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政治の研究No.07
労働組合と組合員の仁義

 いきなりスケールの小さい話で恐縮ですが、労働組合についてです。

 我が国の労働組合は、オープンショップ制が採用されています。つまり「労働組合の加入・不加入が労働者雇用の条件ではなく、労働組合への加入は労働者の任意であるとする制度」(大辞林)であります。これに対して、「特定の労働組合に加入していることを労働雇用の条件とし、脱退・除名で組合員の資格を失うと解雇される制度」のクローズドショップ制、「労働者は雇用されてから一定期間内に特定の労働組合に加入することを要し、組合員たる資格を失ったときは雇用者から解雇される制度」のユニオンショップ制があります。業界レベルでの統一労組が組織されているアメリカなどでは、クローズドショップ制、ユニオンショップ制を採用している労使が多いと聞きます。

 本来であれば日本にもクローズドショップ制があっても良いはずです。しかし一時期盛り上がった組合旋風を恐れて、大手企業の多くは第二組合(いわゆる御用組合)を設立し、過激な第一組合を押しつぶした経緯があります。この過程で、第二組合は良い意味で優遇され、悪い意味で懐柔されました。全ての企業で第二組合が幅を利かせたわけではありませんが、業界での急先鋒を務める組合の多くが弱体化し、最終的には消滅しました。悪名高い例では日本航空の例があります。経営者側から見れば強力な労働組合の存在が望ましくないため、クローズドショップ制という強力なアイテムを組合に渡しませんでした。また高度成長期が終わると、労働組合側も先鋭化する必要性が失われました。

 未だに労働条件が悪い職場は沢山ありますが、普通に労働組合が機能する規模の企業においては、食生活にも困るほど困窮した従業員というのは無くなってきました。このため、組合の論点が毎年のベースアップと不当労働強化防止と不当解雇反対に関する行動に限定されてきています。このため一組合員として強く主張すべき論点はぼやけ、悲壮感も薄まりつつあります。結果として組合組織率は低下し、その足下を見透かして経営者サイドが強気に出ることも多くなりました。一例として、リストラを名目とした退職勧告や大幅な賞与カットがあります。しかし、経営者サイドも組合の弱体化は望ましくないありません。組合が労働者の最大公約数の意見を集約する機能を失うと、経営効率が低下する恐れがあるためです。

 ともかく、組合組織率の低下は労働組合にとって重大な問題です。そして経営者側もある程度の組織率は維持して欲しいのが本音です。そこにユニオンショップ制への期待は在って良いのではないかと思います。ただし組合を離脱したとたんに解雇というのは日本文化に馴染まないので、一旦は組合に加入しさえすれば良いとする条件緩和型ではどうでしょうか。その代わり一旦離脱した労働者の権利保護は一切組合で受け付けず、今後の再加入も認めないとすることは重要です。
 前述のように一組合員として主張すべき論点が失われた結果、組合員は組合費の支払いに対価を求めているように見受けられます。組合をサービスの一つと捉え始めているのです。そのため生協運営や通販代行などを強化する労組もあるようです(先日に消費税追徴を受けた企業もあった)。そして組合員のニーズからかけ離れた組合活動にストップをかけ始めてもいます。例えば特定政党や候補への支援、業界も系列も違う他労組の支援、平和活動などに対する若手組合員の批判も多いです。また組合費の年齢別傾斜配分負担でなく、頭割り一律負担を求める年輩組合員も増えつつあります。これらを調整する能力を組合の執行部は求められています。

 ユニオンショップ制の導入などに拘るのは、最近の非組合員のただ乗り批判を考えるからです。日常は組合の活動に批判的で、組合費を払って組合行動に参加する他人の行為をアザ笑いながら、一身上の問題が生じると組合に泣きつくような非組合員が少なからずいるように思います。労働組合と組合員の努力によって年次休暇が増えたり、ベースアップが可能となったりしますが、彼らは資金も役務も果たすことなく、当然の権利として組合員が勝ち得た果実を掠めていきます。それ以上に、自分の行動がが知恵者の行為であるかのように嘯く者さえもいるのです。
 そうした我が儘に対しても、組合は暖かく接しています。彼らが問題を持ち込んでくれば組合加入を条件に救済の手を差し伸べ、問題解決ののちに彼らが再び組合を去ろうとも制裁を加えません。そんな善意的な組合が我が国には多いのではないでしょうか。彼らの組合加入を認めるなら、彼らの同期たちが負担してきた資金と役務を果たさせるのが当然ではありませんか。不遜な態度を取り続けてきたのであれば、充分な詫びを入れさせるべきではありませんか。

 オープンショップ制の労働組合が悪いのではないですが、現在の労働組合が思想的にも弱体化しています以上は、ユニオンショップ制でも導入して力ある組合の組織化に取り組むべきではないのでしょうか。そう、真剣に考え始めています。

98.02.28

補足1
 労働組合の凋落が目立つそうです。労働組合の組織率は、1975年の34.4%をピークに、年々下落しているようです。2000年は21.5%となり、このままでは、労働者の代表という地位も怪しく成りそうです。絶対人数ペースでも、1994年の1,270万人から、2000年の1,150万人にまで激しい落ち込みを見せています。
 組合員数の減少は、リストラや倒産の影響とばかりも言えず、構造的なものという見方が定着しつつあります。組合組織の近代化や、現行の高い上納金方式の見直し、フリーライダーへの対抗策など、取り組むべき課題は多いようです。

01.02.17
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