政治の研究No.45
地震予知はできない
地震が起きるとマスメディアにしゃしゃり出てくる自称地震研究家がいます。尤もらしい模型を使い、分別のありそうな表情で解説する地震のメカニズムとやらは、いつまで経っても学説の域を出ないものらしいです。相手が巨大なエネルギーであることと、地中深くの調査が難しいことを割り引いても、その胡散臭さには腹が立ちます。TVのチャンネルを回したり、新聞や雑誌の地震特集を比較されれば「学者の解釈」がこんなに違うのだとよく分かります。彼らはお互いの学説を明確に証明できないことを良いことに好き放題を語っています。
地震工学と言いますか、地震科学と言いますか、このジャンルはもぐりの学者が多いようです。大学の研究者でも地道なデータ収集や解析に取り組んでいるグループも多いようですが、全く根拠のない新学説をブチ上げてはマスメディアにチヤホヤされるバカ学者が多くいます。そういう学者ほど言っているのが「
地震は予知できる
」ということです。メカニズムの分析さえもせず、怪しげな論を振りかざす彼らに予知の可能性など分かるはずがないと思うのですが。
昔は地震とナマズの相関性が信じられていました。最近では不気味な音や、地震雲、発光現象、電磁波、わき水、井戸の水位、ネコや水鳥の動静など「
自然徴候
」から地震は予知できるという人(もう学者なんて呼んでやんない)がいます。これらのいずれかは相関性があるかも知れませんし、地震雲や発光現象は科学的に証明できる余地があるそうです。しかし、これらの現象が地震の際だけに起きる現象ではないことに注意が必要です。確度の低い予知では混乱が起きるだけです。例えば、発光現象が観測されても、地震が起きるのが、今日か、明日か、三日後か、十日後か、が分からなくては意味がありません。また起きたとしても、震度3以下であれば避難するに及びません。それをいちいち地震警報で知らせる意味は全くないのです。そんな予知ならするだけ無駄です。
地震の研究だけに限定すれば、かなりの成果が上がっているようです。火山帯と地震の関係、断層と地震の関係など膨大な観測データを処理することで、少しは見えてきたようです。しかし地盤や地殻の違いで観測される現象は大きく変わるようですし、普遍的モデルの構築は無理ではないかと聞いています。モデルが構築できない以上は、数値解析による予知など不可能です。地道なデータ解析は続けていただきたいが、地震予知のために国家予算を投じるのは止めていただきたい、と思います。
1万歩譲って数値解析に依存しない地震予知が可能だと仮定しましょう。しかし数値解析に依存しない以上は、常時多数の目撃証言を集めなくてはいけません。それらの証言の真偽を検証しなくては成りませんし、エリア的に広く緻密に集める必要があり、そのコストと時間は膨大なものに成ります。地震の及ぼす影響は広範囲に成りますから、観測に穴を生じては価値がないのです。また海底地震は検知できませんね。四方を海に囲まれる日本で海底地震を落とすのは価値無しです。しかし海底を常時監視するコストは地上の比ではありません。そこまでしてデータを集めても、「
何月何日に地震が起こる
」と正しく予知できなくてはコスト負担は無意味になります。途方もない話で国家予算から研究費を負担する愚かしさがお分かりいただけるでしょう。
現在の地震工学では、海底地震により沿岸部で津波が起きるかどうかさえ予測できません。津波の到達時間も尤もらしく発表されますが、これは最も早いと想定した場合の時間です。群発地震がいつ頃まで継続するか、これから大きな地震があるかどうかさえ分からないのです。そんな実状を省みず、地震予知が可能になると言っては騒ぎ出す人が問題なら、取り上げるマスメディアも問題です。
別に地震で身内を亡くした僻みばかりでもありません。どうも最近、地震予知のための人工衛星を打ち上げるという議論があるからです。先頃の軍事衛星と言い、どうも不況のダメージが大きい重電各社の救済に動き始めているのではないかと心配しています。それも胡散臭い人の意見で実行されるとなると、国民をバカにするなと言いたくなります。とりあえず関東大震災並の大地震が来るであろう時期を月単位まで予知できるようになってから、人工衛星などと言う議論を始めて欲しいところです。
98.11.02
補足1
本文中「自然徴候」と呼んでいるのは、正しくは「
宏観異常
」というのだそうです。地震と関係があるのかどうか分からないが、とにかく情報を集めてみようというページがあります。岡山の大学教授が解説しているPISCO(
http://www.pisco.ous.ac.jp/
:リンクはしていません)というページです。興味がお有りの方はご一読下さい。ただし地震の予兆かどうか判断するのは個々人に任せているとのことです。
99.01.21
補足2
政府・地震調査研究推進本部の政策委員会は、今後10年間の地震研究の長期計画を策定しました。これまでの直前予知から大幅に方向転換し、耐震性能の向上や素早い対応を図るリアルタイム防災など、「
被害軽減につながる技術開発
」に重点を置くというものです。極めて地に足の付いた研究で、高く評価できます。政治家さんたちは何というか分かりませんが。自称地震研究家も少しは減ってくれるかも知れません。
99.03.18