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政治の研究No.43
ハコモノ行政の限界

 ハコモノ行政という言葉を近頃耳にします。最近の公共事業を揶揄する呼び方ですが、ずいぶん定着してきたように思います。もともと箱物といいますと、箪笥や書棚のことを言いますが、要するに器モノばかり作って中身を作らない行政のあり方に対する批判であります。具体的にいいますとホールや美術館,博物館,図書館などを指し、広義には大型架橋やローカル新幹線、地方空港を含むとされています。もともと「公共事業とは社会資本を整備するもの」と定義されてきました。社会資本は、生産関連(道路、港湾、河川,工業用地)と生活関連(住宅,公園,上下水道)に大別される公共施設でありまして、公共の福祉向上と国民経済の発展を目指しています。ここでは地方自治体のハコモノ行政について考えたいと思います。

 この問題については、第25回土建事業では国難を救えない」で述べましたが、既に必要不可欠な社会資本整備は完了しており、これから整備しようとしているモノは不要不急のものが多いのです。例えば人口1,000人あまりの村に蔵書5万冊の近代建築タイプの図書館を整備したり、交通の不便な土地に500人収容の大ホールを作ったり、自然溢れる僻地にリゾート施設を建設したり、幅数メートルの三流河川を一級河川に指定して護岸工事をしたり、毎日1便しか飛ばない地方空港に国際空港並の滑走路を整備したり、客船入港の見込みがない漁港に桟橋を整備し観光案内所を作ったり・・・と意味のないことに税金が使われています。
 その悪弊の原因は国庫からの補助金にあります。ハコモノを作ると30%〜70%が補助金で支払われます。残りも地方債の起債で賄われることが多いです。つまり初期投資が小さいままで、要らないモノでも作りたくなるシステムになっています。また港湾整備などは複数の官庁から補助金が出るため、名目さえ付けばタダ同然で整備することができます。結果として地元に利益を誘導する手段としてハコモノが安直に作られたわけです。また1988年に始まった「ふるさと創生基金」は全国各地にハコモノを無計画に生み出す原因となり、1998年になって漸く見直しが進むそうです(複数自治体をまたぐ事業に限定するとか聞いています)。
 また全国各地で地方空港の整備が計画されています。すでに開設された地方空港の多くが赤字であり、赤字であるから便数を増やせず、便数を増やせないから利用客が増加せずに赤字が続く、というジレンマに陥っています。だからといって新規開設予定の地方空港が計画縮小や計画延期に踏み切ったという話を聞きません。おかしなモノです。また本四間連絡橋は、1999年にいよいよ広島−愛媛間が完成して三本目に成ります。すでに開通している二本の橋が赤字を垂れ流しているにも関わらず、結局完成を見るようです。驚くことは、さらに愛媛−大分間、和歌山−徳島間の架橋計画が早くも始まっていると言うことです。四国では高速道路の整備が急ピッチで進んでおりますが、こちらも予想したほどの需要はなかったと聞いています。

 行政でハコモノを作ることは、一応は景気対策になるでしょう。ただし本来淘汰されるべき弱小ゼネコンの救済や、有利子負債の圧縮に喘ぐ大手ゼネコンの経営支援に化けるだけかも知れません。しかしハコモノを作れば維持費が掛かることを、行政サイドは認識していません。彼らは計画を立てる際に事業費の計算や利用者数の予測を立てますが、事業費は極力小さく見積もり、利用者数は思いっきり大きく見積もります。したがって現実は、事業費が予算を大きく上回り、利用者が見込みを大きく下回り、その結果として毎年赤字を垂れ流すことになります。始めは物珍しさで集客できた施設も陳腐化したり、そもそも不発に終わってコンテンツを用意できなかったり、人件費の負担に耐えかねて閉鎖したり、と失敗しているハコモノは沢山あります。
 しかし生産関連の社会資本整備はそれ以上に深刻です。いくら補助金が出るとはいえ、自己負担額が大きく、今後の維持費もバカになりません。また別用途への転用も容易ではなく、閉鎖もしくは撤去するにしても莫大な費用を要します。しかも補助金事業で有れば簡単に手を引くことができません。作るのは簡単でも無くすのは大変なのです。こうした無駄が地方自治体の体力を疲弊させています。国もまた国債発行残高を圧縮できず危険な状況にあります。しかし行政は貪欲で、次々に公共事業の実施を打ち出しています。これからは無用有害な公共事業が増えるでしょう。かつてローカル鉄道の敷設が進められたように、現在高速道路や新幹線の延長計画が相次いでいるように、歯止めのないままに公共事業は肥大化しています。1998年に急速に悪化した消費不況は深刻です。行政は再びハコモノ行政の強化により不況を乗り越えようとしています。財政的に余力を失った地方自治体は悲鳴を上げ、補助金を押し込んででも事業を継続させようとする政府と駆け引きを始めています。

 わたしは聞きたい。なぜそこまで公共事業にこだわるのか?
 ほかに金の使い道を知らないのなら、無駄使いしないで返しなさい。
 無駄遣いを止めれば、自然体で減税できます。
 そうすれば景気も自然に回復します。

 すでにハコモノ行政は限界を迎えているのです

98.11.01

補足1
 ハコモノを作っても立派に頑張っているところはあります。成功した事例をいくつか列挙してハコモノ行政は誤っていないと強弁する声も聞かれますが、割合から言えば成功事例はごくわずかです。
 さらに言えば、ハコモノを作る際にどうすれば成功するかを真剣に吟味している自治体はいくつあるでしょうか。現場が頑張らなくては成果が出ない行政は明かに無責任です。まず成功事例をよく分析・吟味し、自己の例に当てはめるときにどんな問題が生じるのか、よく研究した上で実施していただきたいと思います。まず計画ありき、では失敗をして当然です。
 「責任を取れば良いのだろう」という首長や議員さんがありますが、責任の意味をはき違えないで下さい。個人が辞職したり自殺しても、責任を取ったことには成りません。自治体に与えた損害の全額を賠償してこそ、責任を取ったことになります。その責任が負えるのなら自由になさって結構ですが、負えないので有れば広く意見を募り全員の同意を得てから実施されることをお奨めします。

98.11.01
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