく数の理論を優先させた執行部への批判は強烈です。
 ところが加藤派や山崎派が反小渕として闘うなら、外部へ流出しそうな基礎票の受け皿に成ることが可能です。自自公反対の声が高い選挙区には両派から候補を立てることで、流出を最小限に留めようと言う密約か暗黙の了解があるのでしょう。いわば計画的「反抗」です。ぜひ日本史の研究第12回藤原氏の陰謀」をお読みいただきたいのですが、自民党は貴族・藤原氏と同様にヤマタノオロチ的な性格を持っているようです。一方が優位に立ち、他方が劣勢となっても、全体としての勢力には纏まりがあり、かつ他を寄せ付けない強力な組織を作り上げる結果に終わるのでしょう。

 本来で有れば、自民党の支持基盤の動揺に付け込むべき民主党は・・・サッパリです。菅直人代表は、進歩的な松沢氏を振り切って再選したチャンスを全く無為に費やしました。にも関わらず、さらに続投を目指しているようです。民主党凋落の責任を認めないばかりか、一層悪化させようとしているのです。その権力への執着は何でしょうか。
 かねてから期待された鳩山由紀夫氏は、ようやく出馬の意向を固めたそうです。菅氏との友情を前面に押し出して対決を避けてきましたが、さすがに民主党の空中分解の危機を迎えて決意したのですね。旧社会党のプリンス・横路孝弘氏も出馬だそうですが、こちらは支持票が不足のようですね。自民党と同様に三者対決であり、その展開は見物になりそうです。
 とはいえ、民主党は誰が勝っても分裂の危機にあり、次期総選挙での支持低下も確実なところです。できることなら政策論争を仕掛けて、徹底的に党の未来を描きあって欲しいと思います。新代表は素戔嗚尊としてヤマタノオロチを退治できるか、それとも丸飲みされて消化されるか、有権者の注目度にも目を配って、頑張って欲しいと思います。

 ところで加藤さん。もしも総裁選に敗れたら、思い切って新党設立に動いてみませんか? 本当に自自公提携をチャラにしたいとお考えならば、自由党と政策を摺り合わせて与党から飛び出る選択肢もあります。自自公は容認でも自公は反対という声も高い折です。上手くいけば主流派の若手も巻き込んで新しい勢力を作れるかも知れませんよ。
 そういえば小沢氏も7奉行の一人。求心力も低下しつつあり、引退の時機かも知れません。そうすればポスト小沢路線で、新保守の旗頭も夢ではないと思います。民主党の一部も加わるかも知れませんしね。そして山崎さん。今では加藤氏との実力差も歴然でしょう。ポスト加藤としてサポートに回られてはいかがでしょう。仮に加藤氏が分派行動を起こしたら、同調してもしなくても冷や飯食いです。いっそ保守再編の片棒を担いでみてはいかがでしょう。

 もうすぐ結論が出てしまいますが、もう少し政治らしい駆け引きを見せて欲しいな、と思っています。国会も政党も政策論争無しの「数の論理」では、詰まらないではありませんか。

99.08.30

補足1
 自民党の総裁選挙は即日開票の結果、小渕現総裁の再選が決まりました。国会議員票は、小渕氏253票・加藤氏85票・山崎氏33票であり、党員・党友票は小渕氏が97票・加藤氏28票・山崎氏18票で、合計して小渕氏350票・加藤氏113票・山崎氏51票という結果になりました。
 議員票では加藤氏が15票も積み上げ、目標の100票を大きく上回ったことが発言力を高めそうです。山崎氏も目標50票をクリアしたことから領袖の面目を保ちました。党員・党友票では現職の強みを活かした小渕氏ですが、投票率が50%を下回ったことや得票率が予想よりも減ったことが課題に成りそうです。
 ひとまず自自公路線は信認されたと観られなくもないのですが・・・。

99.09.21
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