前頁へ  ホームへ  次頁へ
政治の研究No.49
近頃の徴税事情

 政治家さんが減税や景気対策に税金の大盤振る舞いをしている一方で、税金を集める側の税務署の徴税事情は大変であるようです。とくに税収の大半を法人に依存する大都市において熾烈を極めていると言います。しかも大企業ではなく、中小企業を狙い打ちしているそうです。また地方でも企業倒産や大手企業の事業縮小・事業撤退の影響で税収が確保できず、零細企業や個人をターゲットに激しい追徴攻勢を加えているのだそうです。

 税務署独特の用語に増差というのがあります。これは「納税者が自主申告した税額よりも、税務署員の調査により増やすことができた税収」のことです。意図的な帳簿操作による脱税が占める割合は依然として多いのですが、経費認定の誤り修正、不明瞭な会計処理の更生、などで発生することがあります。税務署は、税収の減少を食い止めるために、積極的に増差の積み上げを指示しているといいますが、それがノルマ制になっているため、強引な更生手続、修正強要などが問題化しているそうです。
 故伊丹十三監督の「マルサの女1・2」で有名になった査察部(通称・マルサ)は、悪質かつ巨額の脱税をしている企業を狙い打ちしますが、その査察官は1,000人以下と極めて少数です。このため一般企業を相手にするのは全国に5万3,000人いる一般の税務署員の仕事になります。ところが人数はいるものの、知識・技能面では査察官に大きく劣り、その権限も限定されることから大企業に手を出すのは希です。大企業の脱税は発見できれば巨額ですが、それを暴くために必要なマンパワーを考えると難しいようです。また大企業は専属の公認会計士や弁護士を多数抱えており、税務署員の裁量によって増差を得ることは難しいようです。この結果、中小企業が狙われるのです。

 税務署員の裁量権限はかなり大きいようです。詳細な徴税マニュアルがあるわけではないので、弱い相手には大きな権限を発揮します。例えば、事業者本人が脱税意識なしに処理していた帳簿操作が、意図的な脱税行為である認定し、多額の重加算税が課すかどうかは裁量の範囲です。誤りに気付いて申告額を修正する場合に比べて税納付額は3倍にもなるといいますが、税務署員の心証次第なのです。このため、ノルマの重い署員は重加算税を乱発する傾向があり、また申告修正に応じない相手には重加算税をちらつかせて修正を迫ることもあるそうです。一番多いのは青色申告に関連するグレーゾーンの認定です。
 明確なマニュアルのない部分は恣意的に決められるため、税務署員の見解が前任者と新任者とで違うという問題もあります。中小企業の場合は公認会計士を専属で雇う余裕がありませんから、これまでの経験則に従って申告をしている場合が多く、前任者が了承していた事項を新任者が翻すと大変なことになります。また遡及調査についても、これまでは2〜3年が一般的であったものが5年あるいはそれ以上へと拡大されているそうです。景気の良かったころはボロが出やすいと言う判断のようですが、結果として追徴額が膨らんで現在の経営を圧迫する危険さえあります。
 そのほか予告無し税務調査が増加しており、過去まじめに申告をしている事業主のところへ押し掛けて、帳簿や机の引出を総点検するという荒技も発揮していると聞きます(こうなればマルサも同然です)。また消費税のごまかしを防止するとの名目で強引な調査が行われることがあり、営業妨害まがいの行為をする署員もいるそうです。ごまかしは発見されなくて当たり前という建前のため、零細業者では泣き寝入りするしかありません。

 いろいろ風聞を中心に書きましたが、税務署が奮闘しているのは事実です。個人に関しても株式配当金や利息収入、副業収入に監視の目を光らせ、所得税のほか地方税の不足を補う方向にあります。ポン太も株式配当金の認定に絡んで1万3,000円の追徴を受けました。昨年度は12万円の寄付をしたので、税務署に寄付金控除を申告すれば、所得税と地方税の還付を受けられるのですが、わざわざ平日に休暇を取得して修正申告するのは面倒なので、追徴税を振り込みました。しかし、どうも納得ができません。寄付を受けた法人は税務署に必ず寄付の事実を伝えるシステムにでもしてくれると楽ですが。ちなみに95・96年度も遡及して追徴を受ける可能性がありますが、95年度の寄付金の証明書は手元に残っていません。その場合は、何か対抗策を考えなくては・・・。
 日本の法人のうち赤字法人が占める割合は年々増加しています。赤字法人が本当に赤字であるのかは精査されなくてはいけないと思うのですが、税務署員の人数と手間を考えると、真面目に申告している法人や、うっかり者・ものぐさ者の個人をターゲットにした方が効率的に徴税できると考えているようです。まず赤字法人からも事業規模に応じた法人税を取り、個人商店・兼業農家など個人所得と法人所得の区別がはっきりしない相手から確実に所得税を取ることを優先(もちろん政治家さんが法律改正に乗り出さなくてはいけません)して欲しいと思うのですが、わがままでしょうか。

98.11.21

補足1
 伊丹先生の「マルサの女」シリーズは良くできた作品でした。宮川信子の査察官としての活躍を記録したように見えながら、随所に税務署員の強引な調査手法が紹介されています。脱税はキツネとタヌキの化かし合いであるかも知れませんが、同じ調査手法を善良な相手にも適用すると大変なことになります。国税庁は詳細な徴税マニュアルを作成し、その内容を税務署員に徹底させると同時に、マニュアルの自由な閲覧をさせるべきではないか、と思います。徴税には大きな裁量は不要であると考えます。

98.11.21
前頁へ  ホームへ  次頁へ