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政治の研究No.25
土建事業では国難を救えない

 「不況対策と言えば減税、減税と言えば法人税と最高累進税率の引き下げ」というお定まりのパターンがあります。今時調子の良い会社や高額納税者の税金を軽くすることが経済を活気づけるはずがありません。同じように「経済対策と言えば公共事業、公共事業と言えば土木・建築事業」という黄金のパターンも健在ですが、これももう役に立ちません。高度成長の時代は終わったのです。
 土建事業に直接・間接に関わっている人は日本勤労者の約20%だと言われています(ちなみに公務員と関係団体職員は日本勤労者の10%と言われています)。土建事業が10%減少したら失業率が2%上昇する計算に成ります(実際はそんな単純ではありませんが)。土建事業の減少が日本の失業率を押し上げているという意見があり、これはご尤もな意見であります。しかし、失業対策に公共事業を拡大しようと言うのは誤りです。理由は二つあります。(1)公共事業費の拡大が再雇用対策にはならないこと、(2)もはや経済波及効果を生み出すほどの公共事業は存在しないこと、の二つです。

 まず、再雇用対策ですが、現状でもゼネコン各社のピラミッドには過剰な人員が抱えられています。また莫大な有利子負債を爆弾として抱えています。この状況では多少公共事業が増えたからといって労働者を新たに雇い入れる動機には成りません。また収益が多少増えたとしても、全て金融機関への元利払いへ消えてしまいますから、労働者の手取り給与も増えません。むしろ最小限の人員で、最短の工期で作業を進捗させようとするため、手抜き工事や過剰労働の危険があります。手抜き工事については未だにチェック体制が整っていませんから、ドブ金になるのは間違いありません。また資材産業も在庫がダブつき気味だから増産になることはなく、雇用が拡大するとは思えません。在庫負担が軽くなる分だけ楽には成りますが、やはり金融機関への借入金返済の原資になるのがオチでしょう。バブル時代に抱え込んだ不良在庫や焦げ付き債権が有る限り、公共事業費の拡大が再雇用対策に成ることはありません。
 つぎに、経済波及効果ですが、かつては高速道路建設や架橋、護岸工事に河川工事、そして上水・下水工事は経済波及効果を生んできました。交通網や物流環境の整備が物資の流通をスムーズにして新たな需要喚起に繋がってきましたから、高度成長はあり得たのです。ところが、もはや莫大な波及効果を生じるような公共事業があるとは思えません。例えば明石大橋や瀬戸大橋の問題があります。本州と四国の架橋は最低一つは必要でしょうが、三つも必要かと考えれば明らかに異常でありましょう。現在、本四間を移動する物資量を輸送するためには、一本の橋で充分に間に合うはずです。それを四国三県のそれぞれを本州と結ぶという横並び事業のために、巨額の資金が投入されています。また事業費が著しく膨らんでいるのに事業見直しを行わないため、利用料が高値になり利用者が減少するという問題を生じています。三橋が全て開通すれば、どの架橋も赤字が膨らんで事業継続が困難となる恐れが高いです。そのほか一般河川の架橋でも意味もなく掛け替えが行われており、経済波及効果は全くありません。道路・空港・港湾の各事業においても、その需要と利用者予測に疑問のある事業が多く、土建業者を救済するためだけに事業が行われている観があります。河口堰問題も同様です。

 北海道では拓銀破綻に始まって沈滞経済に陥っています。北海道経済を事実上支えてきたのは拓銀であり、拓銀に代わって道内企業に融資できる銀行は不在であります。拓銀が北海道企業への融資のみに特化して居ればこんな事態にはならなかったでしょうが、今更言っても始まらないでしょう。政府は、北海道の経済危機を救うために再び公共事業カードを切ろうとしています。現在でも国の公共事業費の10%が北海道に注ぎ込まれています。これに更なる事業費を補正予算により上乗せしようというわけです。確かに道内の土建企業は瀕死の状態にあります。民間需要が全く冷え込んでいるためですが、潰れるべき企業が潰れていないため(支えていたのは拓銀です)、どの企業も瀕死の状態なのです。手早い方法としては合併を促すことですが、道内は広く相互補完や規模拡大のメリットが働く企業合併は難しいようです。銀行や道庁が主導で任意整理に乗り出す方法もありますが、資本主義論理に反するので実現は難しいです。仕方なく公共事業費をばらまいて彼らを瀕死のまま生きながらえさせることになっています。
 公共事業費が経済波及効果を生まなくなったことは既に述べたとおりです。北海道はとくに雇用対策のために公共事業を続けてきましたから、とくに有効な投資が見当たりません。相変わらずの護岸工事と港湾整備、そして幅員の広い自動車道の整備、そして第24回の苫東があります。ただただ資材を費消するだけの事業が繰り返されてきたのです。これらの巨額の資金が北海道における新産業振興に使われていれば、今日のような北海道経済の沈滞はありえなかったはずです。苫東周辺の護岸工事だけで2,000億円です。これを原資として特例法による法人税負担の軽減を図れば、本州からの工場移転なども進んだはずです。極端な話、北海道を「アジアのタックスヘイブン」とする手もありました。
 今となっては遅きに逸しましたが、繰り返し公共事業費、とくに土建事業費依存の北海道援助を止めて、抜本的な北海道経済建て直しに頑張っていただきたい、と思います。これは北海道に限らず、本州でも同様の話です。ゼネコンや金融機関を救済することにのみ逐われていないでしょうか。30兆円もの金があるならもっと直接的で有効な経済対策を取ることが出来るはずなのですが・・・

98.07.24

補足1
 今の公共事業拡大による不況対策を米国のニューディール政策に重ね合わせる政治家があるようですが、根底から認識を誤っています。F=ルーズベルト大統領の政策は政府主導で大規模な公共事業を行うものであると同時に、テネシー川流域開発、農業調整政策、産業復興計画は当時の米国にとって必要な事業でありました。国が直接労働者を雇うわけだから雇用対策になるし、大きな経済波及効果も見込めるという壮大な計画であったのです。そしてこれを契機に連邦政府の権限が強化された点も見逃してはいけません。日本の現状とは全く違うのです。

98.07.24

補足2
 北海道は7月1日、長期間停滞している公共事業を見直す時のアセスメントで国の補助事業である白老ダムとトマムダムの中止を提言されました。計画当初に見込まれた水需要が当分ないことが確実であるため中止すべきと判断したものです。良い傾向だと言えるでしょう。

98.08.02

補足3
 8月18日、政府は矢作川(愛知県)の河口堰建設問題を休止すると発表し、中止へ向けて検討すると発表しました。護岸工事や治水工事は継続するとのことですが、生態系の破壊も最小限に留まる模様です。良い傾向といえるでしょう。

98.08.19

補足4
 苦しいはずの建設業界ですが、建設労働者の一人当たり賃金は、高水準にあります。公共事業で嵩上げして貰っても、そのために必要な労働者が安価で手に入らないと言うことなのでしょうか。そうであれば、むしろ公共事業も縮小してゼネコンを整理する方が健全だという話になります。公共事業を減らすと多くの建設労働者が溢れてしまうというのも、意外に幻想かも知れません。
 週刊エコノミスト2001/05/22号に、建設労働者の平均日当(全国平均)が紹介されています。1989年に16,500円、1990年に18,000円、1991年に19,500円、1992年に20,500円、1993年に21,000円となっています(500円単位で丸めました)。ここで一応はバブル崩壊ですが、1997年まで一貫して上昇して22,500円の高水準です。建設不況と言いながらも一度上げた労賃をカットできないのでしょう。1998年はやや減少していますが、これは大規模な公共事業にブレーキが入ったことと関係があるようです。

01.05.20

補足5
 島根県は、現在凍結中の中海・宍道湖淡水化事業を中止するそうです。足かけ40年間、850億円の事業費を費やした大事業でしたが、事業の必要性が薄れたというのが理由です。
 当初計画では、日本海に面する塩湖である中海と宍道湖を淡水化し、付近への農業用水確保を行うことと、一部を干拓して農業用地を拡大することが目的でした。しかし、淡水化に伴う水質悪化の懸念が住民の反対運動を生んだことや、溜池などを整備して農業用水確保が達成されたため、中止だそうです。隣接し、同じく受益予定者を抱えている鳥取県とも調整するとのことです。

02.11.30
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