劇団四季の「マンマ・ミーア!」を二度観ました。ブロードウェイで大ヒットを飛ばしていたこともあって、非常に面白い作品です。「コンタクト」はスケールが小さく物足りませんでしたが、今回は巧く行っている感じがしました。
ABBA?
ギリシャのとある島に生まれ、父親を知らぬままに育った、ソフィー。彼女の母親ドナは、女手ひとつで娘を育てて、いまだ未婚。なのに、娘は二十歳で流れ者の好青年と結婚することに! 純白の結婚式にこだわる彼女には、ひそかな野望が・・。脚本だけでも楽しめますが、そこに昔のミュージック・グループ「ABBA」のヒットソングが鏤めてあるという異色作です。
そもそもミュージックが適当にあって、これをツギハギして成功した作品は、多く知りません。有名な作詞家や作曲家の名ナンバーをツギハギしたレビュー擬きは多いものの、やはり徹する作品は少ないです。鳴物入りだった「クラス・アクト」も、作品の出来は今一つでした。そういう意味では貴重な作品なのかも。それにしても、ABBAというグループをご存じでしたか?
「ダンシング・クイーン」は知っていましたが、今一つ記憶にありませんでした。まだ若いですから、私!(笑)。ところが、コレクションのCDを探すと、次々に見つかりました。グループサウンズのベスト版みたいなものに、数曲ずつ。そういえば、耳慣れた曲もありましたね。ヨーロッパで大ヒットし、アメリカや日本でも遅れてヒットしたらしい。四季劇場に来ていたオヂサンとかが、妙に詳しいのには驚きましたが・・。
保坂の名演技
保坂のドナ役が、愉しめます。「アスペクツ・オブ・ラブ」のローズは、熟年女性を演じていました。しかし同時に、「異国の丘」の愛玲、「夢から醒めた夢」のピコなど少女も演じていました。娘ソフィーを演じる樋口とダブルキャストということもあったぐらいです。弾むような語り口調、元気に跳ね回る姿など、実年齢を感じさせない若い役柄を演じていましたので、少し違和感がありました。
ソフィーの父親かも知れない三人の男性(ドナも真相が判らない)を迎え、昔を思い出しドギマギする。あるいは、昔トリオを組んだ仲間でとライブショーを催す。自分が切り回すホテルの若い使用人たちを、上手にあしらう。そして、母親らしく娘の身を案じる。そして意外にも、古風の人。ヒロインの樋口を抑えて目立っているな、と思うと・・。幅の広い演技力に魅せられます。
残念ながら、よい歌唱は「ザ・ウィンター・テイクス・イット・オール」一曲だけです。しかし、情感をよく籠めた見事なものです。ブロードウェイ版CDと聞き較べると、物足りないソングナンバーが多く、惜しまれます。「マネー・マネー・マネー」も「マンマ・ミーア」も、バックコーラスの為かパワー不足を感じます。前述のCDには完全邦訳が付いており、劇団四季が超訳していることも判ります。字余りフレーズは少ないものの、舌足らず気味。音韻も踏み切れていない感じがしました。
樋口の名ハッスル
樋口のソフィー役も、面白いです。スリムボディのヘソだしルック、弾むようなダンス、髪を振り乱してのハッスルぶり。真摯な姿勢に好感が持てますが、強張った表情はマイナス点。表情や仕草をよく研究していて可愛いものの、セリフ口調には難を感じます。夫となる阿久津へのアプローチに、余所余所しさも感じますし、女友達と呼吸が合わないのも問題かと。ポスト保坂として、頑張って欲しいものです。
ソフィーの父親役の三人も、味があります。ダブルキャストの役もあるものの、個性が描き分けられてあって、演技は上手いです。しかし、歌唱には難が多く、手を広げすぎた劇団四季なりの限界を感じさせます。今回の作品では、公開オーディションで配役を決めたこともあって、外部登用者が多くあります。元四季の俳優も加わっています。今後に期待ということでしょうか。
ABBAを知る人は当然ながら、知らない人も楽しめる作品です。ロングラン決定ですが、初夏あたりのチケットは売れ残りも多いようです。口コミで、もっとお客様が集まっても佳い作品だと思います。カーテンコールに代えての「コンサート」は、悪ノリの感じもありますけれど、なかなか盛り上がります。
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