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政治の研究No.75
縫い針混入事件に思う

 定まった呼称は無いみたいですが、ここ数か月、食品に縫い針を混入した悪質な悪戯が横行しています。縫い針が比較的大きいものであることもあって、死亡事件は発生していない様子ですが、事件が全国規模で拡がっていることに悩みます。
 近頃とくに模倣犯罪が増えているように思います。古くは連続放火事件、集団リンチ事件、連続無言電話事件、あるいは毒物混入事件・・・何かメディアで取り上げられると、よく似た手口での犯行が目立ちます。中でも毒物混入事件や今回の縫い針混入事件が全国規模化していることに、マスメディアの関与が認められます。

 有名なグリコ・森永事件以降、毒物混入をネタに多額の金品を巻き上げようとする脅迫事件が相次ぎました。しかし本当に毒物を使用した事件は、限られています。毒物カレー事件以降の一連の毒物混入事件でも、比較的殺傷能力の低い毒物が使われています。
 理由は明白ですね、殺傷能力の高い毒物を一般民間人が手に入れることが困難であるためです。それに対して、縫い針はどこの家庭にもあるもので流通量が多く、購入した犯人を特定することはほとんど不可能です。安直な縫い針混入事件が絶えないのは、つまり簡単でありながら足が着きにくい犯罪行為であるためです。
 この縫い針混入事件でも何人かの逮捕者は出ています。その多くは犯罪動機の線から洗い出されたり、犯罪行為前後の不審な行動を目撃されたりしたためです。計画的に、しかも何の怨恨もなく、不特定多数を対象として行われた事件の場合、犯人の割り出しは不可能です。

 何の怨恨もなく、主義主張もない行動をなぜ採るのでしょうか? 自分の犯罪行為が町中で話題になる、あるいは新聞で掲載される、TVで大々的に取り上げられる、そんな期待を持つためでしょうか。真っ当なことでは注目を浴びられない人間、実名は出したくないけど大きなことをしてみたい人間、いわゆる愉快犯といわれる輩です。残念ながらネット上にも同様の輩は結構いるようです。
 愚かにも全国紙は、こうした一連の模倣事件を大きなコマを割いて紹介しています。どう考えても同一犯とは思えず、あまりにも安直で主義も主張も背景もありません。事件として採るに足らない犯罪行為でありながら、流行というキーワードで次々に事例を紹介するマスメディア。結果として安直な行為が全国的に事件として注目され、愉快犯の虚栄心を満たしてしまう結果になっています。彼らは再び新しい模倣犯罪を繰り返すことでしょう。

 メディアは、一体何を考えて記事を掲載しているのでしょうか。一連の事件の背景を解きほぐし、流行としての模倣犯罪の深層を明らかにする意図は感じられません。ただただ警察発表を垂れ流すばかりで、しかも大きなスペースを愚にも付かない内容で埋めています。本来そのスペースを埋めるべき有用な情報は掲載されないのですから、メディア本来の責任を放棄していることにならないでしょうか。毒物カレー事件報道や脳死臓器移植報道で何をしてしまったかを反省してみて欲しいと思います。

99.05.23
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