政治の研究No.48
消費税減税を政争に使うな!
いよいよ選挙が近づいてくると
消費税減税
の声が政界にわき出しています。そもそも税制は国の根幹であり、あらゆる行政サービスは税収によって賄われなくてはいけません。そのため税制を改めるに際しては、あらゆる点をあらゆる面から検証する必要があり、充分な議論が成されなくてはいけないのです。一度議論を尽くして定めた税制であれば、容易にその変更を行っては成らないのです。まして党利党略で税制を変更するなど許されないことです。今の景気低迷を脱出するために減税が大きく打ち出されようとしています。すでに最高税率を大幅に引き下げる
恒久減税
として、所得税減税と法人税減税が具体化しています。一度引き下げた直接税は容易に引き上げられないのですが・・・気前よく10数%オーダーでの引き下げを行うようです。現在の国庫が潤っているのなら良いのですが、何故に今に富裕層に対する減税を行うのか理解に苦しむところです。不公正是正は財政再建の目処ができてからするべきことです。
それはさておき、昨年4月に引き上げたばかりの消費税を、再び下げようと言う議論があります。主張しているのは自由党ですが、これがよく分かりません。主張を列挙すると、
0%にはするが廃止ではないということ
、
一旦下げるには下げるには最終的には段階的に引き上げて6%まで回復させること
、
食料品他には軽減税率を適用すること
、などを主張しています。減税と主張するにも関わらず、最終的には増税であるということは国民の目を眩ますことしか考えていないのです。しかも消費税の段階的な引き上げで、どれだけ現場での問題が生じるのか分かっていない議論です。そして軽減税率ですが、何が対象で何が対象でないのか明確でありません。今時のスーパーマーケットでは食料品と雑貨は混在していますから、それぞれに異なる税率を適用するには精度の高いPOSレジを入れるしか方法がありません。弱小商店には過大な負担でありますが、内税にすると便乗値上げの問題が絡んで大変になります。消費税を下げるなら一律は維持し、高額商品にだけ物品税を復活させれば良いでしょう。自由党の主張は意味不明です。
ところが、またも自民党の登場です。商品券構想でゴマをすった公明党に袖にされ、ついに自自連合だと言い出しています。自民党と自由党が提携するには超えるべきハードルは少ないでしょう。もともと母体は同じですし、支持基盤も大きな違いはないのです。しかし自由党が「吸収」のイメージを払拭するために上述の消費税減税を主張しています。これを自民党執行部が呑もうとしていることから、この愚策も実現する可能性が高くなってきました。今さら消費税を減税して景気対策に有効なのかどうか、増税を前提とした減税に現場の混乱はないのか、国民の理解はどうなのか、全く議論されていません。
まず
景気対策への有効性
です。1997年4月の消費税5%増税は、消費不況の引き金になりました。しかし、元の3%に引き下げられたとしても、消費拡大に成らないでしょう。先の増税は2%に過ぎませんが、国民の増税感覚は随分と違っています。消費税3%を徴収していなかった小売店が、一斉に5%を徴収するようになりました。あるいは企業努力で消費税相当分を値上げしなかった飲食店などが一気に値上げに踏み切りました。見なし課税などに店舗の負担が増え、また消費税問題へのあきらめ感が拡がりました。国民には実質的に5%近い増税感が生じたといって良いでしょう。また年金負担額の増加、特別減税の打ち切りなど大幅な増税感が重なりました。その結果、消費者は賢くなったのです。
重い負担を回避するために消費の無駄を削りました。高級品を買い控え、同じ商品を買うなら郊外の安売り店へ足を運び、値段が同じなら量と品質の良い物を必要なだけ買い求め、衝動買いはしない。外食は回数を減らして質の高い費用の安い店を選択し、旅行も割高な国内を避けて海外へ出る・・・そんなシビアな消費者が増えたのです。住宅にしても地価が下がるのなら無理にローンを組んでまで買わないし、車もステータスより使い勝手で選び・・・と消費税をきっかけとして賢い消費を心がけるようになったのです。減税を施しても消費拡大に結びつかない、ということも一つの証左になると思います。こうなると消費税減税をしたとしても景気回復の役には立たないでしょう。来る増税に備えて貯蓄や借金返済に回るでしょう。
次に
現場の混乱
です。3%から5%に値上げされたときに現場の混乱は大きなものでした。もちろん消費税導入時に比べれば小さかったと思いますが、中小商店でのコスト負担増やトラブル多発は顕著でした。レジスター会社とソフトウェア会社は儲けたのでしょうが、他の業種は大きな打撃を受けました。恒久減税で有れば、今度の混乱も許容されるでしょうが、それでも負担増に絶えかねる店舗は少なくないでしょう。しかも近いウチに再増税、そして段階的増税であれば、コスト負担をさせられる商店から悲鳴が聞こえてくるでしょう。そのコストは消費者に跳ね返りますから消費者の理解も得られません。何のために複雑な税率改定を行うのか説明が必要でしょう。
最後に
国民の理解
です。消費税廃止を訴えて得票を集めながらも実力がない野党議員や、選挙の時だけ消費税反対を叫びながら党の拘束で賛成に票を投じる与党議員に愛想を尽かせたのです。議員が選挙のために消費税廃止を主張するものの成果を上げていないことに有権者は少しずつ気付いています。それを主張し続けている政党も政権担当能力のない政党であることを有権者はシビアに見ています。すでに公明党と民主党は消費税廃止を主張しなくなりました。両党は消費税の本来使われるはずだった社会福祉事業に使われるように働きかけるように論点を変えてきました。
政府・自民党は社会福祉事業、とくに高齢者福祉に使うと公言していながら、現在金額ベースで10%未満しか使われていません。一方で年金制度の改悪、医療費自己負担の拡充などを図ってきました。消費税が本来の目的に使われるのなら国民も不承不承ながら支払うことでしょう。今数字だけを操作しても、社会福祉に使われないので有れば価値がありません(自由党のホームページでは「消費税は社会福祉に限定」と謳ってはいます)。国民の理解を得たいのなら税額よりも用途です。老後が安心となれば多少は消費に回る金も増えるでしょう。
いずれ消費税の問題は真剣に考えないとダメだな、と思います。しかし、現在のように多数派工作のために消費税減税を使うのは止めて欲しいところです。参議院で自民党が多数派を形成すれば、自由党との連立を解消して約束を反故にする可能性が高く、その場合の現場サイドの混乱は一層大きくなることでしょう。そもそも消費税を減税してどの財源を充てようとするのか議論がありません。所得税や法人税の減税を先行実施するからには代替財源は間接税に頼ることになります。すでにタバコ税は旧国鉄債務の財源のために増税されましたし、酒税やガソリン税へのしわ寄せも限界に来ています。物品税復活でもしない限り消費税減税は無理ではないかと考えます。
赤字国債による減税は国民が望んでいません。現在でも元利払いに国家予算の30%が投入されていますから、もう負担先送りも無理でしょう。今が良ければそれで良い、という安直な発想での減税は要りません。まして党利党略のためだけの減税ならお断りです。なぜ財政改革法も無期限凍結なのか・・・冷静に考えて欲しいと思います。
この景気低迷、不景気の最大の原因は、その場任せで現実対処能力のない
貴方たち、政治家の不甲斐なさにあります。。。
聞こえていますか? 小渕さん、小沢さん。
98.11.14
補足1
自自連合は自民党の大賛成で進んでいるのでは無いようです。とくに自民党のニューリーダーの抵抗は根強く、消費税減税での妥協など論外だ、とする意見も多いようです。自民党と自由党は同根ではありますが、喧嘩別れをした上に対決も繰り返した相手です。簡単に纏まるとも考えられません。協力できる法案では協力をし、必ずしも全面提携する必要はないように思います。子どもっぽい行動を取る野党もありますが、一応は大人と大人です。国民のためになる政策で有れば誰も反対せずに成立させられるはずです。何か胡散臭いことをしたいがために多数派工作をしているのであれば、有権者として座視していられません。
98.11.14
補足2
小渕首相は16日、首相官邸での記者会見で「消費税減税は、税、財政のあり方を考えれば、引き下げは困難。この点を国民にぜひ理解をいただきたい」と述べ、税率引き下げには応じない意向を明確にしたそうです(エラい!)。続いて民主党の菅直人代表も、小渕自民党総裁との党首会談で、自由党の消費税減税案に同調しないよう提言し、同意を得た、とコメントしました。あとは小沢自由党党首の決断次第ですね。しかし自由党のHPも、小沢さんのHPも、メールアドレス非公開で、掲示板さえもありません。これで開かれた政党なのでしょうか・・・。
98.11.16