政治の研究No.76
シビリアン・コントロール
霞ヶ関界隈では、連日に
新ガイドライン関連法案
反対のデモ隊が押し掛けています。主に非連合系労働組合のようですが、平和運動を展開しているNGOの方々も参加しているようです。法案可決の見込みとなったことからボルテージは日に日に高まっています。今回の熱気は消費税導入反対の運動以来でしょうか。一方で右翼の街宣車がデモや集会に圧力を加える動きを見せ始めており、イヤ〜な雰囲気が漂い始めています。何となく昭和初期の時代と映像がダブり始めている気がしています(見てきたわけでは、ありませんが)。そういえば盗聴法案も今国会で可決されそうですね。
自衛隊は国軍ではない
・・・それが長い間使われてきた言い訳です。しかし日本がなし崩しに戦争を始めてしまうと、自衛隊は間違いなく国軍として扱わざるを得ません。必要とあれば、自衛隊を発展的に解散して国軍を編成する必要が出てくるかも知れません。周辺事態とやらが発生して米軍が介入した場合、日本は後方支援に動くことに成ります。国際法上、明かな戦争行為であり、敵国として攻撃を受けることは間違いない後方支援をなぜ行おうというのでしょうか。理解に苦しみます。
日本政府は太平洋戦争で軍部の暴走を止めることが出来ませんでした。その最大の理由は、天皇陛下を国軍の長に戴き、その直属と称する参謀本部の存在が文民(シビリアン)による軍隊への介入を阻止したためです。その反省を以て、現在の自衛隊には強力な
シビリアン・コントロール
(文民統制)が敷かれている建前になっています。しかし有事が発生した場合にも、軍隊を正しくコントロールできるかは疑問が残ります。
シビリアン・コントロールは「
政府文民の指揮下に職業軍人である軍隊の最高指揮官を置く
」(大辞林)ことが大原則です。これにより軍隊が政治へ介入することを防止する目的がありますが、現在のように政治家自身が戦争を欲してしまうと、軍隊が暴走してしまう可能性は高いと考えるべきです。今回の新ガイドライン関連法案のように、定義が不十分で解釈の余地が大きい法律で枠組みを決めた場合、
現場の判断
が大きなウェートを占めたり、
事後承認
が次々に罷り通る可能性があります。
コントロールにおいては、軍隊を指揮下に置く文民にどれだけの権限が与えられて、有事にどれだけの対処能力を維持できるかが問われます。阪神大震災の際、本来の職務であった災害救助の出動命令が出せなかった文民、領海内に不審船が侵入したとき追い回す以上の指示が出せなかった文民、戦略と戦術の違いや、国防と防衛の違いを知らない文民が、有事の際に軍隊を統制できるのか疑問があります。
戦機を読み誤って泥沼の戦争に引き込まれる不安がありますし、外交と連携が取れずに敵対国を増やすような失策も犯しそうです。そういえば、自国の領土を他国の浮沈空母に喩えた宰相が、ありましたね。もしも文民の判断によって戦局が最悪の事態を招いた場合、軍隊が再び政治に介入しない保証はありません。政治家たちはコントロールして居るつもりでも、軍隊の反乱が現実化すれば、一夜にして政権転覆もあり得ます。
日本の場合、千代田区を制圧すると日本の
3割
、23区を制圧すると
5割
、関東を制圧すると
7割
が機能麻痺に陥ると言われています。東京に一極集中しながら、それを守り抜く基盤は脆弱です。その状況において、軍隊が反乱した場合の対処方法考えるのが先決でしょう。残念ながら今の自衛隊は、エリートの上層部を除いて単純な人間が多いです。彼らには上官を除いて怖い存在がありません。上官の命令に忠実に反乱に荷担する可能性が高いでしょう。この場合、入隊時の思想チェックなども意味を成しません。
政府の期待は駐留米軍に向けられるでしょうが、軍隊が反乱するとすれば、米軍もかなり危機的状況に追い込まれていると見るべきです。時と場合によっては、米国が軍事政権を支持する可能性すらあります。それを事前に回避するには、自衛隊を国軍に昇格させて指揮系統を明確に整備すること、反乱を封じるため充分な枠組みを定めること、軍隊を御しえる文民を育成すること、駐留米軍は退去させて工作の余地を排除すること、が必須です。
これらの条件を満たせない限りは、
いつ戦端を開いてもおかしくない新ガイドライン関連法案の制定を見送りましょう
。
99.05.23
補足1
5月24日、新ガイドライン関連法案のうち、2法案1協定が成立しました。今回の法案可決には共産、社民を除く全政党が賛意を示した模様です。本当に政治家さんは戦争が好きですね。自分たちは国会議員である限り出征しないで良い、という楽観でもあるのでしょうか。
99.05.24
補足2
#Nの省庁再編に際して、防衛省設置の構想が潰えたことを、自民党のお偉方は惜しんでいるそうです。武官をコントロールできる文官を育成できない現状で、なぜ省への格上げにばかり拘るのでしょうか。衆議院内では「衆院防衛省設置推進議員連盟」というものが、発足しているそうです。防衛庁長官の経験者達を中心にロビー活動を繰り広げるようですが、「参院防衛省設置推進議員連盟」(既設)との連携を図っていくそうです。
省格上げの前に、明確なシビリアン・コントロールの方向性と、それを制御しうる文官の確保をお願いしたいです。
01.02.17